第18話 姉への手がかり
(ミナト、ごめん。そろそろ代わって……)
魔法の話が絡まないと、人見知りのリアはただのコミュ不少女と化す。外を確認に行った2人を待つ間、何とか銀髪獣耳の2人と話をしていたが、ついに限界が来たようだ。
(お、お疲れ)
別に俺自身コミュニケーション能力が高いわけではないが、少なくともリアよりはマシだろう。特に今はあのクソ強い男2人がおらず、超美少女のクラナさんがいる。明確に敵対関係のなくなった今、むしろ進んでお話したいまである。
だが、いきなりガッツいて引かれても嫌だし、とりあえず今は無難な話題を振っておくか。
「その袋はどうなるんですか?」
「ああ、これはヴィアーリアに返そう。非常に高価なものだが、こっちでも食料を備蓄する用にひとつ保有しているんだ。取り上げはせんよ」
「ああどうも」
それはありがたい話だ。これは凄く便利なものだからな。大量の荷物を持って歩く必要が無くなる。
聞けば、里でも生産された食料を備蓄する目的で使用されているらしい。リアが解析したところ、あの袋には時間遅延の魔法がかけられているので、その使い方がベストだろう。
もしかして、他の国でもこういう現代日本にすらなかった便利な道具が広まっているのだろうか。
「これはエナルプ……じゃなくて、純人の国に行けば買えるものなんです?」
「いや、基本的には売っていない。これは気まぐれな魔女が気まぐれに作っていてな。滅多に出回らないんだ。市場へ放り込まれたら、小国の国家予算レベルの金が動くこともある」
「えっ! じゃあこれコレ、めちゃくちゃ貴重なものなんですか!?」
「当たり前だろ。何を今さら」
驚いたものの、この袋の能力を考えれば当然だ。何せ、これがあるだけで物流や食料備蓄の常識がひっくり返る。
それにその気まぐれな魔女とやら一人しか作ることが出来ないとなれば……。
「なんでそんな凄いものがこの里にもあるんです?」
「そうだな。私はその魔女にちょっとした伝手があって直にお願いしたのだ。実はと言うと、そこの結界魔法が刻まれた石碑もあの人が作ったものだ」
「へぇー魔女! この里にいたら、その人に会えると」
「いや、無理だろうな。私が最後に会ったのも、何百年も前のことだ」
「な、なんびゃく……?」
時間のスケールどうなってんだ。
リアは長命のエルフだけど、まだ14歳で、今の所普通の人間と比べても濃い人生を送っている。彼女も俺と同じ感覚で驚いていた。
「というか、すいません。里長は何歳なんですか?」
「歳か? ……250を越えてから数えるのを忘れたよ。銀狐族の寿命は長いんだ。アンタらエルフには敵わないがな」
「えっ!? ということは……」
「ヴィアーリア、そんな急に年寄を見る目を向けるな。私はまだ20だ」
「ああよかった……というかまだJDくらいの歳なんだ」
「じぇーでぃー?」
250年以上生きる長寿民族の20歳はもはや赤子ではないだろうか。それとも銀狐族とかいう種族もエルフと同じく、成長の度合いは普通の人間と大差ないのかもしれない。
しかし魔女ときたか。魔女という単語はゲーム『花束*ヴァイオレットマジック』にも登場する。確か舞台となった魔法学院を作った人物として設定されていた人物だ。フワッと設定だけ出てきた人物だが、リアにとっては重要な人物だったりする。何せ、その魔女は姉であるユノ・トワイライトを奴隷として買い上げ、魔法学院へ放り込むまで教育を施した人物であるからだ。
里長の言う魔女が、ゲームの設定の魔女と同一人物だとすれば、思ったよりこの世界は狭いのかもしれない。
(つまりその魔女に会うことが出来れば、お姉ちゃんの居場所がわかるかも?)
(そうだろうな。ひとつ手かがりが見つかったわけだ)
(まあ、その魔女さん神出鬼没みたいだけどね)
寿命的には可能なんだろうが、流石にこの里で何百年も待つのは現実的でない。リアは我慢がきかない子だから、むしろ自分から探しに行く方が性に合っている気がする。
(というか今更だが、リアはずっとここで暮らすつもりなのか?)
(そのつもりはないよ。出られるかわからないけど、そのうち家族を探す為に旅をしたい。でも、今の私には常識も、知恵も、強さもない事は自覚してるからね。出来るだけここで準備していきたい)
(そうか……)
意外と言っては悪いが、リアも考えているんだな。
一方で俺はこの世界で何を為すべきか未だにわからない。リアの身体に入ってしまった以上、リアと別の行動をとるなんてことは不可能だ。ただそれでも、俺個人としてどう生きたいか考える権利くらいはあるはずだ。しかし、それはまだ浮かんでこなくて。
(とりあえずリアに付き合うよ)
今は「リアの役に立つ」という目の前の大事に向き合うしかない。
妹エルフの裏の人としてファンタジー世界デビューを果たしてから約3か月。実はこれが全て集中治療室で見ている夢なんじゃないかという疑念も捨てきれない。だが、確かに俺は今ここで息をしている。そして、その現実は命がけの日々だった。
だが、そんな日々も今日から一旦の安寧を迎える。
「おおーい! 里長あー!」
ドタドタと忍びらしからぬ足音を鳴らしながらケンゴウがこちらに向かってくる。建てた親指を掲げながら、その表情は笑顔を作っていた。どうやら結界は正常に機能しているようだ。
結界を破壊したという罪が消えた……とまではいかなくとも、一先ず軽くはなった。
これからは里の一員として精いっぱい生きていこう。
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