第10話 魔法の道具を手に入れた
(……しかし、コイツなんで急に切りかかろうとしてきたんだ?)
家探しを始めようとして、急にそんな疑問が湧いてきた。
確かにあの男はエルフと聞いて心中穏やかではない印象だったけれど、それでもいきなり殺そうとしてくるなんてあまりに突飛な行動だ。
(さぁ? エナルプは凶暴だからね。突然殺したくなったんでしょ)
投げやりに結論づけながら、リアは男が持っていた剣を鞘から抜いた。
(重っ! でも、カッコいいな!)
(ウチにあった剣より、かなりずっしりくるね)
ゲームとかでよく見る肉厚で幅広な両刃の西洋剣。詳しくはないが恐らく材質は鉄か? にしては所々赤みがかっている。しかし錆びてるわけではなさそう。その証拠に、刀身が鏡みたいに光を反射していた。おそらく丁寧に手入れがされていたのだろう。
(お?)
そして、刀身を見ながらふと気づく。
(どしたの、ミナト)
(リア、お前の目、オレンジじゃん)
鏡を見る機会なんてなかったから、これで初めて自分の魔法位を知る事となった。刀身に反射するリアの瞳は赤みがかったオレンジ色をしている。これは魔法位でいう所の≪黄昏≫、つまり最高位だ。
あーなるほど、つまりあの男はこの≪黄昏≫の瞳に焦って襲ってきたという訳か。
(ほんとだ)
(リアクション薄いなおい)
(うーん、なんかね。≪黄昏≫でも、こんなもんなんだなーって)
(え、少ないか? 今まで魔力が無くなる気配すらなかったけど)
(でもさ、本気出せば一瞬で溶かせられる量でしょ? 爆破魔法バンバン打ちまくればいいんだし)
(んまあそうか)
(昔はもっと無限にあるもんだと思ってた。お姉ちゃんが≪黄昏≫だったからね)
リアの記憶を振り返ってみると、彼女には姉のユノの存在がキラキラ輝いて見えていた。優しく美しく、そして魔法の才能がある。そんな憧れだった姉と、今やリアは魔法位に限れば並んでいる。そこに何とも言い難い脱力感があるのだろう。
(まあ単純に、『お姉ちゃんとお揃い』って喜んでもいいと思うけどな。今のリア、ユノにめっちゃ似てるし)
(……その考え方は無かった『お揃い』か。うん、それいいね。そっか、私もお姉ちゃんとお揃いかぁ)
頬をニマニマさせながら姉の事を考えるリア。年相応でとても好ましいものがあった。
(あと【†黄昏†】ってのが、厨二全開でなんかダサい)
(変な記号足すな。そこは姉との思い出で締めとけよ)
それにしても、剣はありがたいな。リアが持ち歩くにはあまりに大きすぎるし重すぎるが、この山生活で刃物が欲しくなる場面は多数存在した。それに少年心を忘れない二十歳の大人としては、これほどワクワクするアイテムはなかった。
俺たちは他にもいいものがないか、家探しを続ける。
この家の主であるあの男はどうやらアーガスト国とやらの軍人だったらしい記述のある勲章が飾ってあった。そんな人間がどうしてこんな山奥で生活を営んでいたのだろうか。左遷か、それとも引退後のセカンドライフか。家にある文字を全て読めばもっと何かわかるんだろうけど、リアの読み書き能力がそこまで高くなかったので断念した。
家の備蓄には冬前に仕入れたばかりなのか、見た事のない謎の芋を初め、干し飯や開きの干物など多くの保存食が保管されていた。そして念願の塩も沢山壺の中に入っていた。しかし歯痒いことに、リアの身体で持ち帰られる量はそう多くない。取捨選択をせねば。
(リア、リュック……はきっと無いだろうから、麻袋的なものは置いてないか?)
(あーうん、探してみるね)
リアが戸棚を物色しだす。
(ん? なんだこれ、ただの袋だよな?)
10分ほどゴソゴソ物品を見ていると、5キロの米袋ほど大きな袋が仕舞ってあるのを発見した。これが不思議な事に、何故か宝箱みたいにゴテゴテした意匠の箱の中に畳まれた状態で入っていた。ついでに袋自体も金の刺繍が入っていたりと厳かな雰囲気を醸し出している。
(これなに?)
(さぁ? デザイン的に銭入れか?)
正式な用途は不明だが、使えるものは使うの精神で中に持っていた芋を突っ込んでみる。
(おわっ!?)
(な、なにこれ!? なんか魔力が凄い吸われたんだけど!?)
フワッと、身体から力が発散していく感触に二人して驚いた。……って、あれ? 中に入れた物は?
袋には何の変化もない。中に物を入れたはずなのに、その重さも膨らみもまるで変わっていない。破れているのかと思って、底を確認すれども解れすら見つからない。
焦って、中に手を突っ込むと……あった。ちゃんとさっき入れた芋が入っている。
(これ、袋に何らかの魔法が仕込まれてるね)
(わかるのか?)
(全然だよ。わかるのはこの魔法がどういう効果なのか、くらいかな。中身の詳しい解析とかはまだ全然わからない)
いや、その時点でかなり凄くないか? 俺は何が起きてるのか全然わからないのだが。
(ちなみにその魔法ってのはどういうものなんだ?)
(えっと、まず袋の中の空間が拡張されてる。どのくらいかは最初にぶっこんだ魔力によるみたい)
(あー最初に結構魔力を持ってかれたのはそれだったか。……ってかつまりこれってアレだよな? ゲームとかに出てくる謎容量バッグ)
もしくはストレージとも言う。
逆に芋が欲しいと思いながら手を袋の中に突っ込むと、いつの間にか手に芋がある。ああ、なるほど。これは便利なやつだ。
(とりあえず今分かる機能はこのくらいかな。発動してる魔法の感じだと、まだなんかありそうだけど)
(これ以上の分析は無理そうか?)
(
少しムッとした様子のリアである。
魔法位が低かった時のリアは、使えるかはともかく他人の魔法スキルの解析ばかりしていた。なので、その分野に関しては秀でている自負があった。だからこそ、すぐに解析できない未知の魔法の存在が悔しいのだろう。ただ、そう思いつつも、若干ワクワクしているようにも思える。
(そもそも、エルフには魔法を物に仕込むって考えがないの。悔しいことにね)
(あっ、はい)
そもそも俺には何もわからないわけだが、リアは構わず語り続けた。
エルフはエナルプより魔法の素質が高いくせに、技術の研鑽や伝承には積極的ではない。これにはエルフの寿命がエナルプの何倍も長いという種族的特徴が関わってくるのだが、それをリアは「怠慢」だと一蹴した。そして、意外な事にエナルプの応用力や柔軟な発想を褒めるのだった。
確かにエルフの里には魔法の道具なんてひとつも存在しなかった。比べて、外の世界にはこの袋みたいに凄い道具がある。これだけ見ると、文明の発達した俺の世界よりも進んでいる。まあ、魔封じの枷みたいな闇の深いのもあるがな。
(絶対解析してやる)
(それはいいけど、今は物資の回収に集中してくれよ)
この辺りには他に人がいるかもしれない。見つかる度に殺していたら気が滅入るだろ。
早く回収し終えてさっさと出て行きたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます