第3話:野望と陰謀の騎士・辺境伯の挑戦

「あっははははは、往生際が悪すぎますぞ、ルイーザ嬢。

 自分の不貞を誤魔化そうと、私とディアンナに汚名を着せるとは、悪女ですな」


「その言葉、そっくりそのまま返しましょう。

 いえ、ディアンナ嬢は悪女でいいでしょうが、貴男はその程度の表現ではすまされませんよ。

 王家を滅ぼし、自らが王位を就かんとする奸臣でしょう!」


 ロビンソン辺境伯が恥ずかしげもなく、堂々と入ってきました。

 このまま王太子に任せておくと、わたくしに言い負かされるかもしれないと、不安になったのかもしれません。


 辺境伯は長身でがっしりとした体格をしています。

 肩幅は広く、胸板は厚く、腕は太く筋骨隆々としています。

 その身体は鍛えられた鋼のように頑丈で、一見するだけで力強さが感じられます。


 辺境伯は背は他の貴族たちよりも頭一つ高く、その存在感は一目でわかるほど圧倒的です。


 戦場で鍛えられた身体は勇者のようにたくましく盛り上がっています。

 辺境伯は優れた戦士でもあり、その体格はその実力を物語っています。


 彼の力強い腕は剣を振るう際に実力を発揮するでしょう。

 敵を薙ぎ倒す勇姿はまさに武人そのものでした。


 しかし心に野望を抱いていたのです。

 辺境伯の目は鋭く、闘志に満ちており、強い意志が込められています。


 辺境伯は、自分の野望を果たすために、その豪勇な体を駆使するのではなく、姦計を巡らせて勝利を掴み取ろうとしています。


 若い頃の辺境伯は、人々に勇気と希望を与える存在だったのに、歳と共に野望に心を曇らせてしまったのでしょう、惜しい事です。


 それに比べて王太子は王家の権力を持っているだけで、大した才能もありません。

 王となるための帝王学を学ぶことから逃げ回る、惰弱な人間です。


 正直な気持ちを言えば、婚約を破棄してくれて清々しています。

 わたくしが吐き気をこらえて王太子の婚約者を務めていたのは、王家の藩屏たるコーンウォリス公爵家令嬢としての義務感からです。


「ふん、阿婆擦れが言ってくれる!

 だがな、私は王太子殿下の忠臣だ。

 殿下の望まれる通りに忠誠を尽しているだけだ。

 常に殿下の意に反しているのはコーンウォリス公爵の方だ。

 王家に連なる公爵だと言っては、殿下の政策を否定しただけにとどまらず、私生活にまでクチバシを入れる。

 それがどれほど殿下の御威光を傷つけると思っているのだ。

 コーンウォリス公爵が忠臣で、私が奸臣だと、馬鹿も休み休み言え!

 殿下の威信を傷つけ、自ら王位に就こうとするコーンウォリス公爵の野望が透けてみえるわ!

 コーンウォリス公爵こそ奸臣、いや、叛臣であろうが!」


 なんという悪口雑言、許し難い汚名濡れ衣です!

 ですが今の言葉で、どうやって愚かな王太子を籠絡したか分かりました。


 王太子を名君に育てようと、嫌がる王太子に無理矢理勉学させていた父の悪口を言って取り入ったのですね。


 あれほど父が甘言に気を付けるように言い聞かせていたのに。

 全く役に立っていません。


 父上が本気で王位を望んでいたのなら、王太子の好き勝手させて、貴族士族庶民が怨嗟の声をあげるまで放っておきます。


 そうすれば、王子達が王位を巡って争い、名門王族の父上に王位が巡ってくる可能性もあるのです。


「王太子殿下に名君になって頂くために、憎まれるのを承知で諫言するのが忠臣というものです。

 殿下が間違いを犯し、貴族や庶民が苦しまぬようにするのが重臣側近の役目です。

 それを殿下に罪を唆すとは何事ですか、恥を知りなさい、恥を!」


「王太子殿下、恥知らずな阿婆擦れは素直に罪を認めません。

 私と阿婆擦れ、どちらを信じて下さいますか?」


「それは当然ロビンソン辺境伯だ。

 ルイーザのような不貞の輩も、王位を狙うコーンウォリス公爵も信用できん」


「では、ルイーザを捕え、コーンウォリス公爵領に攻め込みましょう」

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