第137話 エルフへの手がかり
ギルドに到着の報告を入れたリアたちは次に奴隷商の場所を調べに行く。
ルーナさんから受け取った情報によると、この街にはミッツ商会という奴隷商が存在するらしい。
ギルド、リナヴィ支部の受付の男にミッツ商会の場所を尋ねると詳細な住所を教えてくれた。なんでも冒険者が使うような革製品もそこで扱っているらしい。例によって、ここも奴隷だけを扱っているわけではないようだ。
案外早く目的地が判明してしまったな。ついでにアポを取ろうと思うのだが……。
「どうしよう。今日に限って正装してきてないし」
「どういうこと?」
「アトリ、ちゃんとした商談にはちゃんとした服を着ていかないといけないんだよ」
「商談っていうのはお店で物を買う事?」
「というより、買う為の相談かな? 向こうが売ってくれるかわかんない時にするの」
「へぇ、じゃあ正装って?」
「正装って言うのは……なんだろ? ミナト!」
俺に振るのかよ。
(なんというか、その……アレだ。世間的に格式が高いとされている服のことだ)
(ミナト……それ全然説明になってないよ! アトリ、絶対わかんないもん)
ダメだしを食らう。俺大学生なのに……情けない。
(まあ、その場の雰囲気に合う服を着ているかどうかってことだろ)
いくら格式が高かろうが、葬式に黒以外のネクタイを着けて行っては顰蹙を買うだろう。つまり今から向かうのがどういう場所か考えなければならない。
「──ということらしいよ」
「なるほど?」
俺の言葉を又聞きしてアトリは分かったようなそうでないような反応を返した。
おそらくアトリは今まで普段着以外の服に袖を通したことはない。分からなくて当然だった。
「でも、そのミッツさんのお店は冒険者が行くお店なんだよね? ミナトのその恰好じゃダメなの?」
「……あ、確かにそうかも? 少なくともアポくらい、この恰好で行っても大丈夫か」
思ってもみない指摘をアトリから受けて、俺たちは少しばかり驚いた。
とにかく話を聞きに行くくらいは大丈夫か。
そうと決まれば、商会を尋ねてみよう。
「いやはや、翠級冒険者様が当商会にご相談とは……」
ミッツ商会に商談のアポを取ろうと訪ねると、向こうがリアの冒険者タグを目ざとく読み取り、その流れで即商談となった。ナンパ避けといい、翠級冒険者スゲェな。
「えっと、こんな格好で申し訳ないです」
「いえいえ! それが冒険者様の正装でしょう? まったく問題ないですとも!」
ミッツと名乗ったこの商会のオーナーは物凄く低姿勢だ。
「あの、手っ取り早く要件を先に申し上げます。私は亜人奴隷を探しておりまして……」
「あー亜人奴隷ですか……」
ミッツさんのその反応で結果がわかる。パレタナの商人が言っていたように、奴隷の入荷は無さそうだ。
「やっぱり、いないのでしょうか?」
「いえ、その、いることにはいるのですが、年老いた獣人が数人程度で……」
「そうですか……」
やはり今回も空振りだった。いや、そう言ってしまうと売れ残っている獣人たちに悪いか。本当は彼らも買い上げてルーナさんのところに連れて行ってやりたいが今は家族を優先したい。
(ごめんなさい)
この商会のどこにいるのかもわからないが、リアは心で彼らに頭を下げた。
「あの、出来れば情報を売って欲しいのです。他所で亜人、特にエルフが売られていたとかそういう話は……」
「なるほど……情報ですか。生憎、情報の売り買いはしておりません。ですが……」
言いながら、ミッツさんは徐にローテーブルに備えてあった呼び鈴を鳴らす。すると、商談をしていた部屋の外から、従業員が準備でもしていたかのように、突然わんさか現れだした。
「えっ、えっ」
困惑するリアたちを他所に彼らは空いたスペースに台を用意し、その上に店舗の方に並べてあった商品を陳列しだした。
「こちらの商品をお客様にご紹介している間に、口が滑ってしまうかもしれませんねぇ……」
……いや、なんだこの強引な売り込みは。
(リア、どうやら出費は確実らしいぞ)
(えー)
と、相手の無理くりなセールスに呆れつつも、商品紹介を聞いていると俺たち冒険者にとってなかなか有用な品が揃っていた。値段設定は正直舐めてるとしか思えないボッタクリ価格だが。
「そういえば、そちらのお嬢さまは駆け出しの冒険者でありますかな?」
値段を聞いて眉を顰めるリアを見て何を思ったのか、ミッツさんはターゲットをアトリに移した。アトリの隠された気品に気が付くとは。コイツ、やるな。
「そ、そうです! あんまり依頼はできないですけど!」
「ほっ、そうですか。ではそんな駆け出しの方にお勧めがこちらでして……」
アトリを叩いた所で金は出ないのだが……。
ああそういえば、アトリ用のレザーアーマーを買っていなかった。いくら魔物退治の依頼に出さないと言っても、最低限防具は揃えてやるべきだろう。いざという時の事もあるから。
ということで、リアはこの店がしつこく勧めてきたものをアトリ用に購入した。お値段なんと500万ガルド。飛竜1体分! 確かにこの店では最高級の牽牛獣皮を使用しているようだが、500はふっかけが過ぎるだろう。
しかし情報を得る為には、値切るなんてことは到底出来なくて。
(これでしょうもない情報だったら……)
リアから黒い感情が漏れてくる。いや、手を出すのはやめろよ?
「それでは世間話をしましょうか」
アトリを鎧の調整に向かわせ、リアはミッツと共に椅子に座る。彼は出されたお茶を一口飲んでからようやく話を始めた。
「私の友人がアテリアにおりましてね。そこにはエルフがいるんですよ」
どこか白々しさを覚える口ぶり。ちなみにアテリアというのはアーガスト王国の都市で、このリナヴィから北東方向に位置する都市だ。丁度、そこにも亜人奴隷を扱う商人がいるという情報を得ている。
「はぁ……」
「国内ではかなり有名かもしれません。エルフというのは1人いるだけで、莫大な経済効果を呼び込みますからね」
「そうなんですか!?」
「そうですとも。なんたってあの見目の美しさですからね。ただの置物でもいいですが、揃って魔法位が高いので、魔石に魔力を入れさせてもいいです。というか、あなたもそういった用途では?」
「いえ、単純に私は愛でたいと思って」
「ああ……そういう……」
リアは嘘でもエルフをモノ扱いしたくなかった。だからちょっと変態チックになってしまうのは仕方ない。
「そのエルフはどなたかが所有されているのですか?」
「そうですね。アテリアの領主である子爵家ですよ」
「え、貴族様ですか……」
「あなたのような翠級冒険者様なら、拝見されることも可能なのではないでしょうか。子爵家も見せつける為に飼っているのですから」
「なるほど。それなら、姿だけでも……」
入手難度はとんでもなく高そうだ。だが、明確にエルフがいるという情報を得た。これはかなりの進歩ではないだろうか。
(これがもしお母さんかお父さんだったら……)
(金ならある。
(そうだね……いい方に考えよう)
そうと決まれば、早速明日にでもアテリアへ向かおう。そう決めた俺たちであった。
ちなみに、アトリに買った皮鎧は全然彼女に似合ってなかった。鎧に着られているというかさ。でも逆にそれが可愛かったので、500万の価値はある……と思うようにする。
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