第30話 リアの憂鬱
つい、やらかしてしまった。
リアがクラナさんとお風呂に入っている間俺は空気に徹していたのだが、あの柔らかなものに頬が触れた瞬間もう駄目だった。
なんもかんも、リアが悪い。
ダメだって言っているのに、クラナさんみたいな巨乳ケモミミ美少女の裸を見せてくるし、それに遠慮なくパフパフしだすし。んなもん興奮しない方がどうかしてる。
(でも、おかげで魔力ブースト入ったから)
(なにが『でも』だ)
確かにリアの言う通り、今体感できる程に身体は魔力で溢れている。
やはりエロければエロいほど魔力のチャージは大きいらしい。まあその体裁は酷いけれども、魔女すらも探し求めている現象を意図して起こせるのは凄いことだ。
ところで風呂場でリアがクラナさんのおぱーいに顔を埋めた時、彼女がこんなことを口にしていた。
『ちょっ、どうした!? というかその目はなんだ!?』
この言葉、初めは「なんだそのスケベな視線は!?」的な意味で捉えていたのだが、実際は言葉の通りだった。
浴場に備え付けられていた鏡で自分の顔を見て見ると。
(紫だな)
(紫だね)
夕焼け色の瞳は、透き通るような
おとぎ話はどうやら本当だったみたいだ。
それから俺たちは里長に瞳の色が変わったことを相談しに行った。
勿論、トリガーについては話さない。「あなたのお孫さんに性的興奮を覚えたからこうなった」とは言えないからだ。
「これは凄いな……遠目からだと≪藍≫に見えなくないが、それだと一気に魔法位が下がったことになるか」
「魔法位は下がってないよ! 魔力量はむしろめちゃくちゃ増えてるし」
「ほう」
里長は顎に指をおいて、数秒ほど考え込む。そして、「お手上げだ」だと首を横に振った。
「すまんが、この件に関して私にはこれ以上言えることはないな。まさか本当に魔女が追い求めていたものをお前が持っていたとは」
「え、疑ってたの?」
「いやそういう訳ではないが、現実にその瞳を見たのは初めてなもんでな」
「そうなんだ。これレアなんだね」
「そうだな。そして、そのことで敢えてひとつアドバイスがあるとすれば、その目を誤魔化す手段はあってもいい、ということだな」
「なるほど」
里長の言わんとすることはわかる。里にいる限り酷い事にはならないだろうが、この瞳は目立つだろう。
まあどうせ魔法の研究は放っておいてもやるんだから、その内どうにでもなるだろうよ。
魔力を増やす手段を得てから更に時間が経過した。里にはもうそろそろ春の色が見え始めている。
今までずっと冬だったといっても、魔法のおかげで寒さに堪えることはなかったから、なかなか新鮮な冬越えとなった。
ちなみに紫の目は数週間で元の夕焼け色に戻った。あくまで魔力は一時的なブーストであるらしい。そして目が戻ったあたりから、リアは継続的にクラナさんと共に女風呂へ出向いている。
勿論それには魔力ブーストを起こす意図があるのだが、俺にはリア自身がクラナさんとの交流を楽しんでいるようにも見えて、なかなか文句も言いづらい。
クラナさんとの関係は良好で、2人は本当の姉妹のようにどこを行くにも一緒だ。これは依存なのかと心配した事もあったが、前に2人きりで風呂に入った時リアはキッパリとクラナさんが姉の代わりにはならないと告げていた。そういうこだわりがある内は大丈夫なのだろう。
ただ、今現在気になることもある。それは時折、リアから『寂しい』という感情が伝わってくること。クラナさんと一緒にいても満たされない、いやむしろ、クラナさんと一緒にいる時にこそ強く感じるものであった。
俺は今まで敢えてそこには触れなかった。でも、薄々その寂しさの正体が分かりつつある。もうそろそろ言ってやらないといけないな。
(なぁ、リア。お前、家族に会いたいんだろ?)
(……うん。たぶんね。そうかも)
恐らく自分でも曖昧な感情だったのだろう。俺の言葉を聞いて改めて納得がいったような返事だった。
(クラナねーちゃんと話しているとね、やっぱり家族の事を思い出しちゃうんだよ)
(だろうなぁ。本当の姉ちゃんみたいに優しいからな)
(そう。それでね、ふと思ったの。私は今、こんなことをしていて、いいのかなって)
両親も、姉も恐らくはまだ生きていて、奴隷として大変な目に遭っているのだろうと簡単に予想がつく。それなのに、今自分は安全な場所で新しい家族と過ごしている。それがリアの中で罪悪感すら生んでいた。
リアはこの里へ来た頃、すぐにここを出て行くと言っていた。家族を探す為に外へ出る。だがこの里に馴染めば馴染むほど、その気は薄れてしまっていた。あまりにここが平和で居心地のいい場所だから。そして、クラナさんが好きだから。
(ねぇ、ミナト。私どうしたらいいかなぁ)
俺たちは許されてこの里にいる。一度保護された以上、この里から出ることなんて、果たして許されるのだろうか。
かと言って、悠長にしていられるはずもない。今こうしている間にも、リアの家族は苦しんでいるだろう。いつか取り返しのつかない事態になってしまう前に、探し出さなくては。
(なあ、一度里長に相談してみないか?)
(えっ、ばーちゃんに? 大丈夫かな?)
リアは不安そうだ。数か月経って呼び方が『ばーちゃん』と砕けた今でも、里長の事は少し怖いらしい。でもここはやっぱり長に相談するしかないだろう。
(大丈夫だって、相談するだけなんだから)
(そう、だよね……うん。そうしてみる)
リアは覚悟を決める。この日の夕食後、茶を啜りながらゆったりと過ごす里長へ俺たちは相談を持ち掛けることにした。
「あの、ばーちゃん……いや、里長。ちょっと相談があるんだけど」
「ほう……相談か。その様子だと真面目な話なんだろうな?」
リアは神妙な面持ちで頷いた。側にいたクラナさんも少し顔を緊張させて席に着いた。
「なんだ、言ってみな」
「あの、えっと、実は、里を出たいと思ってまして……」
絞り出すようにリアが言った後、数秒の沈黙が訪れる。あれ、小さすぎて聞こえなかったのか?
「リ、リア……ど、どうしたんだ? 何か悲しい事でもあったのか? も、もしかして原因は私なのか?」
「いや、そういうことじゃないけれど……」
沈黙を破ったのは、オロオロ慌てだすクラナさんだった。子供の家出かなんかだと思われているのか。
「クラナ、座れ」
「は、はい……すみません」
「リアはとりあえず説明をしなさい」
里長として相談したためか、里長の表情は怖い位に真剣だった。
「じ、実は──」
恐る恐るリアはそう思うに至った理由を2人に向けて語った。
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