第13話 ヴァンパイヤ


 平民街の一角にその建物はあった。

「良いじゃないか!これくらいでいいんだよ!」

「そうね!これならみんなで維持できるわ!」

「私達の愛の巣!」

 一人間違ってるけど、これくらいの大きさが丁度だな!

「行くぞ!」

「ラジャ」

「はい」

 中に入ると意外にも綺麗にしている。

「誰じゃ?ワシの家に勝手に入ってくるのは!」

「ヴァンパイヤ擬き?」

「もちろんヴァンパイヤじゃが!なにようじゃ!」

 ただの爺さんの様に見える。

「冒険者ギルドの依頼で倒しに来た!」

「ぶわはっはっ!奴らまだ分からんのか?ここは私の住処だとボロボロにしてやったと言うのに!」

「良かった、家に住んでるだけの爺さんかと思ったぞ?」

「はぁ?痛い目に遭いたくなければ出ていくと良い、出られればだけどな」

 バタンと後ろの扉が閉まりカーテンが勝手に閉まる。

「アカネ!」

「ライト」

「ははは!なんじゃそのしょぼい魔法は?」

「クイック、シャープネス」

 バフをかけられた俺は老人の背後に周り斬る。

「グォォ!」

「まだまだ!」

「シャー」

 爺さんはコウモリに分裂して階段中央に集まり戻る。

「く、傷を受けるとはな」

「ノーダメっぽいな?」

「もっと切り刻んだら?」

「それでいくか!」

 まだバフは効いているので、また背後に回って剣を振り、めった斬りにする。

「グアアァァァァア!」

「ここか!」

「銀のナイフを取り出して心臓に突き刺す。

「ア……ァァァァア」

 ヴァンパイヤ擬きの爺さんは灰になってしまった。

「勝ったのか?」

「勝ったみたいね、扉も開くし」

「思ったより弱かったぞ?」

 ビックリするくらいに。


「最近は腰を痛めていたからのう」

「誰だ?」

「わしはヴァンパイヤのミルスじゃ!」

 幼い子供の様な子が出てきた。

「こいつも討伐すんの?まだ幼いんなさだけど」

「いや、戦うならそうするしかないんじゃないの?」

「ワシは戦いは好まぬ、この家に住みたければ住めば良いがワシも住むぞ!」

「へ?」

「じゃからワシも住むって言っておるのじゃ!」

「なんであんたも住むのよ!出ていきなさいよ!」

「だって!ワシの家に勝手に入ってきたのは主達じゃろうが!」

 まぁ、そうだけどさ。

「ここはお前の家じゃないだろ?なら出ていくのがスジなんじゃないか?」

「いやじゃ!わしはこの家から出ないのじゃ!」

 さぁ、どうしようかな。

「一緒に住むのはどうですか?」

 シータがそんなことを言う。

「でも討伐は?」

「さっきのヴァンパイヤ擬きの魔石がありますし、流石にこの子を倒すのはちょっと」

「だよな、ちょっとな」

 涙ぐんでスカートの裾を握ってるヴァンパイヤのミルス。

「わかったよ、泣くな。ここに住んでも良いけど俺らも住むぞ?」

「それなら良いのじゃ」

 涙を堪えて鼻を啜る。

「なら討伐成功でギルドに伝えにいくか」

「わ、ワシも冒険者になるのじゃ!」

「は?」

「それならみんなと一緒じゃろ?」


 しょうがないからギルドに行き討伐証明に魔石を出すと家の権利書を貰う。

 そして、ミルスの冒険者登録は、

「痛っ!ちくっとしたのじゃ!」

 と俺の後ろに隠れる。

「大丈夫だから、すぐ治るからな」

「はい、ミルスさんの冒険者登録が済みました。説明は?」

「俺たちでしますよ」

「なら良い冒険を」

「はい、ありがとうございます」

 ミルスは俺の手を握って離さない。そして、ドックタグをチラチラ見て嬉しがっている。

「ありがとうなのじゃ」

「どういたしまして」

 パーティーに四人目が加わった。

 家に帰ってくると、ミルスが案内し出した。

「ここが我の部屋じゃ!」

「一番良い部屋じゃないのさ!」

「イチヤー!アカネがいじめるのじゃ」

「まぁまぁ、アカネも大人気ないぞ」

 ベーっとアカネに対しては当たりがキツイミルス。

「でこっちがイチヤの部屋じゃ」

「おお。ちょうど良い大きさだな」

「そうじゃろ!で。こっちが、シータの部屋じゃ」

「イチヤの隣ですね!嬉しいです!」

「アカネはここじゃ」

「掃除用具いれじゃないのさ!ふざけてると討伐するわよ!」

「怖いのじゃ!イチヤぁー」

「冗談だろ?ミルスもちゃんと案内してあげような」

「うん。こっちじゃ、ここがアカネの部屋じゃ」

「うん!ここなら文句はないわ!」

「ケッ!」

「なによ?」

「本当は豪邸に帰れば良いのに!」

 ミルスにはここに来た経緯を話してある。

「な!嫌よ!私はここに住むんだから!あんたこそここに住む権利の無いくせに!」

「イチヤァ!」

「まぁ、この四人で住もうじゃないか、なかよくしてな」

「まぁ、イチヤが言うなら」

「そうじゃの」

 よし、団長に家の事を言いに行かないとな。


「なぬ、本当ですか?あのヴァンパイヤを倒したと。さすがですね。で?あの豪邸は要らないんですか?だれかほかの渡り人に?そうですか。わかりました」

「本当に申し訳ないです」

「いえ、気に入ってなかったのは知ってますから。何かあればすぐに私に報告してくださいね」

「はい!何から何まで本当にありがとうございます」

「いえ。仕事ですから」

 と団長と固い握手のあと別れて、みんなで夕食の買い出しをして料理をする。

 ミルスは意外にもなんでも食べれるらしいが、ピーマンが苦手らしい。

「こんどピーマン尽くしにしてやろうかしら?」

「大人気ないぞ?」

「これだから男ってのは!」

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