寒村の少女編

第109話 女だ!女がいるぞ!(2年ぶり2回目)

 ずっと水の中から外の世界を見ているような感覚だった。屈折した光が俺を騙すように、ぼやかした風景を見せてくる。


 もがいても、あがいても、浮上出来ない。


 繋がりが切れるとはこういうことを言うんだなとわかった。


 しかし、リアは俺を見事に吊り上げてくれた。


(ミナトォォォォ!)


 リアは泣きながら、蝗のスパイス和えを頬張っている。


 あの、俺が復活して嬉しいのは分かるけど、それは嫌がらせでしかないんですが……。というかマジで蝗皿5人前来てるし。


(とりあえず食うの一旦止めない?)

(バカ! アホ! 私をひとりにする最低野郎の言う事なんて聞くか!)

(悪かったよ……)


 こうやって浮上してみると、目の前の状況はがらりと変わっていた。


 まずここは何処だ?


 ちょいと俺が沈んでいた時の記憶をば……。


(ミナト、私の記憶を覗くのはいいけど、出来ればノインにマウント取られた所からゆっくりと見てね。私がどんだけ大変だったかじっくり味わうように!)

(マジ? もうあれを体験するのは嫌なんだが……)

(大丈夫だよ。私もすぐに気絶したから)

(何も大丈夫じゃねー)


 キツイのは分かっていてても、俺のいない間リアがやって来た事を確認せねば。


 俺はリアの記憶へと飛び込む。


 エッチなノイン、店の老婆との約束、宿での引きこもり生活、そして『狂乱』に対する活躍。


 本当、色々あったんだなぁ。そんでもって、頑張ったんだなぁ……。


 俺が居なくなった後を考えて、色々覚悟までしてさ。まあ、それは俺が戻ってきたことで、不発に終わるんだけど。


 そんな記憶を見て俺は少し申し訳なくなった。正直、ひとりで色々頑張るリアを見て、「もしかしてこの子、俺なんていない方が成長出来るんじゃ」と思ってしまったのだ。


 しかし俺の勝手ながら、戻ってこられて良かった、という思いは曲げたくない。


 やっぱり俺はリアの成長をこの目で見届けたいし、彼女の家族にも会ってみたい。これまで出会った人たちとも、これから出会う人とも。


(リア、勝手にいなくなってすまんかった。これから、また一緒にお前の中にいてもいいかな……)

(当たり前だよ! ミナトは私が死ぬまでこの中にいるんだよ!)


 死ぬまでか……。また死んだら、今度はどうなるんだろうな。







 俺が戻った事で、また魔法位が≪黄昏≫となったリアは解き放つように深く被ったフードを取り払った。


 仕方なくやっていたものの、音の籠る感覚がイヤだったという。


 素顔を晒したリアは顔に笑みを浮かべながら楽し気にスイの街を歩く。きっとその姿は花畑を見つけた美しい蝶のように周りからは見えていただろう。すれ違う老若男女はリアを目で追っていた。


 そんな妖精さんみたいなリアがまず向かうのは、猛き益荒男たちの集う冒険者ギルド。うん、ギャップがすげぇ。


 そう言えば、ネイブルでもパレタナでもフォニみたいな女性冒険者を見ていない。折角魔法という男女問わず持てる武力があるのだから、もうちょい女の子がいてもいいよな。


 スイの冒険者ギルドはどうなんだろう。僅かな期待を込めて俺たちは扉を開ける。


 むわーっとスパイシーな香りが……。おえっ。


 結果は、やっぱり男祭り……かと思いきや受付近くにいるパーティの中に1人いるじゃん。


 ふわふわしたピンク髪の可愛らしい雰囲気の女性だ。彼女は心配になるほど薄っぺらい防具を付け、周りの男たちと楽しそうに談笑していた。


(女の子だ! 女の子がいる!)

(お前山賊かなんかかよ)


 ここのところ男としか会話していないようなので、テンションがあがるのはわかるけど、これではリアが嫌いな性欲丸出しの男と何ら変わりない。


 そしてそれは周りも同じだったようで、女の子飽和量の小さいこの空間に新しく現れた美少女のリアは瞬く間に周囲の視線を独り占めした。


『おい、あれ見ろよ』

『なんだあの可憐な少女は……』


 ヒソヒソ話が聞こえてくる。内容は当然リアの容姿を褒めるものばかりだ。


 この身体を自分というより一種のアバターとして見ている俺としては、リアが褒められて「せやろ?」と鼻が高くなる。果たして、リアは少し鬱陶しそうだった。まあ、無条件に周りを威圧しないだけ大分丸くなったとも言えるが。


「『青』級のミナト。パレタナから到着したので報告を。すぐに出てくけど」

「はいはい、報告ありがとね」


 受付のおばちゃん職員に報告を済まる。今日はもう用事がないのでギルドを出ようとしたのだが、リアは唯一の女性冒険者の顔を近くで見たかったので、ちょうど受付が終わり身体を反転させたタイミングで彼女へと視線を送った。


(えっ)


 なんかめっちゃ睨まれていた。


(え、私何かした?)

(いや何も……たぶん)


 いや、待て。結論を出すのは早い。ただ彼女がド近眼なだけかもしれないのだから。


「ん? どうした、ミヤハ。この子と知り合いなのか?」


 彼女(ミヤハというらしい)のパーティーメンバーと思われる赤髪の青年(イケメン〇ね)が問いかけると、彼女は今までの鋭い眼光を一瞬の内に引っ込めた。


「ううん、知らないよぉー。でもぉー、ぱったり目が合っちゃってぇー」


 あざとっ! なんだこの女は……。


 可愛くてふわふわした見た目だけど、ものすごく裏がありそう。


 あと、よく見たら魔法位が≪金≫だ。地味に非純人以外で見たのは初めてかもしれない。


(リア、面倒くさいことになりそうだから、もう行こうぜ)

(う、うん。ああ、折角可愛い冒険者と出会えたのに……)


 こんな人がまともなわけないと判断した俺たちはすぐにギルドから立ち去ろうとするが……。


「ねーねー。君、パレタナから来たって言ってたけど、今日着いたの?」


 ミヤハの近くにいた優男っぽい緑髪の冒険者が引き留めてきた。


「え、まあ、そうだけど」

「へぇ、そうなんだ。僕たちはこの国の王都を中心に活動している冒険者パーティなんだけど、よかったらパレッタの話を聞かせてくれないかな? 近々遠征に行ってみようって話してたんだ」

「おう。それはいいな。この後、何処かの店で飯でも食べながら、親睦を深めようじゃないか」


 お、おう……。コイツらグイグイくるな。


 相手がイケメン揃いなこともあって、押しに弱い女性ならホイホイ着いていきそうになる場面だ。


 勿論リアにこんな奴らの誘惑なんて全く効かない。率直にノーを叩きつけてやるだけだ。それに、またミヤハが睨んできているしな。


 と、そこまで考えてようやく察した。もしかしてこのパーティ、ミヤハを中心とする逆ハーレムパーティだったりするのかな。だとしたら、この子が割り込んでくるかもしれないリアに対して睨みを利かせるのも頷ける。


 てかお前らも、ハーレムの主がいるすぐ側で他の女誘ってんじゃねぇよ。


「遠慮しておく。じゃあ、私は忙しいから」


 リアは誘いをバッサリと断って、ギルドから去る。


 相手も程度は知っているようで、それ以上強引な誘いはなかった。これでも女に飢えまくった冒険者基準で言うとかなり紳士的な方だろう。


 後は、そのピンク髪の子と楽しんでくれ。

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