第26話 魔力ブーストが起こる条件
「何を言っている。魔力が突然、魔法位以上に膨れ上がることはあるぞ?」
「あ、おばあ様!」
里長が帰ってきた。いつから話を聞いていたのだろうか。
「おかえりなさい」
「ああ、ただいま。クラナが魔法の話なんて珍しいではないかと思ったら、やはりお前か」
瞼の皴が負ぶさったアーモンド型の目に睨まれる。ただ、今回は怒っている様子ではない。また何を言い出したんだ? という興味からだろう。ひと月も一緒にいるので、なんとなくわかる。
「私だよ! というか、面倒なやりとりはいいから、魔力のことについて教えて!」
「なんだ、せからしいヤツめ……まあいい。……して、魔力が上振れする件だが、純人の国では稀にそういう事が起きるのだそうだ」
「そうなのですか? おばあ様」
コテン、と不思議そうにクラナさんは首を傾けた。純人の街に住んでいた経験があるのに知らないのか。
「稀にって、どのくらい稀なの?」
「そうだね。大体数100年に一度というところか」
「ひゃく……稀すぎるでしょ!」
いやそりゃあクラナさんも知らないわけだ。純人の寿命は大体、60年くらいだと聞く。ならば街に住む人間が知らないのも頷ける。
そしてそんな情報を持っているとは、この婆さん流石オーバー250歳の化け狐だけあるな。
「お前、今何か失礼なことを考えたな?」
「え、いやなにも!?」
リアも同じことを考えたようで、それがそのまま顔に出てしまったらしい。
「いいから、話の続き!」
「まったく調子のいい……で、まあ稀にそういうヤツが現れるという話だ。勿論、純人たちの寿命は我らよりも短いので、実際にそんなヤツを見たって人間はもうとっくにこの世にはいない。だが、それはおとぎ話となって後世に語られているのだ」
「おとぎ話!」
ついさっき、それを聞かされたばかりだった。
「私もよく自分の娘に、『竜滅の勇者』の話を聞かせてやったよ。あれは魔力の上振れ……ブーストによって竜を倒すという話だったが、おとぎ話の中にはそれと同じように、ブーストによって何かブレイクスルーを起こすといった話が多くてな。おそらくは実際にあった話を元にしているんだろうと考えられる」
「私が母から聞かされた話は、元を辿ればおばあ様から伝わったものなのですね!」
「そうだぞ。他にも聞かせてやったはずだが……」
「いえ、母からは竜退治の話しか」
「そうか……」
沈黙がこの場を飲み込む。
クラナさんの両親が里にいないということで、そこに関して踏み込み難い事情があるのはある程度察せられた。
「他の話って?」
リアはあえて空気を読まずに話を進める。話の続きに入って欲しかったのも確かだが、やはり踏み込み難いというのが一番だろう。
「ああ、そうだな」
そして里長は他にもいくつか該当する話があることを語った。
例えば、亡国寸前の騎士が祖国を守るために最後の力を振り絞る話だったり、飢えに苦しむ少女が魔法の力によって荒野を実りの森に変える話であったり。それらの奇跡としか思えない現象は全て魔法によって引き起こされた。そして、そんな魔法を可能にするのは勿論、持ち前の魔力が上振れた結果だろう。
おとぎ話や伝承というのは勿論創作によって生み出されたものであるが、実際の人物の英雄譚や逸話から派生したものもある。つまり、魔力の上振れとは、それらの物語に登場するような英雄然とした人物に現れるといえるのかもしれない。そこまで考えつくリアであったが、その中でどうしても気に入らない部分が出てくる。
「どうして、話の主人公はみんな純人なの? 獣人やエルフの話はないの?」
「ない事もないが……正直に言うとほとんどない。そこは数の差と、純人の特性だろう」
「特性?」
「ああ、純人は我ら非純人と違って、寿命が短く子供もできやすい為、世代交代のサイクルが早い。その分特別な力のある者が生まれやすいと言えるのだよ」
獣人やリアたちエルフは寿命が長く身体能力なども秀でている代わりに子供が生まれ辛いらしい。確かにリアも姉と20年ほど歳の差があったし、この里を見てみても純人に比べて、獣人の子供の数はあまり多くなかった。
だから単純に試行回数的な意味で考えれば、純人の方がそのブーストを起こす人間が生まれやすいと言える。
「あとはまあ、これも大きい要因なのだが……魔力ブーストはその人間のそれぞれ特定の感情が起因になる事が多いらしいのだ。物語でもそうだっただろう? 大切な人を守りたいとか敵に打克ちたいとか、な」
「感情……確かにそうだったけど」
「だから純人の間でブーストという力が目覚める者は多いと言われている。純人は大陸に沢山の国を作り、繁栄と衰退を繰り返し、時には殺し合ったり。そして、その裏には宙の星々と同じく無数の激情が犇めいているのだから」
感情や思い、激情……か。魔力の根源は人の魂にあるらしい。これはエルフの里ですら常識となっている事実で、ゲーム本編でも心のある生物にしか魔力は生み出せないと記述があった。そう、牛や犬をはじめとした家畜に魔力は宿らないのだ。勿論、彼らにも心はある。だが、それは人に比べるとはるかに希薄なもの。だから正確に言うと、高度な精神構造を持つ生物──というのが正しいか。
だから何らかの感情が魔力をもたらすという考えに一定の信憑性は感じられた。
「やっぱり里長はもの知りだね」
「まあ、伊達に長生きはしていないよ。それに丁度魔力のブーストを研究している人間が近くにいたしなあ」
「そうなの?」
「ああ、前にも話題に出したが、それが魔女だ。あの人は何百年も前から無限に近い魔力を求めて研究を続けている……が結果は芳しくなかったようだな。今はどうだろう……少しは進展しているのだろうか」
また魔女か。魔法とか魔力の話になると出てくるな。実際それほどの権威なんだろう。
だが逆にだ。それほどの人物が未だ諦めずに研究を続けているということ自体、「ないこともない話」だという証拠だと言えるのではないだろうか。
そして、里長ですらその魔女と最後に会ったのが170年ほど前なので、その人の中で今はどういう結論になっているのだろうか。俺も気になる。というか、魔女に拾われたというリアの姉ユノのゲーム設定を考えると、その魔女にはいつか必ず会わなければならないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます