保護者
「あなたの教育方針を変えさせるつもりはないが、過剰に命を摘み取り過ぎなんじゃないのか」
煙草のにおい。くたびれた鞄を片手に黒いフードを目深に被った男の表情は窺えないが、声色からして苦い顔をしているに違いない。
「つい話に花が咲いてしまって。ダースと話すのは楽しいんです」
漫画の中でも恋する乙女が花を千切っては恋を占うではないか。蝶の羽を奪う感覚としてそれが一番近かった。
「しかし、ニヒルさんの言うことにも一理あります。つい年甲斐もなくはしゃいでしまいました。こんなどうしようもない感情ですら、あの子はわかろうと意識を傾けてくれるので。そして、あなたはそれを見て、いつも私を咎めに来てくれる」
根づいたら枯れるか摘まれるかしかない綺麗なだけの花が好きだ。囚われたら逃されるか弄ばれるしかない虫も好きだ。
人が好きだ。人は花にも虫にも見える。
「ニヒルさん。教師とて人間です。時には誰かに道を正してもらいたくなる」
煙草の煙をかき分けて手を伸ばす。相手はもう踵を返していた。
「そうだとしても、その誰かは俺やダースじゃないと思う」
ささやかな会釈を残し、彼は去っていった。
花は枯れる。虫は食われる。人は死ぬ。末路はみな決まっている。
彼らはどうなのだろう。
彼らは違うのだろうか。
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