第24話 リアの苦手を探る②
リアちゃんは綺麗なお姉さんと話すと緊張するらしい。
……中学生男子か! とツッコみたくもなる。
(いやいや、お前女の子だろ。そんなことある?)
(そんなこと言ったって私、お姉ちゃんくらいしか若い女の人知らないし、ミナトだってそんなに女の子慣れしてるわけじゃないでしょ?)
(うっ……それを言われると弱いな)
生前俺が仲良かった女の子なんて、片方の手で足りるくらい。人見知りのリアの経験不足をカバーする足しにはならないな。……あと、ユノってリアと20歳くらい離れているから普通の人間感覚では若くはないぞ。
まあそれはともかく、緊張するから代わるというのはリアの為にならないだろう。クラナさんの場合は特殊な出会いをしたことで、すんなり仲良くなれた。だが初めて話すような人となるとやはりすぐに仲良くなるのは難しく、慣れるまで頑張る他ない。
ここは何とか本人に乗り越えてもらおうと、俺はリアとのスイッチを了承しなかった。
「あたし怖くないよー?」
「だだだ、大丈夫っ!」
リアも無理やり俺に操縦権を渡すという荒業を選択することなく、サギナンと向き合った。
「怖いとかじゃなくて、その、緊張しているの!」
「緊張?」
サギナンは首をかしげた。確かにこの子も凄く可愛いな。リアが緊張するのも無理からぬ話だった。
そして、それから5分ほどが経過する。結局リアはサギナンとは会話が成立しないまま、無言のまま目を合わせてはリアが逃げる、の繰り返し。とりあえず、拒否反応が出ないことは分かった。
「うん。よし、それじゃあ、次はヨモだ」
「え、わたし? 今のは何をしていたのかなぁ?」
当惑しつつもとりあえず、リアの向かいに立つのは、ヨモこと純人のお姉さん。
彼女は「いいのかなぁ……」と心配そうに独り言ちながら、リアの手を握る。
「ねね、クラナ様、この子大丈夫なの?」
そしてまたもやリアは固まった。
ヨモもサギナンに負けず劣らず美人だ。いや、美人だからリアがこうなっているわけではないけれど。
「リア、平気か?」
「ああ、うん……へーき、へーき」
「なるほど。では純人といっても、若い女なら平気なのか」
リアからは恐怖の感情は一切伝わってこない。心臓が壊れそうなほどの緊張は伝わってくるけど……。
「よし、ありがとう。もういいぞヨモ」
「あ、うん」
終始頭にハテナを浮かべていたヨモはそのままリアから離れていった。
「次は男性だな。といっても、大人は無理だから……ほら、お前たちの番だぞ」
クラナさんに呼ばれて、退屈そうに地面の草を抜いて遊んでいた男の子たちは飛び起きるようにクラナさんの側に寄ってくる。
「クラナさま、ひまだよー!」
「もう、あっちいっていい?」
「お前たちすまんな、もう少しだけお手伝いしてくれ。えっと、今からこのヴィアーリアお姉さんに触って欲しいんだ。えっと、順番は──ああっ! こら!」
クラナさんが指示を出す、その前に2人はいっぺんにリアの下へ駆け寄り、その身体に触れる。
「いっ!?」
痛い。ガキ共は左右の耳をそれぞれ引っ張ってきやがった。
「こら! お前たち!」
「えー、だってコイツにさわれって言ったじゃん」
「そうだそうだー」
「耳を引っ張る奴があるか!」
「わー!」
「クラナさまが怒った!」
騒ぎ立てつつ、2人の子供たちは逃げていく。
「こら待て!」
「ちょっ! クラナ様!? あの子たちよりも、ヴィアーリアちゃんは!?」
「ああっ!? そうだった! っと、ウヨゥを頼む!」
抱きかかえたままの少女をお姉さま方に託し、クラナさんは耳を押さえるリアの側へ。
「大丈夫か!?」
「くぅ……痛かった」
アイツら結構力いっぱい引っ張りやがった。子供と言えど侮れないな。
「まだ痛むか? 見せてみろ」
クラナさんがそう言ってリアの右側頭部の髪をかきわける。すると、右耳に何やら不思議な感覚を覚える。その瞬間、スッと痛みの余韻が消え去った。
「ねーちゃん、これって」
「ああ、これが治療魔法だ。前、リアに使った時は気絶していたから見るのは初めてだろう」
「うん。凄いね。痛みが一瞬で引いていったよ」
「それはよかった。じゃあ、次左の耳を見せて」
同じように左耳も治療してもらう。別に放っておいたらその内治るんだろうけど、クラナさんの気持ち的にそれでは気が済まないようだ。
「すまない。あの子たちは後で私が叱っておくから」
「うん。まあ、よろしく」
「はぁ……リア、今の感じだと、どうだろう。あの子らは男の子で片方は純人だったわけだが……」
「えっと、とりあえず、恐怖は感じなかったかな。耳を引っ張られたけど……」
あの獣人のおじさんに対して感じたリアの恐怖は伝わってこず、さらに言えば純人に対する粘っこい嫌悪感もなかった。ただその代わりにシンプルな苛つきは伝わってきたが。
(ミナト、私わかった。男で、純人だとしても、子供なら大丈夫っぽい)
(そうか。それはよかった)
(ただ、ね。私、ショタが嫌いらしい)
(はぁ?)
一体、何の話だ。
(はぁ、じゃないよ。ミナトもおねショタ作品は避けてたじゃん)
(うん。まあ、そうだけど)
俺の場合、『エロ』と『幼さ』の2つの要素にシナジーを感じなかっただけだ。よってロリもNG。ただ、それは性癖の話であって、ショタが好きか嫌いかとは関係がない。
(とにかく私、男のガキは怖くないけど、嫌いだから)
(そ、そうか……)
うーん。これはトラウマ的な憂いがないと分かって安心すべきなのか。……わからない。そうしておこう。
「ねーちゃん、とりあえず私、女の人なら大丈夫そうだよ」
「そうか! よかった!」
女の人なら大丈夫。でも話が出来て、仲良くなれるかどうかはまた別の話だろう。あれほどお姉さん相手にアワアワしてたらな。
「これからちょっとずつ慣れていこうな」
「うん」
だが、まあこの里にもクラナさんのように心からリアを思ってくれる人がいるんだ。何とでもなるさ、という安心感が溢れた。
「ん?」
「どうしたリア?」
ふと、リアの高性能エルフ聴覚が異常を察知する。
「泣き声が聞こえる。あのクソガキ共の」
「クソガキって、チィユンたちのことか?」
「そうそう。そんな名前だった」
「えっ!」
報告をしている内にその声は段々と大きさを増していく。
「クラナ様! 大変! チィユンが!」
あの獣人の子供チィユンが背の高い少年に担がれて、クラナさんの元へやってくる。リアは突然現れた自分より大きい男の存在に驚き、反射的にクラナさんの背に隠れる。
「ど、どうした? ──ああっ、チィユン。凄い血じゃないか」
チィユンの足は大きな切り傷を負っていた。
うわぁ、酷いな。何をしたらああなるんだ。うぅ……やっぱり人の血を見るのって結構キツい。
「痛いぞ。我慢するんだチィユン」
「ひぃぃぃ」
早速治療を始めると、チィユンは声にならない悲鳴をあげた。男の子は痛みに弱いからな。
そんな彼をクラナさんはテキパキとした手順で治療していく。そこに今までの頼りなかった彼女の影はない。
魔法とは凄いもので、あっという間に痛々しい傷跡は消えてしまった。
「ほら、もう大丈夫だ」
「うぇぇ……痛かったよぉ」
「よしよし。次は気を付けて遊ぶんだぞ」
「うん……ありがとうクラナさま」
クラナさんが笑みを浮かべて背中をトントンしてやると、チィユンは何もなかったかのようにまた元気に走っていった。
「ふぅ」とひと仕事終えたクラナさんが額の汗を拭う。
「お疲れさま」
「ありがとう。でも、こんなのいつものことだよ。ここの子供たちは皆元気いっぱいだからな」
この里で治療のできる人間は他にもいるそうなのだが、クラナさんが対処することはよくあるのだという。
里長の孫がわざわざ、という違和感はもはや生まれなかった。彼女は自分の立場というものを意識しており、その上で里の皆の為に汗を流したいと思う人だということを知っているからだ。
「さて、じゃあそろそろ家に帰るか」
リアからなんとも形容しがたい温かさが伝わってくる。
今日、クラナさんはちょっとそそっかしかったり、気合の空回りするところを多々見せられたけれど、リアの好感度でいえばこれ以上ない位上がった。知れば知る程好きになる人だ、と俺もリアもそう思った。
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