第2話 妹エルフとの出会い

「お姉ちゃん!?」


 ヴィアーリアが反応を示した。もしかして、俺の思い浮かべたことが伝わっているのだろうか。


「おい、何を叫んでんだ!」


 ヤバい! 気づかれたか!


 ヴィアーリアの記憶を探ったので、今の状況は大体わかる。彼女が詰め込まれた木箱を乗せた荷馬車、その護衛や雑務として四人の男たちが側に付いていた。今の声はいつもヴィアーリアに食事を与えていた男のものだ。


 ゴソゴソと荷物を漁る音が聞こえてくる。


 どうして俺がこんなに焦るかというと、突然外れてしまった拘束具を見られるわけにはいかないからだ。


 俺は何とかこのヴィアーリアに意志を伝えねばならない。


 先ほどヴィアーリアは俺が思い浮かべたユノのワンシーンに反応を示した。もしかすると、これは俺の考えていることがこの子に伝わっているかもしれない。その可能性を信じて、脳裏に伝えたい言葉を浮かべる。


(おい、今から俺の言う通りにしろ! いいか! 前のめりになって手錠を隠せ!)


「…………!」


 何拍か置いた後、身体が勝手に動いて地に伏せるような体勢をとった。よし! 伝わった!


(そのまま、すすり泣く演技をするんだ。出来るだけ悲しげにだぞ)

(あなたは誰なの?)


 返事はなんと声ではなく、思念という形で返ってきた。飲み込みが良いというか、話が早い!


 これでコミュニケーションが楽になる。だが、今は呑気に話をしている場合ではない。


(その話は後だ! いいから早く泣け!)

(わ、わかった!)


 そう伝えている間にも、ゴソゴソ音が大きくなってくる。そして、遂にはヴィアーリアの収まった箱の蓋が開かれた。


「ふぇ……グスッ……おねえちゃん……ヒクッ……おねえちゃん……」


 ナイス演技……というよりも本気で涙を流すヴィアーリア。悲しみの感情で胸が苦しい。体の感覚を共有している俺にも伝わってきた。


「なんだ愚図ってるだけか。紛らわしい。まあ、手錠つけた≪黒≫に何が出来るって話だが」

「悪夢でも見たんじゃないの。亜人とはいえ可哀想な」

「だな。だが、こっちも仕事だ。割り切るしかないぜ」


 男たちはそんな会話をした後、また木箱に蓋をした。


 ふぅ、これで手錠の件はバレなかったな。もし見つかったら何されるかわからないところだ。もっとガッチガチに拘束される可能性だってあるのだから。


 それじゃあ早速コミュニケーションといきますか。


(おい、もういいぞ)

(う、うん。あの、さっき、お姉ちゃんの姿を見せたのはあなた?)

(まあ、そうだが……うーん、なんて説明したらいいのか)


 俺はヴィアーリアの記憶を見てここまでのあらすじを大体理解している。しかし、彼女からすれば訳の分からない状況が続いていることだろう。全て説明するには俺の元の世界の事と、そして『花束*ヴァイオレットマジック』というゲームについて話さなければならない。だが、そんな事を説明されても彼女からすれば寝耳に水だろう。


(ああ、そっか!)

(え、なに?)


 思いついてしまった。最初から説明する必要なんて無かったのだ。そんな事をしなくても、ヴィアーリアも『体験』すればいいのだから。


 思い浮かべるのは、自分が車に轢かれてしまう数時間前からの記憶。日付が変わったと同時にダウンロードを開始して、ソフトウェアを起動した。プロダクトコードをコピーして……あっ、スペースが入って認証に失敗した。って、なんでこんな細かいところまで鮮明に覚えているんだ。


 それからはひたすらゲームの内容を追想していった。いや、それはもう思い出すというよりは、再現しているみたいだ。それくらい記憶が鮮明に残っていた。あれ、俺完全記憶能力なんて持ってたか?


(魔法学院……ユノ・トワイライト……妹……)


 全てを経験したヴィアーリアは呟くように頭で情報を整理していた。


(水着……巨乳……ラッキースケベ……)

(いや、それはすぐに忘れろ)


 しまった、えっちなシーンは飛ばすべきだった! 姉のサービスシーンなんて見るもんじゃない。


(間地、湊。……車に轢かれて。そっか、私……じゃなくて、あなたは死んだんだね)

(そういうこったな。それで気が付けば、エロゲヒロインの妹の身体に乗り移っていたわけだが……)

(納得……するしかないね。あんな体験をしちゃうと)


 ということで、ヴィアーリアの理解は得られたわけだが。


(というわけで、お前の身体に居させてもらうけど、いいか? ヴィアーリア)

(いいも悪いも、どうしようも無いって。ミナト。……あと、リアでいいよ)

(オッケーじゃあリア。これからの話なんだが……)


 俺の話はもういい。それよりも、今のリアの危機的状況をリア自身はどう考えているかという話だ。


(勿論私だって奴隷は嫌だよ! あのカエルみたいなキモいおじさんは嫌いだし、誰かにいいようにされるのなんて無理! それにお姉ちゃんも悲しんでたし)


 リアが言及したのはエロゲのワンシーン。ユノルートのシナリオで出てきた彼女のことだ。ユノは妹を探しに旅へと出るのだが、結局その続きを見る前に俺は死んでしまった。


 果たして妹はどうなってしまったのだろうか。まさかシナリオ時点で既に死んでしまった後とか? 何せ、最低の魔法位の子供であるリアは何よりも無力な存在だったからなぁ。


 そんな結末が予想できたからこそ、リアはこう思った。


(私、絶対に生き残ってやる! ……協力して! ミナト!)

(おう! 勿論だ)

 

 燃え上がる熱い気持ちが伝わってくる。引火するように俺もそれに答えた。


 勢いではない。俺だって身体を共有している以上、奴隷なんて嫌だ。何させられるかわからないからな。それに、いくつかの勝算があったから。

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