獣人の隠れ里
第13話 女だ!女がいるぞ!
「んぁ……?」
意識が覚醒する。
ガサガサと藁の擦れる音がする。まず初め目に入ってきたのは木造の屋根組みだ。四方から屋根を支えるように丸太が組まれている。茅葺屋根と言ったか、昔家族で行った観光地の古民家風カフェがこんな内装だったなぁ。……というか、天井らしき天井をこの世界で初めて見た気がする。
あの獣人の2人組に気絶させられて、ここに閉じ込められているんだろうか。といっても、この建物には鍵らしきものは見当たらないので、普通に出られそうではある。ただ今は様子見かな。
リアはまだ起きていないのか。起きてきたらこの状況をどんな風に思うだろうか。
「っしょ……」
身体を起こす。手首には久しぶりのアレがついていたので、少し起き上がるのに苦労した。
しばらくして、身体の操縦権が切り替わる。リアが起きてきたようだ。
(起きたか)
(うん、おはよ。で、これはまたアレだね)
(ああ、残念ながら。魔法スキルが使えなくなってる)
試しにバーストを打とうとするとするが、魔力が分散して全くものにならない。前は≪黒≫用にちょっぴりしか魔力の込められていない手枷だったが、今度は最高位でも支配下における魔力がしっかり込められていた。おかげで暖房魔法が使えなくて寒い。
(はあ、魔法を使えないだけでこんなに世界が重苦しく感じるなんて……)
(そんなにか?)
ここ数日、好きなだけ魔法の使える状況が続いていた反動だろうか。俺にはまだわからない境地だ。
魔法は使えず、この小屋からも出てもきっとすぐに捕まるだろう。もうどうしようもないので、俺の記憶でも見ながら事態が進展するのを待つことにした。
1クールアニメの半分を見終わった頃、ようやく小屋の扉が開け放たれ、誰かが中に入ってきた。
「ああ、起きていたか」
敵を威圧するでもない、優し気な声色の『女性』。もう一度言う『女性』。
(うおおおおおおおおお!!!)
(うわ、びっくりした! 頭おかしくなったの?)
(頭はお前と同じだよ! それより見ろよ! 美女だ! しかもケモミミ! え、やべぇ。胸でかっ! メッチャ可愛いんだけど!)
(ヤバい、ミナトがキモい……)
俺は誰か来るとしても、どうせまたオッサンなんだろうなと思っていた。何故なら、俺がリアに乗り移ってから出会った人は皆オッサンかむさい男ばかりだったからだ。
しかし、ここに来て若くて美しいケモミミ女性の登場。ここでテンション上がらずしてどうする。
「……? どうした?」
彼女は銀色の髪から伸びるフサフサした耳を揺らしながら、こちらを心配そうに覗きこんでくる。
ゲームでもそうだったが、所謂獣人は普通の人間の身体に獣のような耳や尻尾をオプションしただけの、何だか界隈で意見が二分されそうな見た目をしている。俺はどちらかというとこういう感じのケモ度抑え目なのが好きなのもあるが、今エロゲヒロイン級のケモミミ少女を目の前に、メチャクチャ胸がドキドキしている。
(ちょっと、ミナトが興奮するせいで心臓がなんか変になってきたんだけど)
(あ、あれ?)
操縦権は今リアの方にあるというのに、あくまで裏である俺の感情に身体が反応するのはどうしてだろうか。胸に温かいものが溢れてくるような……。
二心同体を2か月近く続けているが、こんな事はかつてなかった。
(とりあえず、落ち着いて。この人は私たちを捕まえたヤツらの一味なんだよ? しかも魔法位が≪黄昏≫で、魔力では互角なの。油断はできないよ)
言われてみれば、お姉さんの瞳の色は綺麗な夕焼け色をしていた。
(そ、そうだな……とりあえず俺は引っ込んで般若心経でも唱えてるから、リアはこの人の相手を頼むぞ)
(なんでお経? ……まあいいや、了解。任せて)
というわけで、俺は可能な限り煩悩を捨て、心を無にするよう努める。とは言ってもやはり、リアが心配で会話の内容が嫌でも頭に入ってくる。
「お腹はへってないか?」
「へってない」
「……即答だな。嘘はよくないぞ? お前をここへ連れてきてから半日は経ってるんだ、そろそろ腹もへるだろう」
「じゃあ聞かないでよ」
美人でおっぱいがデカいというだけではまだ目の前の人間が信用できないのか、リアは警戒の姿勢を取った。
「それよりも、これ取ってよ」
「申し訳ないがそれは無理だ。まだ取り調べも済んでいないからな。お前はまだ結界を破壊した侵略者扱いだ」
「それは……だって知らなかったんだもん」
「……とにかく、尋問の結果次第では処分もありうる、とだけは言っておく」
「尋問って叩かれたりするの? 私、隠してることとか何も無いから、痛いことはしないで」
「それは大丈夫だ。ほんの短時間だが精神を支配できる魔法がある。わざわざ身体を痛めなくても情報を引き出すことはできる」
「えっ! なにその魔法凄い! 教えて!」
「わっ、急になんだ」
おい、さっきまでのツンケンした態度はどこいった。
「これからお前に使うのに、教えられるわけないだろ」
「あっそ」
一度沸き立ったものの、どう考えても魔法を教われない状況にリアは一気に冷めてしまった。
「それより食事にするぞ」
「だからいらないって」
「ダメだ。無理やりにでも食べてもらうぞ!」
そういって、お姉さんは手に持っていた盆を側の台に置き、食器を持ってリアの前に差し出した。
「ほら、食べるんだ」
「なにそれ……まずそう」
「何を言うか! これがこの里の主食だぞ!」
それはペースト状の何かだった。確かにあんまり美味そうではない。だがまあ、正体は穀物だろうしコイツの好きな昆虫よりはよっぽどいい。
それよりこのお姉さん、「この里」って言ったか? やはりあの偽の山がここで、そんでもって集落なのか。
「こら口を開けろ!」
「んー!」
リアは頑なに食事を摂ろうとしなかった。性欲加点のある俺からすればこんな美人なお姉さんに裏があるとは到底思えないのだが、リアは依然警戒を解かない。何だかこのケモミミお姉さんが可哀想になってきた。
「ああもう! 頑なだな!」
そんなことをしていたら相手も躍起になる。お姉さんはこちらの後ろに周り込み、左手でガッチリとリアの顔を押さ込んだ。
「口を開けないか!」
「むーっ! むーっ!」
……ふたりの体格差も相まって、なんだか虐待の現場みたいだな。
(リア、もう諦めろよ)
リアに任せっきりしていたが、あまりの光景に思わず口を挟む。
(何を言うの!? 手枷を嵌めた敵からご飯を食べさせてもらうなんて──あぅ)
勇むリアであったが、とある感触に気を取られて思わず力が抜けてしまう。
「おお! ようやく食べる気になったか!」
「んぐーっ!」
その間隙を突くように、お姉さんはリアの口に食事を突っ込んだ。
リアの気を散漫にしたその正体とは──
「ん? どうした? 口に合わないか?」
「…………」
「おっと」
リアはゆっくり背中に体重をかける。すると背中にむにゅむにゅ柔らかい感触が伝わってきた。
そう、おっぱい。リアの気を引いたのは意外にもお姉さんの大きな胸だった。
(違うの。決してミナトみたいに性欲に突き動かされたわけじゃないから)
(そんなこと言ってないじゃん。で、なんで?)
(いやね、なんか懐かしい感覚だったからつい)
そんなよく分からない理由でリアはお姉さんが食事を口に放り込んでくるのを拒まなくなった。そして、時折背中で彼女の胸の感触を楽しんでいた。
……いやしかし、本当デカいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます