第27話 ウソみたいな力の条件
「ところで、どうして魔力ブーストの話になったのだ?」
「おばあ様、えっと……」
クラナさんは本人に代わり、リアに起こったかもしれない魔力の上振れについて説明してくれた。
「ふむ。そういうことか」
「信じてくれるの?」
「そうだな。実は私も、お前が結界魔法に魔力をなみなみ注いだ後もケロッとした表情をしていたのが気になっていた。だから、もしブーストが起こっていたとしても不思議はないと思うのさ」
あの時はリアと俺たちの間だけで完結させていたはずだが……。やっぱり見てるもんだな。
「そのブーストってどうしたらまた起こせると思う?」
「そりゃあ、もう一度ブーストのきっかけになった感情を呼び起こせばいいのではないか?」
「んん??」
簡単なようで難しい課題であった。何せ何の覚えもないのだから。
プラスの感情か、それともマイナスの感情か。おとぎ話に則って考えると、強い感情がキーになってくるのだろう。だけど、俺たちは誰かを守りたいと思った事なんてないし、そこまで強く敵を倒したいと思っていたわけでもない。ただ一心に生き残りたいと思っていただけだ。
そもそもその感情はリアのものが起因となっているのか、それとも俺なのかが分からない。
「悩むのであれば、一度自分の行動と感情を顧みるといい」
と、悩む俺たちに現実的なアドバイスが下りて来た。
「では、私はそろそろ夕飯にします。おばあ様」
「ああクラナ、すまんな。よろしく」
夕飯の準備の為に炊事場へ向かっていくクラナさんを見届けて、俺たちは自分たちの記憶を整理することにした。
「んー……わかんな」
「こら、リア。ご飯が冷めるから早く食べないか」
「あ、ごめん」
記憶の洗い出しに集中しすぎた結果、いつの間にかテーブルには夕食が並べられていた。俺たちは一先ず回想を止める。
野菜を中心とした超ヘルシーな夕飯を頂いた後、俺たちはまたクラナさんの後に引っ付いたまま記憶の整理を続ける。
(もう一度気絶して里に来た後からね? 起きるでしょ、その後手枷付けられて『やだなー』って思った。ミナトはどう?)
(俺も『窮屈』とか、後は『寒い』とかかな。そんでクラナさんが来て、リアはめちゃくちゃ警戒してたよな?)
(そうだよ。自分を捕まえた人の一味だからね。『信用ならない!』って感じだったかな)
もう何度も自分達の抱いた感情を振り返った。だが、どれもあまりしっくりこないというか、正直ありきたりな感情だった為、これがトリガーとなって魔力を生み出すとはあまり考えづらい。
「リア、魔法で水を出してくれないか? 朝食の仕込みがしたいのだが」
「ああ、うん。わかった」
クラナさんの呼びかけで一旦リアの意識が現実に戻る。
(ミナト、悪いけど裏で考えといて)
(あ、ああ……)
ということで身体はタライに魔法で水を張る作業に入った。
さて、じゃあ俺はもう一度回想に入りますか……。
『寒い』『痛い』『窮屈』『不安』『郷愁』
気が付くと小屋にいた俺の心には様々な感情が渦巻いていた。そして、クラナさんが現れて、久しぶりの女性にテンションが上がった。里長の尋問が終わると一安心して、その後結界を直しに行った。その時はどうだ? ケンゴウとマトサンとかいう戦士との再会にビビり散らした後、クラナさんの巨乳に埋もれた。あれは最高だったな……。って、ダメだ。軌道修正。ええっと──。
生まれた煩悩を打ち消そうと必死になっていた時だった。
「それだあぁぁぁ!」
突如、身体に電流が走る。
「ど、どうしたリア!?」
急に叫んだせいで、クラナさんビックリしちゃったじゃん。勿論、俺も驚いた。
(なんだなんだ!?)
(思い出した! というか、あえて思考から外してたんだ!)
(え、なにを!?)
答える暇もなく、リアは行動をとる。腕がクラナさんの方へ伸びていったのだ。
「ねーちゃん。ちょっとごめんね」
「え? なにを……わっ!」
そして、クラナさんへ申し訳程度に断りを入れると、彼女の豊かな胸に触れた。
「ふむふむ、やっぱり大きいなぁ」
「こっ、こらっ! そんなところをペタペタさわるな!」
「ごめんっ! ちょっとだけ協力して?」
「協力!? 何のだ!」
言い合いながらもクラナさんの胸をまさぐるリアの手のひらの動きは止まらない。
(うわぁ……すごっ……重量感やばいな……えっちだなぁ……ハッ! こらリア! お前はいきなりなんつうセクハラを!)
(ちょっともうっ! 急に冷静にならないで! そのままねーちゃんに興奮しておいてよ!)
(なんでだよ!)
(そんなの魔力の為に決まってるじゃん! 気づいてないの?)
(はぁ? 魔力ってどういう…………え、マジ?)
身体を巡る魔力の圧の強さを感じて俺は一瞬フワッとした感覚に陥った。
そう、大量の魔力が今リアの身体の中に生まれているのだ。
トリガーとなった感情は、つまり今クラナさんの胸に対して俺が抱いた感情……。え、嘘だよな?
「なんだもうお前は! 甘えん坊か!」
「そうなの。ねーちゃんのおっぱいを見ていたら、家族を思い出しちゃって」
「うぅ……そんなこと言われたら怒れないじゃないか」
「ごめんね?」
「……次はちゃんと声を掛けてくれ。そうしたらいくらでも抱きしめてやるから」
「うん。ありがとう」
優しいクラナさんの反応に罪悪感を覚える。コイツ、家族への恋しさを利用しやがった。いやまあ、完全にウソとも言えないんだろうけど!
しかし、そうか……。俺たちの魔力ブースト条件はまさかの『発情』だった。しかも、おそらく主体は俺だろう。
(おとぎ話だと『大切な人を守りたいと思う心』だとか、凄くカッコいい条件だったじゃん。何で俺たちだけそんな、ひでぇ設定なんだよ……)
(いやでもエロゲー大好きなミナトにピッタリじゃん!)
(馬鹿にしやがって! エロパワーで魔力アップするはお前も一緒なんだぞ!?)
(別にいいし。というか、『大切な人を守りたい』とかいう限定的な感情が条件になるより、よっぽど扱いやすいと思うんだけど?)
(確かにそうだが……)
なんでこんな冷静に物事を考えられるんだ。俺は正直落ち込んですらいるというのに。
確かに俺はスケベに終わった人生を送った。それはリアという女児の身体に入り込んでも変わらなかった。要は男としての性欲を失っていないのだ。
よくある話だが、身体が変われば精神もそれに合わせて変容していくという。だが、リアの身体に入って数か月たった今でも、俺はクラナさんの巨乳に目を奪われてしまうし、触ったり舐めたり揉みくちゃにしたいという欲求もある。欠けることのない過去の記憶がそうさせているのか、俺の精神は何か膜のようなものに覆われているようで、自分らしさを見失うことがない……気がする。
もしかして、そのエターナルな性欲も魔力ブーストを引き起こす原因なのか? いや、アホなことを考えるのはよそう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます