第14話 追いケモミミ
食事が終わると、ケモミミのお姉さんは食器を持って茅葺屋根の家を出て行ってしまった。
終始、彼女の対応はかなり融和的だ。本当に尋問の結果次第で殺されてしまうのだろうか。
それにしても、お姉さん美人だったな。見た目20歳前後のナイスバディで、前世と同世代である俺の好みにドストライクだ。
(ミナト、どうする?)
(どうするって、どうしようもないだろ)
(だよね。はぁ……殺されるかもしれないのに何も出来ないなんて)
(そこなんだが、『尋問の結果によって』ということは、許される余地は十分にあるんじゃないだろうか)
(うん、まあそうだよね。結界を破壊したことよりも、
あの山の偽装魔法は結界であることがわかった。結界というのは大抵、中の物を外敵から守るためにあるもの。という事は、ここの人たちは外界とは相容れない存在であるということがわかる。
そしてリアを仕留めたヤツらやお姉さんは獣人。……見えてきた。
エナルプ(特徴のない人間)はエルフ同様、獣人も支配しているのかもしれない。であれば、同じ被支配民であるリアとは反目するべきではないと思う。その過程に沿って行動すれば、精神支配の魔法をかけられたとしても何ら問題ないのではないだろうか。だから、今更こちらに出来ることも、やれることもない。
……でもやっぱり不安だなぁ。
審判を待つ被告人とはこういう気持ちになるのか、と考えながら時間は過ぎていった。
食事を摂ってからひと眠りした後、また小屋の扉が開かれた。
今度は銀髪ケモミミのお姉さん……ではなく、同じ毛並みのケモミミお婆さんだった。
(ミナトよかったね。また女の人が来たよ)
(怒るぞ)
飢えているとはいえ流石にな。
ただ婆さんはさっきのお姉さんと血の繋がりがあるのか、同じように色素の薄い毛並みをした、何と言うか整ったばあさん獣人だ。
「アンタが結界を壊してくれたクソガキかい」
開口、クソガキ呼ばわり。しかも、≪黄昏≫の瞳でギロリと睨まれた。
魔法位は一緒でもさっきのお姉さんとは違い、態度は融和的でないようだ。
「はい、そうです。ごめんなさい」
俺は出来るだけ従順に努めることにした。
ちなみに今回コミュニケーションをとるのは俺だ。精神支配魔法が裏人格に及ばない可能性も考えて、裏にはリアが控えている。どうやら、魔法の詳細が知りたいらしい。死ぬかもしれないってのに、相変わらず魔法のことばかり優先するやつだ。
「おかげでこっちは大忙しだよ。ったく、老骨に染みるわい」
お婆さんはわざとらしく、自分の肩を叩いて見せる。
「私はリット、ここの長だ。今からアンタを尋問する」
そう言って、リットと名乗ったお婆さんは今までの老人っぽい話し方を封印した。里長というだけあって、迫力が凄い。
しかも最高位の魔力だ。きっと魔法に精通しているのだろう。精神支配なんて、穏やかでない魔法を使えるんだから。
「まず自分の口で答えな。名前は?」
「ヴィアーリアです」
「ではヴィアーリア、どうして結界を破壊した?」
精神支配はされていない。……が、ここで嘘をつくメリットはない。
「偶然結界を発見して、調べようとした結果誤って壊してしまいました」
「ふん、あの結界魔法を間違って壊したと? そんな簡単な造りにはなっていなかったはずだが」
「私の魔法位は≪黄昏≫です。それに、魔法には多少の自信がありました。今まで色んな魔法スキルを解析して、改良したり再構成したりしてきました」
「なるほど。では結界魔法の解析は済んだのかい?」
「いえ、途中で破壊してしまったので最後までは」
なんだかバイトの面接を思い出すなこれ。面接官の威圧感が凄い。
「『偶然発見した』と言っていたが、どういう形で発見したんだ?」
「魔物の解体中に使っていた魔法が偶然岩肌に当たりました。魔力が溶けていく感覚が気になって、それで──」
「ちょっと待ちな」
そこで、供述を遮られる。
「結界の外に魔物がいたんだな?」
「は、はい……。直立したイノシシみたいなやつがいました。他にも吸魔や小鬼も沢山。あと、魔獣も大量に。だから近くに集落があると思って探してたのです。まさか山の中にあるとは思いませんでしたけど」
「……なるほど。ちなみにどのくらいの範囲で見た?」
「えっと、魔獣が出始めたのは、ここから私の足で東に4日くらいの場所です」
今思えば、西進するごとに増えていった魔物や魔獣たちは、この隠れ集落から供給された魔力が原因だったのだろう。
俺の話を聞いたリットは急に黙り込む。
「あの、どうかしました?」
「ん、ああ……結界の外に魔物が増えている状況は私も知っているんだ。だが、そんなに遠くまでとは思わなかった。やはり、結界の張り直しを早急に行わなけばならないな……」
「え?」
「あれは結界の中と周り一帯の魔力をある程度まで吸いあげるように設計されている。何故ならアンタが感づいたように、何もない山の中で魔物や魔獣が繁殖してしまったら『この辺に集落がある』と言っているようなものだからだ。まあ、このあたりにくる人間もそういないがな」
その話から察するに、人口増加やら何やらの要因で吸い上げる魔力の量がこの結界の中で生まれる魔力量に追いつかなくなったのだろう。だから漏れ出した魔力があの数の魔物や魔獣を生み出したと。
「まあ、それはこっちの問題だ。それよりもアンタの事を話せ。どうしてアンタみたいなガキのエルフが一人でこんな深い山の中にいるんだ? このソフマ山脈にエルフは生息していなかったはずだが」
「それには深いわけがあります」
リアの故郷が人間たちに蹂躙されてからの事を話す。そして、どうしようか迷ったが、俺という存在は敢えて話さないことにした。記憶を媒介できない相手に説明することは中々に難しそうだから。
魔封じの枷については、魔法位が途中で成長したと伝える。それだけなら無い話ではないらしいから。それに、あながち嘘でもないからな。
そして、俺たちの背景を知ったリットは……。
「そうか……。一人で辛かったな。私たち獣人も純人には狩られ続けてきた歴史がある。だからこそ、我々はこの隠れ里を作ったのだ。だからもう安心していいぞ。この里はアンタを受け入れる」
チョロ……じゃなくて優しい態度。
「さっきの説明が嘘じゃなかったらな」
……でもないらしい。
やましい事はちょっとしかないのに、何故かドキドキする。そう、警察とすれ違う時無条件で緊張するみたいな感じ。
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