第187話 親離れ2

エルフの屋敷に入りメイドに声をかける。

「今日は、リッツはいるか?」


「はい、おります。ご案内致します」


そう言って屋敷に入り中庭を通る。その時マリーが俺を見つけ声をかけてきた。

「アール、何か用?」


「悪い、今日はマリーに用はない。別件の仕事に来た」

マリーがつまらなそうに部屋に戻っていく。


普段マリーが暮らしている部屋と違う離れに来る。この離れは地下室があり隠し部屋がある。


コンコン!


ココン!


カツカツ!


良くわからないやり取りが行われドアが空く。ロイヤルナイトのアイリーが部屋から出てきた。


アイリーと会うとメイドが帰って行く。

「アール様、わざわざ呼びだてして申し訳ございません。


先週屋敷内で保護した女性です。私の記憶が間違えてなければ、そう思い手紙を預けました」


「アイリー。わざわざありがとう」


そう言って部屋に入り保護された女性を見る。どことなく懐かしい感じはする。


40手前位に見える人族の女性だ。以前会った獣帝と同じローブをまとっている。


「初めてまして、俺はこの屋敷のを任されているアールと言う」


そう声をかけると女性が立ち上がる。背は150cm位だろうか。細身でキリッとした顔つきをしている。

「貴方がアール? 子供達が世話になった。もらったエクストラ ヒールポーションのお陰でだいぶ子供達が救われた。


会える事が有れば感謝しないと、と思っていた」


「そうか、なら良かった。


所でなぜこんな所に逃げ込んだ? 俺は一応冒険者だが、ロイヤルナイト共つながりがある。必要に応じて引き渡す必要が出てくる」


「すまない、ちょっと野暮用でな、たまたま気を失った場所が知り合いの所で良かった」


アイリーを見て聞く。

「アイリー、こう言っているがこの人は誰だ?」


アイリーがピシッっと敬礼して答える。

「はい、冒険者学校同期のメフィス オリバーです。現在は結婚してメフィス ハートとなっております」


「メフィス ハートは獣帝の幹部では無いのか。この国では、逮捕対象のはずだ。何故かくまっている?」


「すみません、私は逮捕対象とは聞いておりません。まして、怪我をして助けを求める友を見捨てる事は私の倫理に反します」


「厳罰も覚悟の上と言う事だな」

俺がアイリーを睨む。アイリーは真っ直ぐに前を向き、顔色を帰ることすら無い。


「アイリー、メフィス ハートがここに来た理由を説明しろ」


「はい、メフィス ハートは獣帝により命を狙われ、私に保護を求めて来ました」


「わかった。それでこの女性がメフィス ハート本人で間違い無いのか?」


「はい、メフィスの魔力。とても懐かしい魔力を感じました。そして隠してはいますがメフィスはある戦いで右目を負傷しています。


その時私が送った義眼を未だに大切に持っております」


より険しい顔をしてアイリーとメフィスを見る。

「聞いていいか? その右目を失った戦いは天空竜デリデット ナイツとの戦いで間違い無いか?


何で今、このタイミングでモルモット共和国に来た?」


メフィスが俺を睨む。

「貴様はどこでその情報を得た?

いかにも気持ちが悪い。何故そんな事がいえる…」

呼吸が荒くなるが、落ち着かせるためにフーフーと深い呼吸をして気持ちを整えるように言う。


「悪いな。俺の存在自体が国家機密だ。

お前達に説明する必要は無い。命が欲しければ正直に答えろ。


俺は子供は世の中の宝だと思っている。この国にもレモンドの情報は伝わっている。

何故、見捨てた奴を今さらになって必要している。


俺はレモンドを保護する者だ。答えによってはメフィスとアイリー。2人を無き者にする。


もし答えられ無くてもいなくなってもらう」


アイリーが俺を見て悲し顔をした後、覚悟を決める。

「アール様。私は嘘はつかない。

でも、信じられないなら好きにして欲しい。私はアール様の決定を指示する」


アイリーは嘘をついていない。何故かそう思った。


「メフィスでいいか、俺は簡単に人を信用するタイプの人間だ。

どうだろう。俺はレモンドの情報をえて、保護するためにいる。

お前の知るレモンドについて教えて欲しい。

それによって保護するか無き者にするかを決めたい」


メフィスが極端に緊張し始めた。だろうな。両親とは3歳になる前に別れた。正直に子供の頃の記憶だけだと証明出来ないだろう。


索敵には、メフィスは一切嫌な感情を持っていない。寧ろ後悔や謝罪の気持ちしかない。


「すまない。私は産んだから記憶は沢山ある。

カトレーゼとモルジップとリアルと私と5人で暮らしていた。

ドレストは冒険者をして家計を支えた。あの時は裕福だったよ。


でもドレストは家に帰れない。


何せ私達5人はドレストが逃げ出さないようにするための人質だから」


それからメフィスは淡々と話だす。カトレーゼとモルジップは宿屋を始めて冒険者を引退。

メフィスは赤ちゃんを抱えて宿の手伝いをする。メフィス自身はマンチェタ国にくる前に冒険者を辞めたらしい。


そしてこの5人を守る為にドレストは1人で冒険者を続ける。

住まいは王宮の中で狭い牢屋のような場所。そしてドレストの夜の役割は子供を作ること。


貴族の子女達相手に毎晩、代わる代わる相手をして子供を作ることだ。


その対策は功を奏したようでドレストの血を引く子供が約50人もできた。

そしてレモンドが3歳になる前にドレストとメフィスに休暇が与えられた。その時、レモンドを残しドレストとメフィスだけが出かける。そこに待っていたのは王宮騎士団とベルート共和国の兵士だった。


2人はその戦いに破れベルート共和国に捕まり今に至るらしい。


人の話はお互い視点が変わると内容が変わる。それは仕方ない。


「質問だ。Sランクまでなったパーティーだ。みんなの名前を教えてくれ」


「ドレスト、メフィス、カトレーゼ、モルジップ、シルフィーユだ」


「おかしいな。黄金の剣は6人のパーティーと聞いている」

メフィスの顔が曇る。

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