第44話 冒険者登録
街の中にはこれぞ城塞都市と言わんばかりに堅牢な石造りを全面に押し出した無骨な景色が広がっていた。
周りに植物が無いから乾燥地帯の都市にも見える。今までずっと山にいたせいか、緑の無い環境がどこか落ち着かない。
「それじゃあ、ハツキとカンザは宿の確保を頼む」
街の中心部までたどり着いたリアたちは二手に分かれて行動することになった。
「久々の宿だからいつもよりグレード上げてもいいか?」
「ん? ああ、どうだろう。ハツキ」
「1日くらいは構わないよ。リット様から臨時収入もあったしね」
「よーし、じゃあ行こうぜ。あ、そうだ、俺ら宿取ったら酒場で待ってるから」
「あんま飲み過ぎるなよ」
そんなやりとりがあって、2人とはここ別れる。そして、俺たちは冒険者ギルドへ向かった。目的は2つ、リアの冒険者登録と【暁の御者】の到着報告だ。
「先に報告を済ませてくる」
剣と盾のシルエットが刻まれた看板の建物に入るや否や、カイドさんは受付のような所まで行ってしまった。
ラーヤさんが言うには、彼らのように高いランクの冒険者は街に滞在する場合、有事の際に戦力として扱うためその到着と出発をギルドに報告する義務があるという。傍から聞くと凄く面倒だが、年金的なお小遣いが貰えるらしいので普通に受け入れられているそうだ。
(ここが冒険者ギルドか。アニメや漫画のイメージと比べると随分かっちりしてるな)
(酒飲んでるオッサンもいないし、どっちかというと役所っぽいね)
某狩りゲーのように併設の酒場もなく、簡素な待機スペースで武装を崩した冒険者たちが楽し気に駄弁っているだけだ。それっぽい物というと、空きスペースの壁にいくつも紙が貼られた依頼書ボードがあるくらい。
「ラーヤねーちゃん、依頼見に行っていい? 見るだけだから」
「いいわよ。カイドも何やら話し込んでるみたいだから一緒に行きましょう」
ラーヤさんと2人でボードを覗き込む。
(ふむ、なんかしょぼいね)
(ああ思ってたのとなんか違うな)
ドラゴンの討伐とか盗賊団のアジト攻略とかそういうド派手なのが見たかったのだが、実際は「魔蜂の蜜採取の補助」とか「≪青≫以上の魔石30個」みたいなサブクエ感溢れるものが多い。
「貼り出されてる依頼は基本こんなものよ。依頼は基本的にギルド側の指定で行われるから」
「ええ……じゃあ自分で『こいつは俺が倒す』とかは出来ないの?」
「出来ないわ。まあ、勝手に獲物を探して、勝手に倒してくる分には自由だけど」
ギルドが組織である以上、誰も彼もが好き勝手に行動していたら成り立たない。やはりゲームのようにはいかないか。
少し落胆しつつ、他の依頼書も見てみる。すると端っこの方にとんでもない依頼を発見した。
『≪黄昏≫のエルフの捕獲! ソフマ山脈にて冒険者を爆殺して逃亡したエルフを捕獲せよ!』
もう見出しだけでもピンときた。これ、リアの事か!?
依頼書の詳細情報には、逃げ出した詳しい場所やそのエルフの特徴などが書き連ねてある。そして、その報奨金は……。
「ラーヤねーちゃん、1千万ガルドってどのくらいなの?」
「え、ええ……そうね。この国の小さな村を丸々買い取れるくらいかしら……。庶民なら家族と合わせて一生遊んでも使い切れないくらい?」
「そんなに!?」
何としても捕まえたいという強い意志を感じる。
「ちなみにこの依頼、隣の国のギルドでも見た記憶があるわ。恐らくソフマ山脈に面している国には共有されてるんじゃないかしら」
「うそぉ」
口をあんぐり開けて呆けるリア。それも仕方がない。依頼書にはヴィアーリアという名前まで書かれている。2年前のあの逃走劇はてっきり闇に葬られていたとばかり思い込んでいたが、実際はこんなことになっていたとは……。
「もしかしなくても、これ、ミナトのことよね」
ヒソヒソと耳元でささやかれるラーヤさんの声。リアはゆっくりと首を縦に振った。
「ア、アハハ……もし今名乗り出たら、私たち大金持ちね」
そう言ってリアの肩に手を置く。いや、その冗談はまったく笑えない。
「まあ、依頼書の情報とは結構変わってるみたいだから、バレないでしょ。名前もね!」
「だ、だよね。はは……」
確かに念のため名前は変えたし、依頼書という名の手配書に描かれたリアの情報は結構違う所が多い。土壁色の髪とあるが、それは当時のリアが汚れ過ぎて元が分からなかっただけだ。それに身長に髪の長さも今やかなり違っている。耳も魔法で隠している以上、これでバレたら相当なもんだ……と思いたい。
「おーい、お前らそろそろこっちにこい」
依頼ボードの視察もそこそこにカイドさんから招集がかかった。受付の若い女性と一緒にいるようだが、報告はとっくに終わっているらしい。
リアがパタパタと駆け寄っていくと、彼はその女性に向かって言った。
「この子の冒険者登録を頼む」
「はい、承りました。ではさっそく審査の方を行いたいのですが、こちらの方は冒険者パーティ【暁の御者】の推薦という形でよろしいでしょうか?」
「ああ、それで頼む」
カイドさんと女性の間で話が進んでいく。
というか、また審査か……。まあ、そりゃあ誰でもウェルカムってわけにはいかないだろう。推薦ということで多少の点数の笠増しを期待したいところだ。
始まった審査はまず検問と同じように、個人情報に関する質疑応答からはじまった。名前、出身地、冒険者になりたい理由など、リアは用意していた答えをスラスラ口にしていく。
そして、内容は段々と冒険者チックになっていく。
「魔物を殺した経験は?」
「何度もあります。ここへ来る道中でも100は討伐しています」
「なるほど。ちなみに、一応お聞きしますが、攻撃手段は?」
「剣も使えます。でも、メインは魔法での攻撃です」
「まあ、そうでしょうね」
それから使える魔法を答えるように言われた。偽装や洗脳など一部の危険な魔法スキルを除き口にするのだが……。
「その若さでそんなに多くの魔法を……?」
胡散臭そうな表情を向けられた。どうやら使える魔法が多すぎて現実的ではないらしい。
(いや、そんなことを言われてもねぇ)
(まあ使えるもんは使えるで通すしかないだろ。疑うなら実際に使ってみせればいいんだし)
逆に実力を隠して、いざという時に発揮出来ない方が危険だ。なので、リアはあれやこれやと言葉を尽くして何とか魔法が使えることを認めさせた。
「カイドさん、この子実は有名な魔法使いの弟子さんだったりします?」
「いや、そうではないが……故郷にちょっと長生きしている婆さんがいてな。その人に教わったんだろう。どうなんだ? ミナト」
「そんなかんじです」
とりあえず話を合わせた。魔法を覚えるには高名な魔法使いに教えを乞うのが常識らしい。ならそういうことにしておくのがいいか。
そんな流れでリアは魔法の技術を認められ、冒険者になるための審査をクリアした。まあ、これもコネの力が大きい。紅級冒険者さまさまである。
そしてお姉さんは早急にギルドに関する説明に入った。
知っての通り冒険者にはランクがあり、初めは誰もが『灰』から始まる。それから『黒』『褐』『藍』『青』『翠』『金』『紅』『黄昏』とランクが上がっていく仕組みだ。
このランクがどうやって上がるのかというと、受けた依頼の結果や評判、持っている技術などをギルド独自の計算方法で算出した内部の数字によってランクが決まるらしい。
そして一度上がったランクは不可逆ではなく、依頼の失敗や揉め事を起こした場合には降格もありうるという。
また基本的に冒険者ギルドは魔物や魔獣に対抗する為の機関であるが、稀に盗賊や亜人なんかを相手にする場合があり、それなりの覚悟は持っておくようにと言われた。まあ殺人に対する、だろうけど、こちとらもう2人の男に手をかけた人間だ。今更犯罪者を殺せと言われて何の抵抗感も無いはず。ただ亜人はどうだろう、何の罪もないとなればやはり難しいだろうな。
「今の説明はこちらの書面にて確認が出来ますので、無くさないようにしてくださいね。あと、こちらにサインを……」
いくつかの説明を終え、ギルドのお姉さんはいくつか書類を渡してきた。そして、契約書らしき書類に名前を残し、冒険者登録という一大イベントは終了した。
明日出来上がった冒険者証を貰って、正式にリアは冒険者となる。
まあ、本格的な活動は首都に着いてからになるだろうけど、とりあえずこれから始まる冒険の入口に立てたことを思うと、不安と高揚感と入り混じった不思議な気持ちになった。
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