第38話 里長の判断
「──ってなわけで、俺らはリットの婆さんに呼ばれてきたって訳だ」
「なんだよー! 里長も言ってくれたら良かったのに!」
「あれ? マトサンは知らなかったのか?」
里外調査から戻り、戦士一同は里長も交えて件の4人と談笑していた。
どうやらこの4人、外部の純人ではあるが里の事情に精通しているグループらしく、いつの間にか里長が連絡を取っていたのだと。
事前に教えてくれていたら、リアもあんなヘッスラかます必要なかったのに。
「リアのテストに丁度いいと思ってな」
「えっ、私!?」
「里に忍び寄る純人4人組、リアが私情を挟むことなく戦士として適切に対処できるかどうか……今回はちゃんと出来たみたいだな」
「で、だから私が前線に回されたの?」
ふと、スハラさんの表情を窺う。しかし彼は涼しい顔を見せるだけで答えを出さなかった。
「じゃあ、マトサン戦士長も知らなかったの?」
「おう、まったく聞いてなかったぜ」
「こやつに教えるとうっかり口に出してしまいそうでな」
「そ、そんなことしないぞ! 里長!」
「いーや絶対ポロっと出ちまうね。アンタら、えらい仲良かったじゃないか」
そう言って里親が視線をやったのは、純人4人組の先頭に立っていた大柄の男。そして、山の中でマトサンと話していたのも彼だ。
「ヴィアーリア、紹介しよう。この者たちは純人の国で名の知れた冒険者パーティとして活躍している4人組で……えーっと、名前はなんて言ったか?」
「【暁の御者】だよ! いい加減覚えてくれよ婆さん!」
マトサンと仲がいいという男が答えた。【暁の御者】か……かっけぇ。前後にダガーマーク付けたくなる名前だな。
「冒険者!」
『冒険者』という近頃のファンタジー作品にいつも出てくる謎職業の登場に、リアもワクワクを抑えきれない様子だ。
「【暁の御者】、リーダーのカイドだ。君がヴィアーリアだな。今回は君を連れて街まで行って欲しいとリットさんから頼まれている」
「え、そうなの?」
リアが里長を見る。里長はそれに答えるように深く頷いた。
「うむ。初めて純人の街まで行くのだから、案内人は必要だろう?」
「確かに……というか、今更だけど結局私は里を出ていいの?」
「いい、という他ないな。アンタはこの2年間で着実に課題をクリアしてきた。その努力の結果が今日の里外調査だよ。本当によく頑張ったね」
里長は珍しく優し気な声色で言いながら、リアの頭を撫でた。
「ばーちゃん……っ!」
「おっと」
感極まって里長に抱き着くリア。地味に初めての事で、里長も少し戸惑っていた。
かくいう俺もリアは頑張ったと思う。結局、この2年で俺が身体を使ったのは戦闘訓練の際にほんの少しだけだった。後は全部リア自身の頑張りのおかげだ。
だが、これからが始まりなのだ。そして、次の生活への橋渡しをしてくれるのがこの冒険者たち。
リーダーのカイドさん以外とも挨拶を交わす。
どうやら冒険者パーティというのは俺たちの想像とかなり近いものらしく、それぞれグループにおいて役割を持っているらしい。
例えば、タンク担当のハツキさん、魔法士のカンザさん、ヒーラーのラーヤさん。ここに剣士のカイドさんが加わりパーティ【暁の御者】が完成する。全員が幼馴染で構成され、かれこれ20年以上の歴史のある熟年パーティとのことらしい。
そして、彼らにはこの里との意外な繋がりがわかった。
それはクラナさんがこの戦士の集まりに顔を出した時だった。
「ラーヤ!」
クラナさんはこの場に【暁の御者】がいるとわかるや否や、パーティーの回復担当で紅一点のラーヤさんに向けて一目散に走っていった。
「クラナ様! まあまあ、美人になって!」
「ラーヤこそ、お変わりなく」
ラーヤさんは特徴的なタレ目をこれでもかと細める。その表情は慈愛に満ちていた。彼女の豊な胸元も相まって、ママみが天元突破している。熟女、アリだな。
(魔力ちょい微増)
(実況せんでいい)
それよりもラーヤさんとクラナさんはどういう関係なんだろうか。疑問に思っていたら、カイドさんが横から教えてくれた。
「俺たちとクラナ様は昔一緒に暮らしていたんだよ」
「昔……ねーちゃんが外の村で生活していた時?」
「おお、知ってたか。だが、一緒に暮らしてたのは村を出た後だな」
「ああ……」
そこまで言われるとこちらもピンとくる。
クラナさんは住んでいた村を純人勢力に滅ぼされた。そして、純人の商隊に拾われ、しばらくは純人の街で暮らしていたという。
「じゃあ、あなた達がクラナねーちゃんを拾った商隊なんですか?」
「そうさ。俺たちも元々は逃亡奴隷の子供で村の出身だったんだ。その時は村の外で活動をしていて、馬鹿な貴族があの村に派兵すると聞いて駆け付けたものの着いた時にはもう何もなくなっていた。運よくクラナ様を保護することは出来たが、今までの人生であれほど悔しかったことはない」
そう語る彼の表情は当時の苦渋をそのまま映しているようで、思わずリアは息をのんだ。
「それからもクラナ様には奴隷のフリをして暮らしていただいたりと、随分と窮屈な思いをさせてしまった」
「そんなことないぞ! 私はお前たちに拾って貰って幸福だったと思っている! それにちゃんとおばあ様の元まで連れてきてくれたじゃないか」
ラーヤさんにくっついていたクラナさんが話に切り込んで来る。
リアにとって自身を受け入れてくれたこの里の存在が2年ですっかり大切なものになったように、クラナさんも【暁の御者】に対して同じような思いを抱いているらしい。
「リア、カイドたちは間違いなく信頼できる冒険者パーティだ。安心して街までついて行くと良い」
「何も心配いらない」とクラナさんは胸を張って、彼ら冒険者パーティーを推した。
まあ、そもそも里長のセッティングなので疑うべくもないのだが、クラナさんのお墨付きとなると信頼スコアは5割増しとなる。
それからリアは里長と里を出る計画を立てることになった。
出発は1週間後、それまでは旅の準備を整える。
あと1週間で、数日で、2年という里での生活が終わる。というのに、どこかリアは飄々とした態度を周りに対して見せていた。
街へ行った後の事よりも、俺はそれが心配だった。
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