第7話 銀之縦操息-ギンノジュウソウソク Part3

「生きてる……」

 ヨロイは心臓の辺りに手を当てている。

「あなたはわざと、トレックさんのことを明かしたのだな。怒り狂った私が、あなたに致命傷を与えるように」

「バレた? そう。あの日から、ずっと後ろめたかった。瞳縁リムのためにしたことだと思えば、尾を引かないと思ったんだけどな。だから聡情に、Laboでの事件であなたが苦しんでいる話を聞いた時は驚いた。あの時、私が起動スターターを奪った製札者メーカーとあなたに関係があったなんてね。だからもし、私があなたに負けるその時は、命を落とす覚悟をしていたの」

「そんな身勝手な罪滅ぼしに、私は手を貸さない」

「大したもんだわ。あなたさっき、本命の【衛兵抜刀】を発動させるために、わざと手札にないカードを宣言したでしょ。【スピリット・バズーカ】は、自分モンスターの攻撃力分のダメージを与える効果を持つ――」


【スピリット・バズーカ】

 伏兵リアクターカード

 発動条件:このターンに相手がダメージを受けていない場合。

 効果:自分の場のモンスター1体を指定する。

 そのモンスターの初期攻撃力分のダメージを相手に与える。

 この効果によって相手が敗北する場合、そのダメージは0になる。

 この効果でダメージを与えた場合、このターンに相手が受ける全てのダメージは0になる。


「でも、あなたの【ミミ】は攻撃力100。【スピリット・バズーカ】の効果で、累積ダメージ2900の私にダメージを与えることはできなかった。だから、もし発動できたとしても全くの無駄。ってことは、【スピリット・バズーカ】のカードは最初から手札になかった。あなたの目的は手札をわざと墓地に送って、狙いのカードを発動できる確率を高めること」

「そうだ」

「そのことに気づくなんてね。私も同じ手で【無地迎撃フリースタイル・アンブッシュ】の発動確率を上げようと思ったんだけどさ……。やっぱ、神様は善人の味方なのかしらね」

「どうだかな……。約束どおり、聡情の居場所は教えてもらう」

「わかった――」

 ヨロイは岳積に聡情の居場所を教えた。

「そこが私と瞳縁リムが暮らしていた場所。この世界と瞳彩アイリスが生きていた世界を結ぶ扉」

「わかった」

「後はあなたたち二人に任せるわ」

 ヨロイは歩き出す。

「頼みがある――」 

 岳積は彼女を引き止めた。

「ハルナさんに会ってほしい。もちろん、合わせる顔がないことはわかっている。だが、あの人はあなたの身を案じている。二十年近く経った今も」

 ヨロイはうつむく。

「あなたにとって瞳縁リムが恩人であるように、私にとってもハルナさんは恩人なんだ。Laboでの一件以来、先の見えなくなった私をエージェントとして引き入れてくれたのはハルナさんだった。だから……」

 ヨロイは顔を上げる。

「わかった。必ず会いにいく」

 うなずく岳積。

「私はこのまま聡情のもとに向かおうと思う。ハルナさんに伝えておいてほしい」

「うん。気をつけてね……」

 ヨロイは集会所の方へ向かった。


 岳積はデッキからモンスターを召喚する。皆が彼を囲んだ。

「みんな、聞いてくれ。ここからは……」

 モンスターたちは真剣に聴いていた。

「……だから、もしここで引き返したい者がいるなら、私は止めない。君たちが自分自身で選んでほしい。無理に連れていけば、私はエージェントとしても製札者メーカーとしても失格だ」

 誰もその場を立ち去ろうとはしなかった。モンスターたちも覚悟はできていたようだ。

「ありがとう。君たちを仲間にすることができてよかった」

 モンスターたちはカードに戻る。


 深夜になった。

 ここまで足を運ぶのに、体力と時間を大幅に消耗したが、現実世界の平和を思えば安いものだ。

 岳積の眼前には洞窟の入り口があった。そこから中へ入り、進んでいく。

 突き当たりに人影があった。

「こんばんは。『夜中になっても私が帰ってこなければ、アジトは任せたよ』ってヨロイさんに言われたもので」

「君は……」

 そこにいたのは、ブリスラッドの町で聡情がかばった少年――テンプだった。

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