第13話 修正

「二年生の時私が付き合ってたのって、高橋くんだったよね?」

「何言ってるの、あんた」


 久しぶりに高校時代の友人と集まったある日、紗和の言葉に他の者は吹き出した。


「すぐに別れたからって、忘れちゃったの?」

「高橋くん可哀そう」


 可笑しそうにケラケラ笑う友人達の声に、不穏でささくれだった心がいくらか慰められる。

 紗和はほっと息を吐き出した。


「演劇部の部長は、東先輩だったよね? ほら、県のコンクールで良いところまでいった年の部長やってた人」

「そうだよ。東先輩、今留学してるんだってね」


「三年の時退学しちゃったのは、藤野くん」

「病気だったんだよね。確か今は良くなって、また高校入り直したんじゃなかったかな。良かったよね」


「スキー合宿でうちらの班を担当してたインストラクターの先生、すっごく雪焼けしてたよね? サーファーみたいな風貌なのに、泳げないって話てた人」

「……うん、確か」


 こんな会話がその後何往復かした後、友人たちはすっかり怪訝な表情を浮かべていた。


「どうしちゃったの、紗和」

「なんか今日変じゃない?」


 記憶のすり合わせに付き合わせた理由を、紗和は彼女たちに説明しようか逡巡した。一通り説明するには、まず自分の一風変わった趣味についての説明から始めないといけない。


「何でもないの」


 結局、説明はしないまま曖昧に笑った。なんだか疲れてしまっていた。正しい記憶が得られた歓びよりも、一刻も早く家に帰って眠りたい気持ちになっている。


――変なの……折角楽しかったはずなのに


 こんなことがここの所多かった。

時間旅行から戻ってきて、自信がなくなった過去の記憶を修正しようと試みると、どっと疲労感に襲われる。

 釈然としない気持ちを誤魔化して、記憶のちぐはぐを放っておいたほうが体調が整うのだ。一方で思考は靄がかかったように、ぼんやりしていくのだが。


「私、そろそろ帰るね」

「えっ?」


 耐えられない眠気に視界がぐらりと揺れて、紗和は立ち上がっていた。

 仰天している友人たちに、「何だか気持ち悪くて」と説明する。


「どうしたんだろう」

「本当に様子変だったけど、大丈夫かな」

「でも今彼氏と同棲してるんだよね。家まで帰れれば、安心かな」


 友人達は紗和を改札まで見送った。足取りはしっかりしていたので大丈夫だろうと結論づけたが、やはり心配になった一人が、数時間後に紗和にメッセージを送った。しかしそのメッセージは、読まれることはなかったのだった。

 

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