第193話 知らない真実

「さて、君は何故やらなかったのかな?」

優秀そうな女生徒だ。何故か一瞬教官の顔を見る。


「すみません、私はこの行軍を絶対に成功させないと行けません。魔力のコントロールで行軍が成功するとは思えません」


その言葉を聞いた教官が満足げに帰って行った。

「理由をもう一度聞こうか?」


「私の父はこの学校の教官の家に使えています。そして、クラス教官のラハンは私の婚約者になります。

先日、ラハンから言われました。行軍を成功させたら、婚約に解消していいと。

そして条件として、アール教官の命令は何一つ言う事を聞かないと言う事です」


「君の名前は?」

確か、索敵に身体強化ができる生徒だ。


「私はミレーナ マフィンと言います」


「マフィン? 中央騎士団のマフィンの娘か?」


「ハイ、アール教官が何故中央騎士団を御存じなのですか?」


「と言うと教官のラハンもチャッタ ダッテ ラハンの息子か?」


「そうです。良くご存じですね」


何でこんなところで会うんだ。中央騎士団はメルシー筆頭公爵家が保有する騎士団の一師団だ。


主に首都や公爵領の警備をお行う者達だ。その部隊長の1人がラハン。そしてラハンの部隊から独立させもうけたのがマフィンの部隊。


ラハンはプライドが高く平民での騎士からも評判が悪い。ラハンはじいさんの代に男爵になり、チャッタの代に降格され、現在は準男爵になった奴だ。プライドは高いが今一つ仕事の出来ない奴だ。


「ミレーナ、君に命令する。

魔力操作をせず、行軍に参加する事を禁じる。特に、ラハンの言うことを良く聞き励む事を命ずる。


わかったかな?」


「あ、あの、それはどういう事でしょうか?

何故、教官がそのような事が言えるのですか?

貴方は何者ですか?」


「父親に聞け。君の父親は誰の騎士団にいて誰から部隊長を任されたか」


「貴方は父の何を知っているのですか?」


「昨日も会ったし、一昨日もあった。俺は貴族学校を知らない。上のクラスを聞いても今回は意味はない。

だからマフィン部隊長に話を聞いた。後は親に聞け。それを聞いても俺の対応は変わらない」


「取りあえず今日、ラハンに聞かれたらこう答えろ。ラハンの言うことを良く聞き励むようにと言われたとな」


マフィンの緊張感さらに強くなる。


マフィンはそれからみんなの輪の中に入り他の教官達に見えないようにトレーニングを始めた。


マフィンの才能は凄く高く、他の生徒より一歩も二歩を先を行く。ラハン達の狙いはそれこそマフィンの能力だろう、おそらくこの学校の中でも汚いやり方で仲間に金を貸しそれを元に自分達の利益を得ているのたまろうな。


まあ、もう少しで証拠も揃うしな。気にせづ放置が良いんだが、ルストールにちょっと頼むか。


そして、1ヶ月の期日が来て行軍を行なう日が来た。


日の出前に生徒、アーマイル、俺と揃い行軍を始める。索敵を扱う生徒を前に動き始める。俺とアーマイルが最後を歩く。王都を出てダリアンに向かう。


王都を出るまでは良かったがすぐにモンスターの気配を感じる。1時間程歩くと先頭が立ち止まりその動きにみんなに緊張が走る。


「ゴブリンだ、配置に付け!!」


身体強化持つ生徒が前に並ぶと攻撃魔法を使う生徒が狙いを定めて魔法攻撃を行なう。


この1ヶ月の練習の成果か、ゴブリン達を魔法のみで倒す。その後、隊列を組んでさらに歩き始める。


約10km程進み一旦休憩をとる。


みんな思ったよりも洗練された動きに自分達が驚いていた。


俺の索敵に反応がある。生徒をアーマイルに任せ少し先に進み待機しているとダリアンギルドのトッシュがやって来た。


「トッシュか?」


「あれ、あれあれ。何であんたがいるの?」


「それは俺が聞きたい。どうした?」


「私はリンナさんに頼まれたの。貴族学校の生徒を迎えに行ってくれって。


どうせ護衛もいない状態で行軍してるだろうからって。

それとこれリンナさんから。手紙を預かった」


「そうか、ありがとう。今年は冒険者の護衛も付けない事になっている。だから帰っても良いぞ」


トッシュは少しがっかりとしたように帰って行った。その様子をアーマイルと生徒達が見ていてやって来た。

「師匠。あの人は誰ですか?」


「ダリアンギルドの職員だ。用事も無いから返した。それと我々の行軍は狙われているようだ。俺はダリアンまで行く。

職員が持ってきた手紙だ」


アーマイルがその手紙を見る。

「これは本当ですか?」


「間違い無い、中の文字はメルシーの字だ。事前に情報は漏れなかった。要するに周りはみんな敵って事だ」


「なんか燃えて来ますね。そうですか、この私たちを出し抜くつもりですか」


アーマイルが生徒を見る。

「みんな、師匠は用事が出来て先に移動する。ここから先は私の配下に入ってもらい、目的地を目指す。


良いか。


遊びはおしまいだ。ここからは実戦だと思え」


その場をアーマイルに任せると場所を離れる。


生徒達から不安がにじむ。1人の生徒が声をだす。

「何が起きたのですか?」


「どこかのお馬鹿な貴族が数名いてな。この行軍に対しいたずらを仕掛けたようだ。

ダリアンの近くアンドウ伯爵領地の近くに賊が集結したと報告がきた。明らかに私と師匠を狙った行動だ」


「なら、私達も一緒に行った方が良いのでは」

「「「そうだ、そうだ」」」


「駄目だ、お前が行ったらかえって足手まといだ。

まして、私ですら師匠には追い付けない、我々がいたら足手まといにしかならない。我々を守ってもらいながら戦わせる事になる。


お前達は知らないんだよ。それとこれを計画した者達も」


アーマイルが少し考え話を始める。

「お前達はアルッシュの死神と言う話を聞いたことはあるか?」


みんながうなずく。

「その死神が誰か知っている者はいるか?」


「え、作り話しでしょ」「そう聞いた」等生徒からも話しが出る。


その時アーマイルが俺の膨らんだ魔力を察知する。

「始まったぞ。アルッシュの死神が出てきた」


その言葉に生徒達がキョトンとしていた。

そんな中、不意に辺り一面が氷におおわれ始める。


「アルッシュの死神ってあの軍隊をたった1人で殲滅した。氷の王ですよね。

何故、こんな所にいるはず無いですよね。だって作り話しだって聞きました」

女生徒が震えて話す。余りの寒さに凍え出した。


「ほら、準備した薪に火をつけな、死にたくなかったら急げ」

アーマイルがてきぱきと指示をだし10人で1チームを作り体を寄せ合いだんを取る。


「アルッシュの死神はいるよ。本人が嫌がっているから、誰も触れないだけで。

あんた達に色々教えてくれて、さっきまで同行してた人だよ」


みんなの目が固まる。

「「「「「えー!!!!!!!!」」」」」


「そんな驚く事じゃ無いだろう?

でも師匠は優しいし、みんなの事も大事にしている。だから、時々勘違いする馬鹿がいるんだよね。


あの人は怒らせてはいけない人なの。普段は優しいし、ふざけた事ばかりしてるけどね。


みんなも覚えておきな。本当に怒らせてはいけない人を怒らせとどうなるかを」

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