第188話 親離れ3

「メフィス、もう一度聞く。俺の記憶が正しければもう1人いるはずだ。

獣人 狼族の女性で、現ベルート共和国の王妃がいたはずだか? 俺の記憶違いで良いのかな?」


その質問にメフィスが落ちた。ボロボロと泣き出す。アイリーがメフィスを抱き締しめた。


「アイリー、俺は上の部屋にいる。話が聞けるようになったら呼べ。くれぐれも逃げようなんて考えるなよ」


それから小一時間程経ってアイリーが呼びに来た。

「アール様、お待たせいたしました」


「アール、あんた何歳だ?」メフィスに唐突に聞かれる。


「レモンドと同じ歳だ」


メフィスが呆れたようにこっちを見る。

「お前が息子でなくて良かったよ。私はレモンドがこんな事をやってたら生きて生けない」


「ずいぶんと都合の良い事を言うものだ。おれがレモンドでは無いとなぜ言える? 俺がレモンドの可能性だってある。美化した記憶は役にはたたない、そんなものにすがるからじゃないのか。


カトレーゼの奴を救出に向かった時もあんたと同じ顔をしやがった。


悪いが俺も人の子だ。一応、心だってある。そして俺も嫌いなものがある。お前達みたいに負けた事を人のせいにして文句を言う奴らだ。


生きているんだ。どんな理由があれ、先に亡くなった奴らの思いまで裏切るな。


カトレーゼ達の宿の跡地だと言う所を見た。立派な商店が出来ていたよ。

物はいつの時代もうつりかわる。でも、あんたの記憶は、レモンドの記憶は、リアルの記憶は残るじゃないのか。


嘆く前にやるべき事をやったらどうだ?」


メフィスが俺を見る。

「やるべき事ってなんだ?」


「天空竜デリデット ナイツに会いに行く。呪いをとく、話はそれかれからだ。


あんたの体からデリデットの笑い声が聞こえて気分が悪い」


「お前は何でも知ってるな」メフィスが本気で呆れていた。


「良いから行くぞ。こんな下らん呪いで死なれたら、俺がレモンドに会わせる顔がない」


「ブッ あんたレモンドと仲が良いんだね。レモンドは良い仲間がいて良かったよ。

それともあんたがレモンドなのかな?」


舐めるように見るメフィスを無視してアイリーに声をかける。

「アイリー、準備をしろ。あそこに入るのは俺とメフィスの2人だ。それ以外は外で待機…」


俺の話に被せるようにアイリーが話し始めた。

「お待ちください。


アール様。私は貴方を疑っているわけではありません。ですがあの、デリデット ナイツに会いに行くのに2人というのは危険過ぎます」


「勘違いするな、あの中に入れるのは、現在俺だけだ。唯一、デリデット ナイツが知る、メフィスとドレストは入れるはずだ。他の奴は入れないんだよ。

デリデットは面倒臭い奴だ。このルールを破れば誰1人生きては出て来れない、わかったか?」


アイリーが落ち込んで部屋を出ていく。それを見たメフィスが俺を見て話す。

「アールだっけか。あんた罪な男だね、あのアイリーがこんな必死に止めるなんて、私初めて見た。


アイリーもらってもらえない?あの娘可愛いんだから」


何かめんどくさいんだけど。ルックスがここにもう1人いるみたいだ。


「それと、ロシナンテには会える? 駄目ならルックス ダンテでも良いわよ」

メフィスが俺の顔を覗き込む。


「あんたは呪いをといたら、この国から出ていってもらう。

俺は政治に関与するつもりは無い。それが出来ないなら、本当にいなくなってもらう」


「あらどうやって?」メフィスが俺を睨む。


「簡単だ。デリデットは暇をしている。ダンジョンで骨になるまでデリデットの相手をしてもらうさ。


そうすれば俺の仕事が1個減る。


何か文句があるならこのままデリデットに預けてもいいが、どうする?」


メフィスが怖い顔をするとブツブツと文句を言い始める。

「わかった。本当に、融通が聞かないわね、そう言う所、ドレストにそっくり。やになっちゃう」


アイリーが部屋に来た。

「アール様、準備が出来ました」


馬車にのり、メフィスとアイリーを従えて、神樹国の領事館にくる。特に誰に遇うわけでもなく、ダンジョンに来た。


「アイリー、ここで待て」

「八ッ」


アイリー達を残し、メフィスと2人で入り口にくる。ドレスト ハートと掛かれた剣を抜く。


「え、その剣抜けるの?」メフィスが驚く。


「なんだ、ただ地面に刺さっただけの物だろう。抜いて何か問題だったか?」


「いや、良いわよ」


部屋に入るとデリデットがあからさまに嫌そうな魔力をだして威嚇してくる。メフィスはその圧に負け、膝をついて苦しそうにする。


「お前、どういうつもりだ。この私ってものがいながら、女を連れて来るなんて」

デリデットが怒りをあらわに文句を言う。


「デリデットには関係無い。大体、俺は女神 アテロスの信徒だ。デリデットとは何の関係もない」


「ふん、まあよい。私は長生きだ。そのうち気も変わるだろう。

所でメフィスなんぞ連れてきて何をしてやがる」


「メフィスとデリデットについてる呪いを解く為に来た。文句は受け付けないからな。


始めるぞ、メフィス。いつまでも待たせる、さっさとこい」


メフィスがふらふらと近付き、デリデットの石像の台座に座る。その時、女神 アテロスが現れる。


デリデットが平伏するのに合わせ、フェルリン、ライト レイが出てきて女神 アテロスに平伏する。


『どれ、デリデットとメフィスの呪いをとくらしいな。こんな見せ物なかなか無いぞ。見に来てやった。感謝しろ』


メフィスがアテロスをみて震えていた。

「これが、かの女神 アテロス。最高神 バシャリヤをして、最恐、最悪の女神。


最高神 バシャリヤがアテロスに抱きついた事で始まったとされる千年戦争の覇者」


は? アテロスに抱きついた? 抱きついた事で戦争をおっ始めたの?


何か、腹立って来た。そんな事の為に俺は尻拭いしてんのか?


≪女神アテロス。その話は本当か?≫


『何じゃ、そんな事か。本当だ。私に触って良いのはお主だけだ。他の者にこの美と戦いの女神に触って良い者はいない』


≪それを根に持って最高神 バシャリヤは未だに俺に面倒事を押し付けているのか?≫


『まあ、そうなるな。メフィスとデリデットに呪いをつけて身動きを取れなくしたのも最高神 バシャリヤだ。


その最高神 バシャリヤの策略をいっかいの人間が取り除く等、めったに見られない。私は楽しみにしてるぞ』


≪女神アテロス。いつもお心使い感謝します≫


なる程、神の行いを俺が勝手に外すなんて事を誰の了解も得ずに行うと問題がある。

だが、アテロスが了解して俺が解呪するぶんには何も問題は起こらない、という事か。


デリデットがメフィスの手を握る。

「ライト レイ、フェルリン。手伝ってくれ」

ライト レイがメフィスの呪いを解き、デリデットとフェルリンが2人でデリデット自身の呪いを解く。


そのまま30分位してメフィスの呪いが外れ、その勢いにのってデリデットの呪いが外れる。


外れた呪いが俺に向かうがその前にアテロスが押さえる。アテロスの怒気をはらんだ魔力が呪いを潰した。潰すと同時に男の神が苦しみながらダンジョンに落ちてきた。


『やはりお前か、バシャリヤの腰巾着が。私を馬鹿にし過ぎだぞ』

アテロスがその神を掴むと神の羽がもぎ取られ、神である証を奪われてしまう。


そしてそこにはかつて神だった者がいた。力を取られ、権威を失ったその者はキラキラと砂のようになり消えて行った。


アテロスがメフィスを見る。

『おい、まだこの男を殺すつもりか?

もしそのつもりなら、メフィス。お前は今この場で私が滅殺してやるぞ』


「もう止めました。私は実の息子を殺す事は出来ません。それに、折角お婆ちゃんになったのに孫に恨まれるのはもっといや。


孫の顔をみてから帰ります」


『なら、許そうかの。レモンド、外の連中も一緒に返してやれ』


≪え、良いの? 折角捕まえたのに≫


『なんだ、もったいな無いなら誰か連絡かがりでもらったらどうだ?

ライオン族の女は旦那に働かせずにいかに裕福な暮らしをさせるかが自らの喜びらしいぞ。

もう1人位、女が増えても言いと思うぞ』


≪絶体にいらない。余計な連中が増えるのは本当にいらない≫


『ふん、相変わらず頑固だな。メルシーはそんな懐の狭い女じゃ無いぞ』


≪いや、いならい≫

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