第19話 チフユ


 ダイスケに呼ばれて王城に来ている。

「ダイスケ、はいるぞー!」

「やぁ、イチヤ、よく来たね」

「呼んだのお前だろ?」

「そうだけどね、まぁ座りなよ」

 いつにも増してふくよかだな。

「クーラーありがとう。死ぬとこだったよ」

「そりゃどうも、死なれちゃ困るよ」

「イチヤは優しいなぁ」

 ダイスケはお菓子を食べながらそう言うと、俺にも分けてくれる。

「お、いただき」

「僕のスキルを話しておこうと思ってさ」

「ふーん。なんで?」

「僕はどうせ帰れないからさ」

 は?帰れない?

「何言ってんだ?帰ろうぜ!帰れるなら」

「僕は自分が死んでると思うから、いじめられてて自殺したんだ。学校の屋上から」

「は?じゃあなんで?」

「救急車が来て運ばれている間にあの空間にいたんだ。だからみんなと違うと思う」

 え、俺は気がついたら平原にいたぞ?いや違う、気づく前はあの空間でその前は?

「あれ、もしかして自分がどうやってあの空間に来たのか分かってない?」

「あぁ、分からない、なんであの空間にいたんだ?」


「みんなわかってないのかもね」

「たぶんな、ダイスケは分かってたんだな」

「うん、だから帰れないよ」

「でも、わかんないだろ?このままの身体で帰れるかもしれない」

「そう、でも僕は帰りたくないんだ。またいじめられるかもしれないから」

「いじめられないようになればいい!手伝うよ」

 そんなに悩むくらい虐められてたなら俺が行ってやる。

「ありがとう。でも大丈夫。僕はもういじめられない、この世界にいるからね」


「それじゃなにも変わらないし変えられない!ダイスケもここで食べてばっかりじゃダメだよ」

 もっと太ったらそれこそ生きていけなくなるだろ?

「ごめん、僕は今が一番幸せなんだよ」

「もっとあるだろ?女の子だったり、いまタクヤが作ってるバイクに乗ったりさ、いろんなことしようよ!一緒にさ!」

「うん、うん、ありがとう。僕なんかのために」

 泣きながらお菓子を食べるのをやめると、

「僕の本当の姿を見て笑わないでね?」

「本当の姿?」

「解除」

「へ?女の子?」 

 黒髪ボブカットで目が隠れるくらいの前髪の痩せた女の子。

「うん、僕は元々女なんだ。これが僕の本当の能力、変身の能力なんだ」

「なんだ、普通に可愛いじゃないか!心配して損してはないか」

「え。おかしくない?」

「ちょっと痩せすぎかもしれないけどおかしくないよ」

「そうなんだ。よかった」

 なんだ、普通の女の子じゃないか!いじめた奴らは許せないな!

「俺がいじめた奴らをけちょんけちょんにしてやるからな!」

「うん。うん、ありがとう」

 また泣いている。

「よしよし。もう大丈夫だ!」

「うわぁーん」

 俺の胸で泣いているのでそっとしておく。


「落ち着いたか?」

「う、うん。ごめんね」

「大丈夫だ!ダイスケって?」

「飼ってた犬の名前、本当は千冬っていいます」

 ペコリと頭を下げるチフユ。

「あはは。飼ってた犬の名前かよ」

「もう。笑いすぎ」

「あははは、ごめんごめん」

「もう、あはは」

 チフユも笑っていた。


「なんで変身なんてとったんだ?」

「だって、自分が嫌だったから」

「可愛いから虐められてたんじゃないか?」

「え、可愛いなんて」

「ほんとだって、自信持っていいよ!」

「ほんとに?」

「本当に!」

「なら頑張る!」

「おう!俺も応援する!」

 ちゃんとチフユが頑張れるように助けてやる。


「あとは何取ったんだ?ポイントで?」

「変身に三百、弓術に百、アイテムボックスに三百、あと、鑑定と料理で三百」

「へぇ、一応ちゃんと考えて取ってるじゃん」

「うん、変身がなかったらすぐに殺されてたけど」

「なんで?」

「オークの巣に転移したから」

「おぉ、それでオークに変身したのか?」

「うん、それで逃げてあの姿になったの」

「そうか、もう大丈夫だな!」

「うん!で、で、私も仲間に入れてくれないかな?」

「うん?もう仲間だろ?」

「違くてイチヤ達の仲間に」

「あー、いいよ!アカネはしってるよな?」

「あのうるさい子でしょ?」

「いるけど大丈夫か?」

「うん、大丈夫」

 なら、他はいいか。

「俺は大歓迎だよ」

「やった!よ、よろしくお願いします」

「あぁ、んじゃこんな部屋から出て行こうか?」

「うん!私も強くなる」

 ふんす、と力瘤を出すチフユ。

「あはは、俺もサポートするからさ」

「うん!」


 こうしてチフユが仲間になったが、家に帰ってからが大変だった。


「誰じゃ!」

「そうです、だれですか?」

「アカネとシータはあったことあるよ」

「え?うそうそ!誰だっけ」

 ここでチフユが返信する。

「デブじゃん!」

「あぁ、ダイスケでしたか?」

「そう、変身の能力をもってる、ダイスケ改めてチフユって言うんだ」

「そう、デブじゃなかったのね!ブスって言われたけど!」

「あれはあなたがデブデブうるさかったから」

「悪かったわよ」

「こっちこそごめんなさい」

「んじゃ、チフユの部屋を決めましょう」

「どーせ部屋が空いてるのってあと二部屋だろ?」

「そう、どっちでもどうぞ」

「じゃあ。そっちで」

 俺の部屋の下だな。俺の部屋は二階の真ん中、右側がミルスで左側がシータ。んで下の三部屋の左端がアカネで真ん中にチフユか、

「我はしらんぞ!」

「はいはい、教えてあげるからさ」

「なんじゃ!膝に乗っけてくれるなら聞くが?」

「分かったよ」

 ミルスを、膝に乗せて話をすると、

「チフユは大変じゃったのぉ!」

 と泣き出してしまった。

 アカネは神妙な顔をしているし、シータはチフユと喋っている。

 大変になって来たなぁ。

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