第8話 最強の運が運の尽き Part2(ゲーム)
スパイク vs テンプ
TURN1
テンプのターン
「僕の先攻。【ダブルアップ・チップス】を召喚――」
胴体がコインのような形をした龍が二体現れる。
【ダブルアップ・チップス】
固有希少値:銅 攻撃力300 耐久力600
効果:???
(二人で一組の『ギャンドブルム』。ちまちまと勝負に挑むことを嫌い、いつも『
「ターン終了だ」
手札
スパイク:5枚
テンプ:4枚
TURN2
スパイクのターン
「俺のターン。
場に巨大な装置が現れる。
【
発動条件:自分の手札にモンスターカードがある場合。
効果:以下のモンスターカードのうち、いずれか1つを自分の手札・自分の場から墓地に送る。
・固有希少値:銅のモンスターカード2枚。
・固有希少値:銀または金のモンスターカード1枚。
手札のモンスターカード1枚を指定し、指定したモンスターを手札から召喚する。
その際、召喚条件は無視できる。
「手札の固有希少値:銀のモンスター1枚を墓地に送り――」
スパイクが【さすまたを構える
「手札のモンスター1体を召喚条件を無視して召喚する――」
装置が煙を吐くと、扉が開き、中から大きな足音を立てて牛のような怪物が現れる。
【豪傑な
固有希少値:金 攻撃力1700
召喚条件:相手モンスターを破壊している自分モンスター1体を墓地に送ることで、自分メインフェイズに手札から召喚可能。
効果:このモンスターが戦闘する場合、互いのモンスターの初期攻撃力で勝敗判定を行う。
(『
「バトルだ――」
【豪傑な獄卒】攻撃力1700
vs
【ダブルアップ・チップス】攻撃力300 耐久力600
二体の龍は恐れをなして背を向けた。【豪傑な獄卒】が、さすまたを投げると一本で二つの背中を捕らえた。
テンプの受ける戦闘ダメージ:1100(1700-600)
テンプの累積ダメージ:1100(0+1100)
「ターン終了」
手札
スパイク:2枚
テンプ:4枚
TURN3
テンプのターン
「僕のターン――」
手札を見るテンプ。
彼の手札には既に【オールイン・ワイバーン】があった。目にもの見せてやる。
ドローフェイズ
手札:4枚
場:0枚
総出場枚数:4枚
1枚ホールド(3枚デッキの下に戻す) 4枚ドロー
手札:5枚
「【ダブルアップ・チップス】の効果発動」
「なに? そのモンスターは前のターンで墓地に送ったはず――」
「このモンスターは、墓地で効果を発動するのさ」
羽のついた無数のコインが現れ、ジャラジャラと音を立てながら
「【ダブルアップ・チップス】が破壊された次のターン、相手に600ダメージを与える」
【ダブルアップ・チップス】
固有希少値:銅 攻撃力300 耐久力600
効果:場のこのモンスターが破壊された次のターン、このモンスターが墓地に存在する場合、発動可能。
相手に600ダメージを与える。
(二人で一組の『ギャンドブルム』。ちまちまと勝負に挑むことを嫌い、いつも『
スパイクの累積ダメージ:600(0+600)
「さらに、うちのエースの登場だ! 【オールイン・ワイバーン】!」
タキシードを着たワイバーンが召喚された。怪物を前にしても堂々としている。今日も好調のようだ。
【オールイン・ワイバーン】
固有希少値:金 攻撃力1500
効果:自分が相手に効果ダメージを与えているターンに1度、発動可能。
成功確率60%のルーレットを回し、その結果によって以下の効果を適用する。
・成功:このターンに自分が相手に与えた効果ダメージの倍の数値分、このモンスターの攻撃力が上がる。
・失敗:このモンスターの攻撃力は0になる。
(怖いもの知らずの『ギャンドブルム』。『度胸』があり、失敗することなど考えない)
「効果発動――」
テンプが指を鳴らすと、場の中央に巨大なルーレットが現れた。赤と黒のポケットが半分ずつで構成されている。
「ルーレットを回し、当たればこのターンあんたに与えたダメージ600の倍――1200ポイントがこのモンスターの攻撃力に加算される。成功確率は60%――」
ルーレットの赤の比率が大きくなる。
「赤のポケットに入れば成功だからね」
スパイクは理解しているのかしていないのか、黙って見ている。
「それじゃあ、スタート――」
テンプは手の中に出現した銀色の玉を投げ込む。ボールはルーレットの縁を勢いよく回り出した。
徐々に中央に向かって、ボールのスピードが弱まっていく。ボールは赤に入った。
当然だ。僕が外すことなんてない。
「【オールイン・ワイバーン】の攻撃力は1200上がるよ――」
【オールイン・ワイバーン】攻撃力2700(1500+600×2)
「バトル。【オールイン・ワイバーン】で【豪傑な獄卒】を攻撃――」
【オールイン・ワイバーン】攻撃力2700
vs
【豪傑な獄卒】攻撃力1700
「
ワイバーンは慣れた手つきで銃を取り出すと、弾丸を放った。その弾は怪物に向かう。
――口ほどにもない。
そう思った時、怪物はさすまたを振った。
弾丸は進行方向を変えると、射手であるワイバーンを裏切り、貫いた。
「何が起こったんだ?」
テンプが動揺していると、スパイクが口を開いた。
「【豪傑な獄卒】が戦闘する時、勝敗判定は互いの初期攻撃力で行う――」
【オールイン・ワイバーン】攻撃力1500
vs
【豪傑な獄卒】攻撃力1700
「お前がいくら攻撃力を上げようと無駄だったというわけだ」
スパイクが鼻で笑う。
テンプはそれが鼻についた。
「諦めろ。運だけで勝てるほど五仕旗は甘くない」
運を使って勝負してはいけないと誰が決めたのだろうか。
「勝つことができれば、過程は関係ないよ。それに僕だって、みんなのために戦ってるんだ。誰かのために戦ってるのは、あんただけじゃない――」
あの日、聡情がブリスラッドの街から出ていくのを偶然目にした。酷く疲れているように見えた。
「聡情さん」
声をかけると露骨に驚いていた。彼が何かを警戒していたのは明白だった。
テンプは自分を助けた聡情に、どこか惹かれていた。そうでなければ話しかけることなどしない。ただ『敵に救われたラッキーが訪れた』と思うだけだ。
「お前……」
「大丈夫ですか?」
あの
聡情を支えながら、彼に指示された方へ歩いていく。どんどん町から離れていく。
やがて
「こうか?」
聡情が壁の左端に行き、四回ノックする。
壁は天井に吸い上げられるようにして開き、地下へ続く階段が現れた。
「ここが
地下は蟻の巣のように複雑になっていた。二人は慣れない空間で右往左往した。
そうしているうちに、広間に出た。部屋はたいまつで照らされている。奥に巨大な扉があり、その前にこちらに背を向けるかたちで――女性だろうか――人が立っていた。
「あなたがヨロイさんですね?」
聡情が声をかける。
「まさか、本当に来るなんてね――」
その女性がこちらを見る。
テンプは顔を見て驚いた。
その人物こそ、かつて
「ようこそ。
「でも、
「わかってる。あの人も覚悟はしていた。偶然立ち寄ったパルスイアの町であなたたちのことを知った時、本当に驚いたと思う。モンスターの力で、遠方にいる私に『私に何かあったら、後のことは任せた』って伝えて、一人でブリスラッドに行っちゃった。いつもの
テンプは待ちきれず話しかける。
「あの――僕のこと覚えてますか?」
ヨロイは首を
「えっと――」
「僕は昔、あなたに助けてもらったことがあるんだ。捕まえられそうになっていたところを――」
「ああ! あの時の!」
ヨロイはピンときたようだ。
「随分大きくなったね」
テンプはそう言われ、照れくさくなった。
聡情とヨロイ。今の自分を導いた人間が、二人も仲間にいる。彼らがいなければ、今頃どうなっていたか――。恩に報いるため、どうあっても負けられない。
【豪傑な獄卒】に、これほど面倒な効果があったとは。しかし、終わったことをとやかく言っても仕方ない。切り替えが大事だ。
「
場に、モンスターが一体入れるくらいの箱が三つ現れた。そのうちの一つに【モンスター・コール・プロブレム】のカードが入り込む。
テンプはさらに、手札のカードを二枚投げ込む。それらは一枚ずつ、残る二つの箱に入り込んだ。
三つの箱は、ぐるぐるとシャッフルされる。スパイクには、どの箱にどのカードが入っているかなど、到底わからないだろう。
「今からあんたには、三つの箱から一つを選んでもらう。その中に潜むカードが【モンスター・コール・プロブレム】ならあんたの勝ち。でも、他のカードなら【モンスター・コール・プロブレム】はモンスターとして場に召喚される」
「今度は俺の運を試そうというのか。ならば、俺は中央の箱を選ぶ」
スパイクは箱を指差した。
「へえ。意外と決断力があるんだね。でも、面白いのはここからだよ――」
一番左の箱――スパイクから見た一番右の箱――が開く。そこには【
「何だこれは……」
「【モンスター・コール・プロブレム】以外のカードを一枚公開して手札に戻す。これで残る箱は二つ。あんたは選んだ箱を変えてもいいし、そのままにしてもいい。さあ、どうする?」
【モンスター・コール・プロブレム】
発動条件:【モンスター・コール・プロブレム】以外の自分の手札が2枚以上ある場合。
効果:自分の手札の2枚のカード(【モンスター・コール・プロブレム】は除く)とこのカードをシャッフルし、相手は1枚を選ぶ(選ばれたカードをAとする)。
自分は選ばれたカードでない2枚のうち、【モンスター・コール・プロブレム】でないカードを公開し、手札に戻す(残ったカードをBとする)。
その後で、相手はAとBのうち、どちらかを選ぶ。
選んだカードを確認し、そのカードが【モンスター・コール・プロブレム】でなければ、このカードを以下のモンスターカードとして召喚する。
<【モンスター・コール・プロブレム・ワイバーン】
固有希少値:金 攻撃力2000
効果:このモンスターの召喚時に発動可能。
自分の累積ダメージを0にする。
(慎重派の『ギャンドブルム』。自身の選択が正しいのか『葛藤』することが多い)>
「変えない」
スパイクは即答した。
「それじゃあ、箱オープンだ――」
スパイクの選んだ箱が開く。
顔をのぞかせたのは【伏兵の進行】のカードだった。
「外したね。よって、【モンスター・コール・プロブレム・ワイバーン】が召喚される――」
残った箱から金色のスーツを
「このモンスターが場に出た時、僕の累積ダメージは0になる!」
スーツのワイバーンは、服の内側に両手を突っ込むと、主人の方を向いて勢いよく手を広げた。
テンプの頭上から大量の札束が降り注ぐ。
テンプの累積ダメージ:0
「僕のバトルフェイズは終わってない。バトルフェイズ中に場に出たモンスターには、攻撃が許される――」
【モンスター・コール・プロブレム・ワイバーン】攻撃力2000
vs
【豪傑な獄卒】攻撃力1700
「【豪傑な獄卒】と戦闘する場合は、初期攻撃力で戦うんだったよね。これで文句ない?」
スパイクは苦い顔をする。
【モンスター・コール・プロブレム・ワイバーン】の二丁の銃が次々と弾を発射する。【豪傑な獄卒】は必死に抵抗するも、全ての弾をさばくことはできず、破壊された。
スパイクの累積ダメージ:2600(600+2000)
スパイクが胸を抑えて倒れる。
「ターン終了」
手札
スパイク:2枚
テンプ:3枚
TURN4
スパイクのターン
「俺のターン……」
スパイクが立ち上がる。
ドローフェイズ
手札:2枚
場:0枚
総出場枚数:2枚
2枚ホールド(0枚デッキの下に戻す) 3枚ドロー
手札:5枚
「手札のこのモンスターは、お前の場に、俺のモンスターを破壊したモンスターがいる場合に召喚できる。現れろ【
青い炎を角に灯した怪物が現れる。
【冷血な獄卒】
固有希少値:金 攻撃力1700
召喚条件:相手の場に、自分モンスターを戦闘で破壊しているモンスターがいる場合、自分ターンのメインフェイズに手札から召喚可能。
効果:???
(『
「さらに【
【
発動条件:相手の場に自分モンスターより攻撃力が高いモンスターがいる場合。
効果:自分モンスター1体の攻撃力を500上げる。
【冷血な獄卒】攻撃力2200(1700+500)
「バトル――」
【冷血な獄卒】攻撃力2200
vs
【モンスター・コール・プロブレム・ワイバーン】攻撃力2000
「攻撃力を上げて攻めるだけなんて、芸がない」
勝利を確信したテンプは、スパイクを挑発した。
「専煌カード【コンフリクト・ポールポジション】! 成功確率30%のルーレットを回し、当たれば、相手モンスター全ての攻撃力が、僕のモンスターに加算される――」
【コンフリクト・ポールポジション】
専煌カード
指定
効果:指定
成功確率30%のルーレットを回し、その結果によって次の効果を適用する。
・成功:このモンスターの攻撃力は、相手の場の全てのモンスターの攻撃力の合計分上がる。
再び場にルーレットが現れた。今度は先ほどより黒の割合が多い。テンプはボールを投げた。
「芸がないのはどちらだろうな」
「は?」
スパイクが口を開いた。ボールはぐるぐる回っている。
「そのルーレット、どうせ当たるんだろう」
「当たるさ。僕は強運なんだ。そうやって今まで生き延びてきたんだから」
ボールは赤――当たりのポケットに入る。
「ほら、また当たり!」
「ハズレのないルーレットなら、それこそ芸がないということがわからんのか?」
「何が言いたいんだよ! 負け惜しみなら聞く価値はない。ルーレット成功により、【モンスター・コール・プロブレム・ワイバーン】の攻撃力は【冷血な獄卒】の攻撃力分だけ上昇する!」
その時、地面から薄い青色の霧のようなものが上がった。それは【モンスター・コール・プロブレム・ワイバーン】の口や鼻から体内に入っていく。
ワイバーンは激しく咳き込むと、仰向けに倒れ込んだ。口から青色の霧が吐かれる。
「何だ……」
テンプが目を凝らすと、それは何かの形に見えた。
これは――幽霊か?
それは先のターンで葬ったはずの【豪傑な獄卒】だった。
「【冷血な獄卒】は、倒されたモンスターの無念を晴らす。地獄の底から這い上がってくるのは、お前のモンスターだけではなかったということだ」
霧状になった【豪傑な獄卒】は、【冷血な獄卒】の体内に入っていく。
【冷血な獄卒】はワイバーンとは対照的に、力が
「【冷血な獄卒】は、相手の攻撃力変化を吸収できる――」
【冷血な獄卒】攻撃力4400(2200+2200)
【冷血な獄卒】
固有希少値:金 攻撃力1700
召喚条件:相手の場に、自分モンスターを戦闘で破壊しているモンスターがいる場合、自分ターンのメインフェイズに手札から召喚可能。
効果:相手が、モンスターの攻撃力を変化させる効果を含む効果を発動した場合、その効果処理の際に適用できる。
その効果により攻撃力変化を受けるモンスターを、自分モンスターに変更する。
(『
「賭けに勝ったのは僕だぞ。この泥棒!」
「今のルーレットが成功していなければ、お前が敗北することはなかった。幸運すぎるというのも考えものだな。バトル再開――」
【冷血な獄卒】攻撃力4400
vs
【モンスター・コール・プロブレム・ワイバーン】攻撃力2000
「
【冷血な獄卒】と【豪傑な獄卒】の霊がさすまたを交差させて、【モンスター・コール・プロブレム・ワイバーン】を貫いた。
テンプの累積ダメージ:4400(0+4400)
スパイクの勝利
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