21 佐藤譲二


 じゃあおれは七不思議ネタ。

 姉貴の友達がさ、「トイレの手」っての見ちまったらしいんだよな。

 あ、みんなは「トイレの手」って怪談知ってる? うちの学校の七不思議の一つなんだけど。定番の花子さんじゃないのはご愛嬌かな。

 いや、でも歴史あるんだぜ? 今でこそ水洗だけど、まだ和式トイレだろ? まあうちの校は田舎だからな。少しずつ洋式も取り入れてるらしいけど、件のトイレはまだ入れ替わってないらしいなぁ。

 そのトイレは昔、大きい穴のぽっとんだったらしくてさ、一回、小柄な児童が誤って転落、行方不明になる事件があったって。その子どもが手の正体だって、専らの噂だよ。

 でさ、あるとき件のトイレに入った姉貴の友達が、なんかの拍子に大切にしてたキーホルダー落としたらしくて。まあ鍵とかはつけてない、本当にキーホルダー単体だったらしくてさ。問題はないんだけど、姉貴がその子の誕プレに渡したやつで、すっげぇ大事にしてくれてたみたいだから、申し訳なさそうにしてたんだって。

 うーんとね、デザインは手芸で作るような色んな形のビーズを糸に通してやったやつ。やっぱ姉貴もその子も女子だからかな。きらきらしてたのを一回見せられたよ。

 その数日後、偶然にもその子は何気なく同じトイレに入って用を足したんだって。で、水を流してからさ、あの、和式トイレの奥まったところから、唐突に小さな手がにょきっと伸びてきてさ、バイバイするみたいにその子に手を振ったらしいんだなぁ。

 声も聞こえたらしいよ。

「なんだかよくわからないけど、きらきらくれて、ありがとう」

 ってさ。

 ぽっとんトイレの時代の子だ。ビーズの飾りでも真新しくて珍しかったんだろうな。礼を言ったってことは、喜んだってことだし。

 案外、噂よりいいやつなのかもな。

 ……あれ、全然怖くねぇ話になった。




 22 須川武人


 俺の怖い話なんて、そんな大したもんねぇぞ。

 唯一怖かったとすれば、真夏日に陽炎で視界が歪んで意識を失いそうになったくらいで。




 23 三森弓江


 あ、そういえばあたしも七不思議一個思い出した。音楽室のやつ。

 昔は小学校だけど吹奏楽部ってあったらしくて。とっくの昔に廃部になったんだけど。

 でも廃部になっても真面目で熱心な子は毎日トランペットの練習をしてたって話。音楽準備室にトランペットあるんだけど、気紛れに吹いてみたんだよね。朝早くてあたししかいなかったんだけど。

 である曲の一節を吹いてみたんだ。

 するとどうだろう? その続きを待っていましたと言わんばかりに何者か知れないやつが吹いてくれたんだよ。




 24 真城一哉


 みんな、ずいどうって知ってる? とっても怖い場所なんだよ。心霊スポットとしても有名で、よくよく肝試し客が来るんだって。

 何も起きないからガセっていう人が多いけど、それでも人気なのは、昔殺人事件が頻発したことからだろうね。曰く付きって魅力的なんだろうねぇ。

 そうそう数多あるずいどうを差し置いて……って何言ってるの? ずいどうはたった一つしかないよ?

 骨髄道、だよ?




 25 星川このは


 ぼ、ぼくも、七不思議、から……

 え、えと、中央階段の踊り場に逢魔が刻に行くと謎の踊り子がいて、その人と踊ると、い、異次元で踊らされ続けるって……

 ぼく、怖くて、でも、行ったら、足音だけで、噂とは違うけど……こ、怖かった、よ?




 26 日隈白詰草


 怖いかどうかはわからないですけど、どこかの学校で悪魔を召喚することに成功した、なんてニュースがあったのを聞いたことがあります!

 確かいつぞややってた、連続学生失踪事件のやつです!

 最後にいなくなった人の遺書みたいなのに、「わたしは悪魔に連れ去られる」って書いてあったと、風の噂で、聞きました。

 「悪魔を招いた代償だ」……って。




27 妹尾雫


 あんまりこういうのは悠が霊感あるらしいからしたくないんだけどさ。

 前いた学校で、お遊び時間にお化け屋敷をやったんだ。その時に、どうやら寄ってきてしまったらしくて……

 気合いを入れたのが裏目に出たらしいな。




 28 妹尾悠


 僕は泥田坊っていう妖怪の話をするよ。

 その昔、田んぼを埋め立てられて、別荘が建てられたらしいんだが、夜な夜なその家に「返せ……返せ……」と声が聞こえるらしい。

 声の正体を知るべく、家主が夜、見張っていると、泥土の塊が、こちらに向かって叫んでくる。

「返せ、返せ……おらの田んぼを返せ……」

 それが毎晩続き、半年が経った頃、遂に当主はその土地を手放し、祟りを恐れたそうな。




 29 永井三吉


 ごみ捨ての日に、ごみ捨て場に段ボールがどんと一つ置いてあったんだって。

 ごみ袋に入れないで置いてあったから、近所の世話好きの奥さんがぷんすかしながら、代わりにごみ袋に入れたんだって。やたら重いから苛立ったみたいで。ご近所中に愚痴って回ったとか。

 で、ごみ回収車が来るわけなんだけど、あれってどういう仕組みになってるか知ってる? ミキサーのお化けみたいなでっかい刃がついていて、ごみ袋のごみをぐしゃぐしゃって分解して、車の中に圧縮して溜めるんだって。

 その日は、バキバキゴキィッてすごい音がしたそうだよ。




 30 日比谷紗綾


 流行りものをやりたくて、ボーカロイドソフトに手を出した人がいたんだけど。

 その人女性でね、キャリアウーマンの傍ら、趣味で手軽にできないかなぁってずっとソフトを探していて、ようやく手に入れられたんだって。

 中古とはいえ五百円という破格の値段で手に入れられたそのソフトは、なかなかよくできていて、『SAKUA』という無名のボーカロイドだった。

 無名だから、上手くやれば大出世、だなんて、思って、心を込めて曲作りや操作なんかをして。

 もう自分の分身みたいに入れ込んで、いよいよ一曲完成、というとき、

『マスター、ありがとうございました』

 って、突然ボーカロイドが勝手に喋りだして、その人が不審に思ったときには意識がブラックアウトして……

 それからその人はしばらくして目を開けて、画面に向かって言ったんだって。

「今日からは私がマスターですね」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る