第2話

「ほら、もう三十分が過ぎてるっ。早く再開しないと、強制的にケイの負けだからね!」


 そう言われてしまったら、どうすることもできなくて、対局を再開することにした。その際、ヒカルが残念そうな顔をしていたのが見えて、ちょっと申し訳なくなってしまった。


「今度また教えて」


「は、はい!」


「かっこいい所作よりも、ケイくんは覚えることがあると思うのだが……」


「形から入るのがいいっていうじゃないですか」


「確かに。そのおかげでカモに――おほん。お鴨さんに」


「……丁寧に言っても同じですからね」


「そうか」


 配牌が終わり、手牌からいらない牌を切っていく。というか、いらない牌ばっかりだ。先ほどの国士を成就させることができなかったのはすごく痛い……。


 幸いなことに、ツモはいい。急所から埋まっていき、聴牌するとはとても思えなかった手が、メンタンピンと最高の形にまとまってくれた。


 これはもう、胸を張ってリーチである。宣言牌のウーピンを下家のヒカリがチー。必要だったかはさておき、一発消しというやつだろう。知っていてもとっさに判断ができるかはまた別で、流石経験者だ。


 ただ、そのチーのおかげで、僕はツモることができた。


 満貫である。全員から四千点をもらえるわけだけど、それでもまだ、ビリ。もっと和了る必要がある。


「やるねえ」


「絶対、みんなを脱がす」


「変態じゃん……」


「何とでも言え。僕だってパンツ一丁なんだ。同じ目に遭ってもらう」


 我ながらひどいセクハラである。皆さんはくれぐれもマネしないでねって、言いたい。


 それはさておき、三人が服を脱ぐ。靴下靴下上着。みんなまだ、肌を露出させていない。


 このまま親を続けたら、もっと脱がせることができるだろう。


 気合を入れる。


 でも、二本場はあっさりヒカリに和了あがれてしまった。


「まあまあまあまあ」


「あはっ。和了されて頭おかしくなってる」


「まだ、あと一局ある……!」


 状況は確かに苦しい。条件としては跳満以上を和了る必要がある。先ほど上がっていなければ、倍満条件だったので、これは大きい。


 ワンちゃんある。


 なんとしても最下位は――。


 そう思いながら、ぐるぐる牌をかき混ぜる。


 ふと、ヒカリがカチャカチャとこすれ音を上げる牌を見つめていることに気が付いた。その表情は真剣そのもので、牌の動きに注視しているようである。手加減してくれ、と言うつもりだったけども、それはこの局が始まってからでいいか。


 少し長いシャッフルが終わり、ヒカリの手によって牌が積み上げられていく。山から自分の手牌を引いてきて、並べる。メンホンドラドラチュン。


 これなら。


 手加減をしてもらおうと、再度ヒカリを見た。


 目があった。


「――ごめんなさい」


「へ?」


 そっと、静かに、第一ツモが卓上へと置かれる。ワンテンポ置いて、手牌が倒される。


 和了。


 見た感じは、ただのピンフ。だけども、一回目のツモで和了った場合、それは違う役へと変化する。


 天和――役満である。


 得点にして四万八千点。一人当たり換算で、一万六千点払わなければならない。


 そして、そんな点数払ってしまえば、僕の点棒はすっかりなくなってしまう。


 何かの冗談かと思った。そう思ったのは、僕だけじゃないらしく、だれもかれも口を開こうとしない。


 目を何度もこすって見てみたけど、チョンボとかでは決してないし、ましてや幻覚の類というわけでもない。


 奇跡のような天和がそこに顕現していた。


 僕はがっくりと崩れ落ちることしかできない。できかけの牌たちが倒れてしまったけども、気にならなかった。


「ど、どんまい?」


「素晴らしい。これこそ本当の運だ」


「え、運なの? 偶然にしては出来すぎじゃない?」


 脚でも何かにぶつけたのか、あいた、とサクラが口にする。確かに出来すぎだ。でも、まさか、ヒカリがイカサマするとは思えないし。


 同情の視線を感じる……。文句の一つでも言い返したいところだったけど、そうする気力さえなかった。


 ヒカリを見るとおどおどしはじめる。よほどひどい顔をしていたのかも。


 でもしょうがないじゃないかっ。


 今から僕は全裸にならなきゃならないんだ。


 くそっ。どうして僕が。


 ふつう逆でしょ。男が裸になって誰か得するのか。


「ごめん。でも、ケイくんの裸を見てみたいから」


 顔を真っ赤にさせて、ヒカリが俯く。その姿は、可憐な乙女といった風だけど、男である。嬉しいやら悲しいやら……なんだか複雑な気分。


 女性陣の方をみれば、僕のことを見てきていた。にやにやとした視線と、実に興味津々といった調子の視線。どちらがどちらかなんて言うまでもないことだろう。


 でもやっぱり、反論する気力はなかった。


 勝負は勝負で、どうすることもできない。僕はパンツを脱ぐしかできないんだ。だって、約束だから。


 こんなことなら、脱衣麻雀なんてやらなければよかったなあ。


 いやいっそ、ここにいる三人と友達になんてならなければよかったのかもしれない。割とマジで。


 三者三様の視線を感じながら、僕はパンツを脱ぐのだった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ポンチ―カン! 藤原くう @erevestakiba

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ