第97話 リア、キレた!!(いつもの)

「皆さま、お疲れさまでした! こんなにも早く巣の駆除が完了したのは、過去にも無いことですよ!」


 作戦の日の夜、村の長だという男は冒険者たちを集めて、宴の席を用意してくれた。


「ガッハッハ! 俺にかかれば、あんな奴等一刀両断だ! どうだ、カッコいいだろ?」

「素敵ですぅ~」


 ヤレンが豪快に笑いながら、隣で酌をしていた村の女の肩を抱く。


(何あれ羨ましい!)


 村の女子の谷間をさらけ出した煽情的な恰好、どこからどう見てもキャバクラみたいな絵面だ。


「カルケさまもぉ……指揮したり、いっぱい駆除してくれたんですよねぇ。凄いなぁ……」

「ふわぁっ、えっと、その! 俺は定石どおりに動いただけでふわっ!」


 カルケが大人のお姉さんに膝を撫でまわされ、童貞みたいな声を出して悶えていた。なんだこの性接待は。


「あたしたちぃ……あなたみたいなつよーい冒険者がここに定住してくれたら、安心して暮らせるんだけどなあ……」


 カルケに胸の谷間を見せつけながらお姉さんが言った。その言葉に、俺は何となくこの宴の裏の意図に気づく。


 辺境の村というのも、色々苦労するんだなぁ……。


 ヤレンやカルケの他にも、巣の攻略に当たって貢献度の高かった冒険者は村の女性から接待を受けている。


 そして、魔法で大量の賤飛竜を屠ったリアにも。


「ミナト様もお疲れさまでした! 俺、≪黄昏≫の魔法位って初めて見ました! その貴重な才能をこの村に残す為にも、どうか俺と子づく──」

「うるさい! 近寄んな!」


 恐らく女を誘惑するために用意されたであろう美青年へ向けて電撃をかまし、リアは席を立った。

 

「ああっ、申し訳ありません! 彼はお気に召さなかったのでしょうか!?」

「お気に召すわけないでしょうが! 殺すぞ!」

「ひぇぇ!」


 女なんてイケメン宛がっとけばいいだろ、的な精神がよっぽど癪に障ったのか、リアは今までにない位怒りを露わにしていた。





 農村での仕事は、駆除が終わっても見回りという形で続く。


 賤飛竜の駆除は初撃が完璧だったこともあり、あれから見回り中に賤飛竜の狩り残しが現れたのは数回のみ。


 仕事自体はいたって順調と言える。にもかかわらず、リアの機嫌は非常に悪かった。


 原因はこの村だ。意地でも魔物を駆除してくれる優秀な冒険者を定住させたいのはわかるが、やり方が下手くそ。


 ヤレンやカルケに対する色仕掛けはともかく、リアへのアプローチの方法は最悪だった。


 中でも酷かったのが3日目の夜。


 リアが見回り兼防衛の当番を終え、宛がわれた家へ帰った時の事だった。疲れて帰ってきたリアは、家の中に妙な気配を感じ取る。


 リアは剣呑な視線を自分の寝床に向ける。リアが使っていた布団は不自然に盛り上がっていた。捲ってみると、そこには──


「わわっ、お帰りなさい! ミナトおねーちゃん」


 なんと不思議なことに、布団の中には可愛らしいショタっ子がおりました、と。


 ……いや、なんでだよ。


「は?」


 勿論これにブチ切れたリアは、そのショタっ子の首根っこを掴み上げる。


「痛い! 痛い!」

「痛い、じゃない! こんなことはやめろ!」


 そして、家の外へ向けて思いっきり放り投げる。そして、今にも魔法で攻撃を始めそうなくらい魔力を高めた。


(ちょっ! リア! 抑えろ!)


 俺は慌てて静止にかかる。


「ひっ!」


 身の危険を察知して、ショタっ子は逃げていった。


 リアちゃん? そこまでする必要ないんじゃないかな……?


(ショタは仲間を呼ぶから! 見つけ次第始末しなきゃ!)

(いや、そんなゴキじゃないんだから)


 と、これが一番酷いパターン。流石に子供をダシにするのはどうかと思うよ、俺も。


 そしてやめろと言ったにもかかわらず、リアへの刺客は続いた。


 ショタの次はおじいさん。そのまた次は肥満男、その次は容姿がちょっとアレな男。


 なんだろう、この村はリアの性癖を当てる賭けでもしているんだろうか。


 それからも、リアがストレスを溜める日々は続いた。


(どうして私の元には女の子が来ないの!?)

(え、キレる所そこ?)


 恐らくだが、この村は優秀な冒険者であるリアの遺伝子を欲している面もあるわけだから、子供が作れない相手は来ないんじゃないかな。


 リアも来たら来たで対応に苦慮するだろうに。


 そして、そんな事が続いて、6日目。


 最早リアはあの家を使うことはやめていた。今は森に穴を掘ってそこで眠っている。何とかこの日も乗り切って、無事に帰還の時間となる。


 また、パレタナへ帰るために馬車へと乗りこむのだが。


「あれ? カルケは?」


 客席にカルケの姿がない。不思議に思ったヤレンも辺りを見回している。


 すると見送りに来ていた村人の中に、女性と手を繋いでいるカルケの姿を見つけた。


「カルケ!? お前どうしたんだよ!? はよ帰ろうぜ」

「ヤレン。すまんが俺は責任をとるために、この村で生きていく。やってしまったんだ。ヤバいと思ったが抑えきれなかった」

「えっ!?」


 ああ……彼はまんまと罠にかかってしまったのか。


 でも、やってしまったという女性を見る目が満更でもなさそうだった。


 純愛だからヨシ! と言いたいところだけど、今後、他の村で賤飛竜駆除の依頼が入ったらどうするのだろう。


(なんかものすごく疲れた……)


 たった1週間でかなり疲弊させられた。


 こんな村もう二度と来たくない。そうリアは思った。


 村からパレタナの北地区ギルドへ戻る。そこには疲れを癒してくれる可愛い受付嬢などおらず、髭面が相変わらずの脱力面で待っていた。


「なるほど、あのカルケが……アイツ真面目だから断れなかったんだろうな」


 報告ついでの世間話。サバサバした雰囲気のこの髭面男は男にしては珍しく、リアにとって話しやすい相手であるようだ。


「私もめっちゃアプローチされたんだけど、あれが普通なの?」

「そうだな。ああいう村は常に魔物の危険と隣り合わせだから、冒険者の定住は本当にありがたいんだ。俺らとしては戦力ダウンだが、あまり責められん」

「ふぅーん、辺境も大変なんだね」


 確かに何か問題がある度に冒険者ギルドへ使いを出すのも大変だろう。金銭も馬鹿にならないうえ、そもそも移動に数日かかるのだから。


「というか国は何をしてるの? ネイブルだと、ソフマ山脈の近くに砦の街を築いたりしてたけど」

「なーんも。北からくる魔物に関しては国軍が動かなくても、『混ざりもの』たちが冒険者として頑張っているおかげで何とかなっているから」

「それでよく農村の人たちは怒らないね」

「まあ税金が安いからな。そうじゃないと冒険者を気軽に雇えんよ」


 そこは上手くいくようにシステムが出来ているのか。


「ただ、何時何処で綻ぶかはわからん。今回だってカルケの抜けた穴が、今後他の村の防衛にどんな影響を及ぼすか……」

「ふぅん。ギルドの人も大変だね」

「そうだよ。この国の歪な部分を正すには一度大変な目に遭った方がいいのかもとは思う。だが、人の命がかかっている以上、大事が起きた時何もしないってわけにはいかん。お前のような有望な冒険者がこのギルドをホームにしてくれたら俺らも楽なんだが」

「ヤダよ、こんな女っ気のないギルド。もう出てくからね」

「お前もそっち側かい! 他の男共と同じ穴の貉じゃねーか」


 女はともかく、旅の途中なので。


 話もそこそこに、リアは依頼達成の手続きをすることに。


 髭面に冒険者証を渡し、事務作業の完了を待つ。


「そうだ。お前今回の依頼でランクアップだぞ」

「え、マジ!?」


 すると、思いもしなかった朗報が届けられた。


「内訳とかは言えんが、今回というより前回受けた依頼のポイントが大きいみたいだな」


 と言うとフォニたちの件か。『藍』からは上がりづらいだけに、あの救出劇がどれだけギルドに評価されているかがわかる。


「おめでとう。今日から『青』ランクだ」

「おおっ!」


 ずっと着けていた藍色のタグと交換で、青のものを渡される。快晴の空のように透き通った青色だ。


「ちなみに『青』ランクからは、一般的に高ランクと言われている。街への到着や出発する際の報告義務もこのランクからだな」

「ああ、そんなんあったね」

「お前がこの街から出ていっちまうのはしゃーないし、俺らにそれを止める権利はねぇ。でも一応、報告は入れていってくれ」

「わかった」


 それから更新したギルド証と今回の報酬を受け取る。


 受け取った袋にはズッシリと貨幣が詰まっていた。キツい仕事だったけど報酬面で文句はない。


「内訳的には少ないが『青』級としての年金も含まれている。まあ今日は昇級祝いにパーッとやれや」

「うん、そうさせてもらうね」


 報酬を貰うという行為が嬉しかったのか、普段は金に頓着しないリアが弾んでいた。


 そして、俺にひとつ提案をしてくる。


(ねぇねぇ、今日早速アレ行ってみない?)

(アレ?)

(あーもう察し悪いなあ! アレって言ったら、『ご褒美』でしょ!? 師匠の言葉を忘れたの?)


 いや忘れるはずはないが、まさかコイツの方から提案してくるとは……。


 言わずもがな、叡智を探求するお店である。


(パレタナにもお店、あるかな?)

(そりゃあこんなに大きい街なら、なんぼでもあるだろう)

(だよねぇ。じゃあ、コイツに聞いてみるか)


 そして、リアは何の躊躇いもなく、髭面に向かって風俗店の場所を尋ねる。


 それに対して髭面は汚いものを見る目で、この街にある色街の場所を告げた。


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