第8話 最強の運が運の尽き Part1
「岳積さん。あなたに恨みはないけど、聡情さんのためだ。僕と戦ってもらうよ」
ブリスラッドでの戦いの中、テンプはいつの間にか姿を消していた。その彼が聡情側についていたとは。
「君は聡情が何をするつもりか知っているのか? このままだと多くの者の命が――」
「知っているさ。それでも僕には関係ない。聡情さんの手助けをできるなら構わないよ。それに僕はバーストだ。今さら正義だ何だと言うつもりはない。この先に進みたいなら、まず僕を倒せ」
真田に見捨てられ、聡情に救われた彼の耳には、岳積の言葉など届かないだろう。彼の望みどおり、五仕旗で相手をするしかない――。
「その勝負。俺が引き受ける」
その時、洞窟の入り口で声がした。
振り返ると、大柄な男がこちらに近づいてくる。
「スパイク!」
その男は先日、Laboの近くで岳積と戦ったスパイクだった。
「お前、どうして……」
「聞こえなかったのか? お前の代わりに俺が戦うと言っているんだ。だからお前は先に進め。この奥に用があるんだろう?」
ついこの前まで、敵意を
岳積が混乱していると、スパイクが口を開いた。
「Laboに所属していた俺の兄貴は、バーストに襲われ行方がわからなくなった。お前はその時、兄貴と一緒にいた研究員だったんだな。お前は兄貴が悩まされていたものと同じ夢に苦しんでいた。兄貴の残したお前への手紙を読んで知ったよ」
「手紙?」
「ああ。そしてお前が、兄貴と関わりのある人物だということを知った俺は、お前のことを調べた。Laboの人間にお前のことを聞き、お前が兄貴と統四平限、両方を探すためにLaboを去り、エージェントになったことを知った」
「私はLaboにいることが心苦しくなり逃げ出しただけだ。トレックさんは、私を守って姿を消したのに……」
スパイクは封筒を取り出すと、岳積に渡した。
「これがその手紙だ。兄貴の荷物の中にあった」
「これは……」
封筒を開き、手紙を読む。
粒井君
僕の亡き後、君がこの手紙を読んでくれていると嬉しい。
僕は、自分と同じ夢を見る君と出会い、ともに研究することができて嬉しかった。これまでずっと一人で抱えてきたから。弟と同じ年齢くらいの君に会えて、家族と離れて暮らす寂しさも少し軽くなった気がしたよ。
僕がいなくなっても、君は夢の謎を解くことに尽力してほしい。僕たち以外にも、同じように苦しんでいる人がいるかもしれない。
君がいつか、あの夢から覚める日が訪れることを願っています。
「トレックさんは、自分の身に何か起こるとわかっていたのか?」
「ああ。それがバーストによる襲撃のことなのかは、はっきりしない。だが、兄貴は元々長くは生きられない体だった」
初耳だった。
「先が長くないことを悟っていたのか、道半ばで命が尽きることもあると考えて、この手紙を残したんだと思う。だからバーストに襲われた時も、兄貴は自分が生き残るより、お前を生かしたほうがいいと考えて、お前を守ったんだろう。兄貴はお前のことを、同じ夢に抗う同志として大切にしていたはずだ。兄貴からLaboでの生活のことは聞いていたが、お前の話は聞いたことがない。きっと、あいつなりにお前を守ろうとしていたんだろう。兄貴は夢のことで、つまらない思いをしたことが少なくなかったからな。他人に知られることはお前にとっても不利益になりかねないと、家族の俺にさえ、話すことを
「そうだったのか……」
あの人が、それほど自分を思っていたことなど知らなかった。
「ここに私がいると、なぜわかった?」
「お前にもう一度会おうと調べていたところ、お前がパルスイアの集会所のエージェントだということを知った。集会所に行くと、お前がここに向かったという情報を得た」
教えたのはおそらく、ヨロイだ。
「俺たちが初めて会ったあの時、お前は気づいていたんだろう? 俺が兄貴と何らかの関わりを持つ人間であることに。俺のデッキには、兄貴が使っていたカードも含まれているからな。それなのに俺は、お前の気持ちなど知らず、お前が統四平限を悪用すると一方的に決めつけた」
「スパイク……」
「詳しい事情は知らないが、ここは俺に任せて先に行け」
「そうか……。わかった。頼む」
岳積はテンプを横目に先に進んだ。
粒井岳積は逃したが、このスパイクという男が邪魔をしてくるなら、先に片付ければいい。その後で岳積を追うだけのこと。
テンプは岳積を見逃した。スパイクに声をかける。
「じゃあ、あんたが相手ってことでいいのね?」
「ああ」
「岳積さんと仲悪いみたいだけど、味方していいのかよ?」
「兄貴があいつを信用しているなら、俺もあいつを信じる他あるまい。これは兄貴の闘いでもあるんだからな」
「兄弟か。僕、いたことないからわかんないや」
兄弟の言うことなら敵も味方に変わる。そこまでの説得力が身内の言葉にはあるのだろうか。テンプには、見当もつかない。
――心臓の鼓動が高鳴る。
「五仕旗――」
テンプが言う。
「
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