最後の冒険

からあげのおにぎり




 年頃の娘とはどうしてああも難しいのだろう。そう考えながら古めかしい扉をあけギルドを出る。

 今はしがない冒険者だが愛する妻に先立たれてから愛情を持って娘を育ててきた。しかし、ここ一年ほどは反抗期によって娘は何を考えているのかわからなくなっていた。

 家に着くいた俺はと背負った大剣を入ってすぐの場所に立てかける。


「エナー、ただいま。今ご飯、作るからなー」


 そう叫ぶように呼びかけるが返事はなかった。遊びに出てるのだろうか。とりあえず二人分の料理を作り、自分の分を食べエナの分を保存しておく。

 料理は妻に先立たれてから初め、今やお手のものになった。冒険者を引退したら食堂でも開こうと思っている。


 気がつくと外は夕暮れになっていた。まだエナは帰って来ておらず、探しに出ようと支度していた時だった。玄関の扉がノックされた。


「バルザさんいらっしゃいますか?」


 その呼び声を聞き扉を開けると自分が所属する冒険者ギルドの受付嬢がいた。


「あ、良かった。バルザさんすみません!」


 そう言って彼女は頭を下げた。


「え?どうしたんです、急に」

「エナさん。実はバルザさんに内緒で冒険者になって任務を受けたんです。簡単な依頼だったのでお願いしたんですがこの時間になっても戻ってこなくて。本当にすみません!」


 そう言って受付嬢さんは頭を下げるが俺はそれを気遣ってる余裕はなく、娘の向かった場所を聞いた。すると彼女はおそらく街を出て二時間ほどの渓谷に向かったとの話だった。

 俺は急いで支度を済ませると必要な部位のみに集中して身体強化を掛け、街を飛び出し渓谷へ走る。本来の行程の半分の時間で駆け抜けた。走り続けた息切れと魔力の消費を補うように息を整える。

 息が整った所でエナの痕跡を探す。幸い痕跡はすぐ見つかった。渓谷の一部が崩れていた。その崩れた場所の下を覗き込むように見ると数メートル下で幅一m程の場所に身を竦めるようにエナが座っていた。

 俺がエナ!と呼びかけるとエナは上を向き、クシャクシャな顔でお父さ〜んと俺を呼んだ。俺はよかったと呟くとロープを取り出しエナを引っ張り上げる。


 エナを引き上げたあと既に辺りは真っ暗でこの中を帰るのは危険なため野営の準備をする。保存食と幾らかのクズ野菜を鍋に放り込み更に最近、王国で人気なカレールーと呼ばれるキューブも鍋に入れる。

 出来上がったカレールーと弁当いっぱいの白米にかけて頂く。エナも珍しくガツガツ食べていた。食事を終え、エナを寝かせて俺は仮眠しつつ周囲を警戒する。




 早朝、野営の片付けをして荷物を背負い街に向かおうとした時だった。強風がはためき行く手を阻んだ。背負った大剣を握り上空を見るとA級モンスターのグリフォンがこちらを見下ろしながら羽ばたいていた。


「なんでこんなとこにいるんだ……!」


 グリフォンは討伐自体はしたことがあったがそれは仲間と共にであり、幾分も今より若く脂が乗っていた時期だ。サシでやるのはとてもキツい。しかしエナを守るためにはやるしかない。

 グリフォンは強者だがそれと同時に獲物を仕留めきれないと判断すると逃げる習性があった。それを利用し、一刀で決めるしかない。狙うは脚、大剣を逆袈裟で身体強化にモノを言わせて振り上げる。

 そこには側から見た者に力のみではない確かな技術を感じさせる一撃だった。

 見事に当たった一撃はグリフォンを退かせるには十分だった。帰りの道中、エナが俺に謝ってきた。勝手なことしてごめんなさいと。俺はその言葉を受け、笑って許しながらエナの頭を撫でる。

 ここまでヒヤヒヤしたのは久々だと思いながら帰る道中は失いかけた情熱を呼び戻してくれた気がした。

 まぁ、こう言ったことはこれで最後にしたいが。そう思いながら左手に感じる温もりはこれまでの自分を肯定してくれてるような気がした。

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