第6話 内と外 Part2

 辺り一面が爆煙に包まれる。

 聡情は倒れた瞳縁リムに近寄った。瞳縁リムはぐったりとして動かない。ダメージは大きかったようだ。

「ごめん瞳縁リム。俺、お前に助けてもらったのに……」

「それでいい。君が選んだことならば、否定するつもりはない」

 龍はかすれた声で言った。

 自分は岳積が傷つくところを見ていられなかった。だから瞳縁リムを敵に回すことにした。


 ――でも、本当にそれでいいのだろうか。


 自分が恩人に手をかけた。それは変わらない。これからその事実を抱えて生きていけるだろうか。耐えられるだろうか。エージェントとして人々を救う資格があるのだろうか……。

 瞳縁リムはもう手遅れだろう。助からない。こんな仕打ちを受けてなお、彼は自分を敵視せず、受け入れようとしている。

 それなのに、俺は……。

瞳彩アイリスを目覚めさせれば……」

 瞳縁リムがわずかに反応する。

 聡情は力を込めた。

瞳彩アイリスを目覚めさせれば、お前に恩を返せるのか?」

 龍は瞬きをする。首を縦に振っているように感じられた。

「俺が……俺がお前の後を継ぐ」

「そうか。ならば……」

 瞳縁リムが聡情に打ち明ける。

「……わかった」

 聡情がうなずく。

 龍は光の粒になって消えていく。水が一滴一滴蒸発していくのを見せられているようだった。

瞳縁リム!」

 覚悟していたことだが、思わず叫ぶ。

「あの時、君を救ったのは間違いではなかった……頼んだぞ……」


 目が覚める。見慣れぬ天井が目に入った。

 ベッドから出て窓際に行く。外を眺めるとせわしない町並みが広がっていた。遠くに人々が走り回っている姿が見える。この町のエージェントだろうか。

 おそらく、ここはブリスラッドの医療機関。あの騒ぎの中、気を失ったところを助けられたのだ。

 隣のベッドには岳積が横たわっている。彼はまだ目覚めていないようだ。

 この後、一連の事件について、エージェントたちに事情を聞かれるはず。瞳縁リムの言ったことを話しても信じてはもらえないだろう。

 『岳積は世界の敵なのだ』などと言っても、鼻で笑われるに決まっている。

 自分と岳積はパルスイアのエージェントで、まだ幼いモンスターとその仲間を襲ったバーストを倒しにきた。バーストと戦った後、統四平限の在り処を知る者と出会い、その者との交戦中に大規模な爆発が……。

 こう話せばよいだけのこと。嘘はない。この町のエージェントのことは何とかなる。

 しかし、岳積はどうだろうか。

 正義感の強い岳積なら瞳彩アイリス復活を阻止するに決まっている。瞳縁リムが最期に言っていたを封じられるようなことがあれば、瞳彩アイリスの復活は絶望的になる。

 机の上に置かれているメモ帳から一枚を剥ぎ取る。ペンを取り、思いをつづった。それを岳積の枕元に置く。

 耳をそばだて、誰にも見つからないように部屋を出た。

 

 ――そして青年は、バーストになった。

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