第4話:忠義の誓い・騎士隊長視点
ルイーザ嬢が孤軍奮闘されていた。
王太子どころか、ほとんど全ての貴族を敵に回しても、父親を擁護し、コーンウォリス公爵家の名誉を護ろうと、舌鋒鋭く相手の隙を突いておられる。
さすが兄上が手塩にかけて教育された公爵令嬢だ。
以前からこんな事にならなければよいと思っていた。
兄上がルイーザ嬢を王太子の婚約者にすると言った時、必死で止めた。
王太子の愚劣さは、兄上よりも側近くで仕えてきた俺の方がよく知っている。
王太子と結婚などしたら、ルイーザ嬢が絶対に不幸になる、そう言って諫言した。
大恩ある兄上に諫言するなどおこがましいのだが、可愛い姪のためには口にするしかなかった。
兄上は、廃嫡の危険を冒してまで、父上が不可触民の母上に生ませた私の命を救ってくれくださった。
同母弟にように、大切に育てて下さった。
自分の母親を説得して、私が害される事がないようにしてくださった。
劣情に負けて母上を犯した父上だが、不可触民と性交渉を持った事が、コーンウォリス公爵家の家名を傷つけ、自分が当主の座を追われるほどの汚点だと十分理解していたようだ。
だから母上を腹の中の俺共々殺そうとされたそうだ。
だがまだ幼かった兄上が、敢然と父上に立ちはだかり、母上と俺を護ってくれたと、後に何度も何度も母上から聞かされた。
父上に仁・義・礼・智・信・忠・孝・悌の八徳と説き、殺すのではなく、誰にも分からない異国に逃すのが人の道だと説得して下さった。
御自身が父親に殺される可能性すらあったのに。
あの父上なら、意向に逆らう者は長男だろうと表情も変えずに殺すのが普通だ。
だがあの時の父上は違っていたそうだ。
兄上の話では、兄上の才能を試したのだと言う。
父上は兄上に、異国に逃すのではなく、父上の役に立つように育てろ、しかも全てを内密に、兄上の動かせる資金でやれと命じられたそうだ。
兄上はその全てをやりとげ、母上と俺を救って下さった。
王家直属の騎士家の家督を秘密裏に買い取り、俺を跡取りに押し込んで下さった。
不可触民の血が半分流れる俺に、騎士として恥ずかしくない教育と訓練を施して下さった。
兄上と二人だけの時には、弟と呼んでくださる。
不可触民の母上を、弟の生母として遇して下さる。
そんな兄上に、八徳を説いてルイーザ嬢を王太子の婚約者にすると言われたら、それ以上の諫言はできなかった。
だから、あの時俺は誓ったのだ。
王太子の糞野郎がルイーザ嬢を傷つけるような事があれば、問答無用で殺すと!
兄上から受けた大恩に報いる時が来たら、国王だろうが王太子だろが、叩き殺してやると!
いつかこうなると思って、反吐が出る思いを押し込めて、王太子に仕えてきた。
俺と兄上を結ぶ接点はない、証拠は長年かけて隠蔽した。
そもそも兄上に手抜かりなどなかったから、俺がやることなどほとんどなかった。
父上は最初から俺を使って国王や王太子を殺し、自分が王位に就く心算だったのだろうか?
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