第9話 良心の結晶 Part1

「悪かったな岳積。勝手にいなくなって」

「まったくだ。ブリスラッドのエージェントに、どう言い訳するか悩んだよ」

 岳積は最奥の広間に聡情を見つけた。

 聡情の背後には巨大な扉がある。ヨロイの言葉どおり、扉だった。

 聡情がそれを指差す。

「これ、ここと現実世界を繋ぐ扉なんだって」

「統四平限は集まったのか?」

「いや。揃ってればお前に邪魔される前に瞳彩アイリスを叩き起こしてるよ」

 それならば、聡情を止められるのは今しかない。

「現実世界で瞳彩アイリスが復活すれば、瞳彩アイリスは多くの人々を襲うだろう。家族を失ったお前になら、その痛みは理解できるはずだ」

「それを言われると耳が痛いな。でも、俺は瞳縁リムの願いを叶えたい。顔も名前も知らないからって、現実世界の人たちがどうなってもいいとは思わない。だけど、あの日バーストに襲われた恐怖も、瞳縁リムが現れて助かったと思った気持ちも忘れられないんだ。あの時、もしあいつが来なかったらって思って、気にしても仕方ないことで苦しんだことは何度もあった。それに、ブリスラッドで見せられた瞳彩アイリスの記憶。あれ見たら、瞳彩アイリスが不憫に思えて仕方なくてさ……」

「誰かが傷つくとわかっていて、それを見過ごすのがエージェントのやることなのか?」

「悪いが今の俺はバーストだ。お前が瞳彩アイリスの何であろうが、俺はお前を倒す。それは変わらない」

 聡情の瞳縁リムに対する思いは本物だ。

「結局俺のせいで瞳縁リムは……。お前の味方をしたり、あいつの味方をしたり、優柔不断な自分に腹が立ったけど、もう迷わない――」

 聡情がカードを一枚取り出し、投げた。

 小さな立方体が現れると次第に体積が大きくなり、広間全体を包んでいく。

「これは……」

「この場所は、瞳縁リムが使っていた【執念箱庭リブート・ミニスケープ】を応用してつくられた空間。ここからは逃げられない。お前のことだから、勝負を途中で投げ出したりはしないと思うけど、念のためだ」

 

 ――やはり、彼と戦う以外の道はない。


「岳積。どっちが勝っても文句はなしだ。敗者がどんな末路を辿ろうとな」

 

 ――心臓の鼓動が高鳴る。

 

「五仕旗――」

 岳積が言う。

N^Synergetic2 Periodシナジェティック・ピリオド!」

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