第9話 好待遇


「完・済!」

「おー、おめでとうございます!」

「いやぁ、肩身が狭かったわぁー」

「嘘つけ」

「でも、ありがとね!」

 アカネが無事借金を完済した。

 これでアカネもパーティーメンバーって今更だけどな。

 

 で、今更だけどシータには俺らのことを言ってなかったので言うことにした。

「と言うわけで俺たちはこの世界に連れてこられたんだよ」

「でたわ、必殺の『と言うわけで』が!」

「今更感はありますが、わかってましたよ?渡り人なんですよね?」

「「渡り人?」」

「世界中に渡り人がくる時が数100年に一度あるんですよ、文献にも載ってますし、そこらの子供でも親から聞いて知ってますよ?」

 シータは何事もなくそう言っているが、

「いや、俺たちは初めて知ったぞ?」

「そうそう!黙ってないといけないもんだと思ってたわ」

「黙ってたほうがいいですけどね、王宮に招かれたり、拉致されたりしますから」

「怖っ!」

「世界中であるの?」

「はい。今頃探しまくって収まってる頃じゃないですかね」

 そうか、だけどここには来なかったな?

「ここは辺境ですからね、それに死罪になることが多いんですよ」

「あぁ、あいつみたいにか」

「この街でも二人死罪になったって有名ですからね」

 あーね、それでここにはこなかったのか。

「なら安心だな」

「いや、アイテムボックスをあんなに使ってるのがバレてるイチヤは安心しちゃだめです」

「バレてる?」

「あー、たしかにね」

「アカネも取っただろ?」

「いや、最近だし、そんなに使ってないじゃん」

 アカネは最近ようやくアイテムボックスをとった。

「ヤベェ、俺に出頭命令とか来んのかな?」

「いや、何もしてないんでこないですよ」

「そう?」

「来ても招待状くらいじゃないですか?」

「うわぁ、いやだぁ!」

 俺はそんな高貴な人達が嫌ダァ。

「渡り人ってどんな待遇なの?」

「そりゃ好待遇ですよ?最初から百万ゼル貰ったり、安全のために警備がついたり」

 なんじゃそりゃ?なら俺たちは?

「私達はどうなるのよ?」

「もう自分で生活してますからねぇ」

「うわぁ、最初からちゃんと言えばよかった!」

 でもそんな奴いるのかね?

「昔の人は言ってたみたいですよ?」

「いるんだー、やっぱり好待遇が良かった!」

「今更ですね」

「本当に今更感がハンパない」


「うぉーーーー!」

 アカネの心の叫びがこだました。


「好待遇」

「うっせ」

「好待遇」

「うっせ」

「お前のせいじゃー」

 首を絞められるが遊びだな。

「下着姿でウロウロ出来るのか?」

「それはいや!」

「ならあれでよかったろ?」

「うん」

 アカネは好待遇よりバランス良くレベル上げしているいまがいいだろ?

 百万ゼル最初から持ってるのはいいことだが、ここの人がいい人過ぎたんだよな。


 さて今日もレベル上げに行きますか!

「よ!ゴズ!」

「あ!ちょっと待って!」

「兵士長!」

 兵士長?

「あぁ、良かった!これ!渡し忘れてたオークの巣の賞金な!これで全部だから!」

「え?」 

 兵士長はそそくさと帰っていく。


 三百万ゼルくらいあるぞ?

「まぁ、いいか、貰っとこ」

 ズタ袋に入れるふりしてアイテムボックスに入れる。

「やっぱりかぁ、渡り人ならそう言えよ」

「ゴズ?なんで知ってんの?」

「騎士団が来るんだよ」

「うそぉーん」

 恐れていたことが。

「いつくるの?」

「さぁ?」

「いつくるんだよぉー」

「わかんねぇよぉ」

 俺もゴズも涙目だ。


「はぁ、まぁいいや、来るのがわかってれば」

「いいの?」

「レベル上げに行きますか!」

「そだね」

 北の森に歩いていくと前から騎士団と思われる団体様が!

「知らんぷり」

「ラジャ」

「はい」

 そのまま通り過ぎて行った。

 よし!このうちにレベル上げに行こう!

「行くぞー」

「「おおー」」


 北の森で十分過ぎるほどボアどもを倒しまくって、夕暮れ時に帰る。

「待っていたぞ」

「はい、待たせてすいません」

「いや、こちらが悪かったのだ、連絡も入れずに来てしまったのだからな」

 団長らしき人はちゃんとした人っぽい。

「渡り人らしいがそれは本当か?」

「本当ですね、ちなみにこっちの子もそうです」

 アカネが裏切ったな!って顔で訴えてる。

「二人もいたのか!それは遅くなってすまなかった」

「いえいえ、なんとか頑張って生きて来ましたから」

「そうか、辛かっただろうに。もう大丈夫だ!私達が王都まで案内するからな!」

「あの、パーティー組んでいるんですけどいいですか?」

「何!パーティーを組んでくれた奴がいるのか!なんて優しい奴なんだ!一緒に王都に来てもらう」

 団長は熱い男だった。

「この街で親身になってくれた人はいるか?」

「そこのゴズにギルドの人達、錆猫の居眠り亭の女将さんなんかですね!」

「よし、その者たちには褒賞をやろう!つらく当たったのは?」

「へ……」

 兵士長が青い顔で首をブンブン振っている。

「あははは、いませんでした」

「「あははは」」

 兵士長の顔芸に三人で爆笑してしまった。

 兵士長はそのまま気絶している様だった。

「さて。今日は遅くなったので明日迎えに行くが、錆猫の居眠り亭で良かったのかな?」

「はい!よろしくお願いします」

「わかった!では明朝に迎えに行く」


 宿では兵士長の話で笑っていた!

「うけたー!」

「まじで顔って青くなるんだね!」

「初めて見ました」

 エールが進む進む。

「あんたらが渡り人だったなんてねぇ」

「大丈夫!女将さんにもお世話になりました」

「いや、私は客として扱っただけさ」

「それが良かったんですよ」

 初めての宿がここで良かったと思える。


 最高の夜だった。

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