第16話 ギルマス


 帰り道でなんとか逃げ出せた冒険者達が泣いているのが見て取れた。だから嫌なんだ。最初からもう少し集めておけば良かったのに、集まりきらずに俺に頼ってきて断られたから強行突破するなんて愚の骨頂だ。


 ギルドなんてそんなもんなんだろうけどもう少し安全を考慮してもいいと思うがな!

「なんか怒ってる?」

「あぁ、やっぱりあれじゃ無理だったんだ」

「あぁね、ジェネラルは強かったしね」

「アカネは魔法が強くなったね」

「当たり前!魔法使いだからね」

「まぁ後衛だから残ってもらったんだけどな」

「まぁ、いいってことよ」

「さすが男前!」

「おう!」

 アカネと戯れあいながら帰る道では冒険者の痛々しい姿があった。


 ギルドでは酷い有様だった。

 そこらじゅうで怒鳴り声が響き渡り、怪我を治しても冒険者はもう無理だろうと言う人もいた。受付のお姉さんは青い顔をして対応していたが既に泣きそうになっている。


「静かにしろ!」

 ようやくギルマスの登場か。

「お前達は冒険者だろ?ケガをしたのは自分の責任だ」

 よく言えるなぁ。


「あんたがオークの巣を討伐するのに六十人で大丈夫って言うからみんな行ったんじゃないか!」

「そんなこと言ってない!死傷者が出て当たり前だ」

「ふざけるな!倍はいたんだぞ!」

「それは受付の報告が甘かったからだろう」

 受付のお姉さんは青い顔をしている。

「俺が受付に報告したんだけど」

 俺が出るしかないか。

「おぉ!じゃあお前の責任だな!」

 ギルマスは責任転嫁のいい奴が出てきたと思っているだろう。

「ちゃんと百体以上いてジェネラルまでいましたと報告したが?」

「そんなことは聞いていない!」

「お姉さんは言ったでしょ?」

 受付のお姉さんは深く頷く。

「ほら言ったってさ、耳でも詰まってるの?」

「私が誰かも知らないでそんなことがよく言えたな!」

「俺は渡り人だから知らないけど偉い人なの?」

「えっ!あ、え!?」

 その時団長が走ってきてくれた。

「おいお前!今の話に嘘はないだろうな!」

「お、王国騎士団?!」

「ありがとうございます団長」

「いえ、これは我が国の問題ですから!」

 さぁ、どうするんだギルマス?

「わ、私は悪くないぞ!報告が間違ってたからだ!」

「渡り人のイチヤが報告をして、今日の討伐は危なく感じたんだと言って来た。お前が少ない人数で行かせたからだろう」

「いや、受付の報告が」

「私はきちんと報告しました!討伐隊が揃ってないのに行かせようとしたギルマスも止めたんです」

 受付のお姉さんもようやく立ち上がった。


「嘘だ嘘だ!そんな事あるはずがない!」

 もういいかな?

「ジェネラルは俺たちが討伐した。かなり強くて危険だったよ」

「イチヤ!怪我はないか?」

 団長が俺を心配する。

「大丈夫ですが、俺らは草原で狩りをやっていた。冒険者達が引き連れて来たんだ」

 ギルマスの顔が青くなっていく。


「勝てる勝てないの判断はギルマスがしないといけないだろ?なのに王都にオークが来ることになった原因を作ったのは貴方だ!」

「ちがう!俺は何も聞いてないし、冒険者が引き連れて来たんだ!俺は悪くない!」

 もう錯乱状態に陥ってるな。


「王国法に基づき、王都を危険に晒したギルドマスターを捕えろ!」

「「は!」」

 騎士団がギルマスを捕らえて連れて行く。

新しいギルマスは副ギルドマスターがやることになった。


「それにしてもジェネラルを倒すとは流石ですね」

「アカネと二人でなんとか、それにしても団長ありがとうございます」

 アカネに団長を呼んで来てもらったのだ。

「私には何もないわけ?」

「悪かったよ、ありがとうアカネ」

「べ、別にいいけどさ」


「しかしジェネラルのいるオークの巣に冒険者六十だと少ないでしょう」

「その倍は欲しいところですね!それでも怪我人が出るかどうか」

「オークの巣は壊滅したんで大丈夫ですよ」

「え!」

「ジェネラルを討伐したあとに残りの冒険者と巣に囚われた人を救いに行ったんです。そこであらかた片付けたので残りの冒険者でも大丈夫でしょう」

「それはありがたい」

「そろそろ帰ってくる頃じゃないですかね?」

「ギルマスの処分はお任せください。王都の危機を排除してくれて感謝します。ありがとう」

 団長は頭を下げる。

「いえいえ、降りかかる火の粉を払っただけですから」

 本当に今回はやばかったな。アカネと二人でやっとだったもんな。


「オークの巣討伐完了したぞ!!」

「「「おおおおおお」」」

 傷ついた戦士達の帰還だ。

「おう!お前は帰って来てたんだな!ギルマスをぶん殴りたいんだがどこにいる?」

「もう連れてかれたよ!殴れなくて残念だね」

「くっそ!だけどその分、副ギルマスに労って貰えばいいさ!」

 副ギルドマスターは青い顔が白くなっていっている。六十人居たんだ、金が飛んでいくだろうな!

「そうだな!今日は副ギルマスの奢りだな!」

「そうだそうだ!」

     「呑むぞー」

   「早く酒持って来いよ!」

 ははっ!現金なもんだな。

「イチヤ、危ないから冒険者なんかやめた方が」

「やめませんよ?俺は冒険者だから」

「わたしもー!」

「そ、そうですか、ならしょうがないですね」

 団長は心配してくれているがここまで来て冒険者辞めれないよ。


『カンパーイ!!!』

 エールが沁みるねぇ!

「あ、帰って来てる!ねぇ!なんで?」

「イチヤ!我は心配しておったのじゃぞ!」

「私だって心配でギルドまで来てみたのに!」

 シータとミルスの事忘れてた。

「いや、これはだな、今ようやく片付いて」

「問答無用!」

“バシバシ”


 顔に紅葉が二枚ついたがエールで流し込んでいまはこの昂りを楽しもう!

「カンパーイ」

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