第24話 痛み止め
健人は痛みで目が冷めた。六人分の病床は全て埋まっている。カーテンで仕切られた向こう側から、複数の寝息が聞こえてきた。
「う……」
体勢を変えようとして、喉の奥から呻き声が自然と漏れた。冷や汗が吹き出る。痛み止めの効果が切れたのだろうか。点滴薬がなくなっている。
不自然に首に力が入ったので、寝違えたようになってしまった。背中が痺れる。もうどこが痛いのか分からないほど、痛みを感じる範囲が広がってしまった。
――参ったな
時刻を確認しようにも、視線を動かせる範囲に時計がなかった。腕を動かすのすら怠い。
――何時だろう
窓の外は真っ暗だ。寝息は深い。
きっと真夜中だ。
この時間にナースコールのボタンを押しても構わないだろうか。幸運なことに、ボタンは健人の右手のすぐ側にあった。
入院なんて初めての経験だった。ナースコールなるものを利用するのも。同室の患者たちの睡眠を邪魔するのではないかと、気が引ける。しかし朝までこの痛みに耐え抜く自信もなかった。
「あら、センサーが外れてる。これのせいですね。薬液がなくなる前に、ナースセンターにつながるようになっていたんですけど」
年配の看護師がすぐにやってきた。おそらく寝返りの拍子に、センサーにつながるコードが引っ張られたのだろうと分析している。
「今新しいの流し始めましたから、すぐに痛くなくなりますよ」
「ありがとうございます」
「身体の位置、少し変えましょうね」
ベッドの上の足の位置や腰の角度を変えて、看護師は病室から出ていった。先程とは打って変わって、寝心地が良くなった。まだ点滴薬は効いていないが、痛みを逃がすことができる。再び眠れそうだった。
――朝だ
鳥の鳴き声が聞こえる。海鳥だろうか。聞き慣れない鳴き声だと思った。
微睡みながら考える。
――紗和にとっては、昔から馴染んだ朝の音なのだろうか……
健人が入院しているのは、彼女の地元の総合病院だった。町で唯一の入院施設の整った病院で、町の老人の多くがこの病院で命を終えていくのだと、いつだったか彼女から聞いたことがあった。
「紗和」
左肩の痛みが意識と共に遠くなる。名前を呟きながら、健人は眠りに落ちていった。
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