第3話
2時間後。カオリは計4杯ほど酒を煽ったところで焦点が怪しくなってきた。いつもよりペースが早かった分2~3杯は普段より量が少ない。
今はテーブルの上で頬杖つきながら、もそもそと冷めたフライドポテトを齧っている。
俺は2杯目のビールを飲み干した後はハイボールを2杯と安バーボンをロックで飲んでいるところ。つまみは焼きすぎて固くなったホッケだ。
「ねえ、カロル~」
「ん?」
酔い過ぎなのかカオリの呂律が回っていない。
「こうはかふぇりたくない~」
「今日は帰りたくない、か?」
「ん~」
「そうは言っても帰らないとだろ? 送っていくよ」
「かふぇらない! こうはカロルのうちにいく」
こうなると聞かないし、無理に帰そうとすると怒ったり泣いたりと始末に負えなくなること間違いなし。
泣き上戸にしても怒り上戸にしても一旦スイッチが入ってしまうとカオリを宥めるのは昔から手間がかかるのが変わりはない。
「はぁ……。わかったよ。おまえ、電車乗れるか?」
「のれまっふ! まかしぇとけっつーの」
店から近くの駅までは歩いてもらうが、自宅の最寄り駅からはタクシーだな。羽目を外させたのは俺だし、責任は持とう。
「月末で心もとないっていうのによ……」
俺の了承が嬉しいのか、ニヘラっと笑っているカオリ。
「会計済ましてくるから、寝るんじゃないぞ?」
「寝ないよぉ。あとれ、はんぶんこしゅるね~」
別に大した金額でもないし俺のおごりでおっけ。……あ、財布の中身がないんだっけ。
「ありがとうございます。お支払いは?」
「カードで……」
財布の中身の先送り。来月の俺、がんばってください。
電車とタクシーを乗り継いで、閑静と言うほどでもない住宅街の中にある俺が一人暮らししているマンションに着く。
俺の部屋は2階の東っ端の角部屋。エレベーターはないが2階なら苦もない。1LDKのよくある間取りの面白みのない部屋だ。
「ほれ、着いたぞ。靴は脱げるか?」
「うん、大丈夫。酔いもけっこう落ち着いてきたし……」
口調も戻ったみたいだし、大丈夫っていうのも本当らしいな。
「カオル、けっこういいところに住んでいるんだね。ウチより広いし、きれいにしてる」
「物がないだけじゃないか? 必要最低限のものしか置いてないから」
前回の引っ越しのときに余分なものはすべて処分した。テレビは見ないし、パソコンはノートブック型。動画も音楽も書籍も全部デジタルで統一している。
「ミニマリスト目指しているの?」
「いや、単なるものぐさだよ。以前よりも形のあるモノに執着しなくなっただけかもな」
もとより物欲はない方だったが、カオリと別れてから余計にその傾向は強くなった気がする。
カタチがあっても壊れてしまうのならばいっそのことカタチなんてなくてもいいのではないか、なんて思ったのかもしれない。
あのときの俺の気持ちなんてもんはとっくに忘れてしまっている。センチメンタルは俺の柄じゃないだろうし。
「どうする? もうそのまま寝るか?」
「お風呂はいりたい。シャワーでいいから貸して」
自然とお互いに泊まる方向で動いているけれど、カオリが俺のところに泊まるなんて何年ぶりだろう。少なくともこの部屋に引っ越してきてからは初めて。
こんな時間に自分ちに連れ帰っているのだから、酔いが冷めたら帰れとは言うつもりはないけど、本当に連れ帰ってきてよかったのだろうか?
「化粧、落とすんだろ? うちには化粧落としなんてないから俺の洗顔料でいいか?」
スースーするメンズ物ではないから平気だと思う。俺、あのメンズ物の何でもかんでもスースーするのが何気に苦手なんだよな。
「ん、ありがと」
「あ、そういや着替えなんてないぞ? カオリが昔うちに置いていたものはとっくに処分しちまったしね」
「カオルのシャツでいい」
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