第6話 内と外 Part1(ゲーム)
聡情はただ、眼前に現れた龍を見ていた。
ハルナのもとで暮らし、エージェントになってから、ずっとあの時の龍を捜してきた。
それが今、目の前に――。
TURN8
「私の攻撃力は、君たちのモンスターの攻撃力合計に等しくなる――」
体が地に押しつけられそうになる。体が重い。
岳積や聡情、彼らの場のモンスターたちが膝をつく。
【
【
固有希少値:王 攻撃力0
召喚条件:このゲーム中に固有希少値:銅、銀、金が全て記録されている場合。
効果:このモンスターの攻撃力は、相手の場の全てのモンスターの攻撃力と同じになる。
(今はまだ目覚……龍が『無意識』に創……した『龍の姿』。白く輝……で、全てを『吸収』する)
しばらくすると圧力は弱まった。皆が息を切らしながら立ち上がる。
「さらに、専煌カード【
振り返ると、テンプや真田が弾き飛ばされているのが目に映った。中からは外の様子がほとんど見えない。
【ギャランティ・レイピア】は、自身の持つ剣を杖のようにして、引き込まれるのをなんとか耐えている。
【ギャランティ・レイピア】耐久力0
「これは……」
岳積は目を丸くした。
「これが【
【
専煌カード
指定
効果:このカードが場にある限り、相手のモンスター全ての耐久力は0になる。
岳積のデッキは、ほとんどが固有希少値:銅または銀のモンスターで構築されている。彼らは攻撃力こそ固有希少値:金の面々に劣るが、耐久力を有し、プレイヤーを守れる点が魅力。それを奪われた岳積が不利なことは明らかだった。
「バトルフェイズ。私自身で【ギャランティ・レイピア】を攻撃!」
【
vs
【ギャランティ・レイピア】攻撃力1300 耐久力0
「
岳積が衝撃で宙を舞う。
聡情は、岳積が飛ばされた方向に手札を投げた。頭より先に体が動いた。
悪魔が現れ、笑い声を上げながら岳積を翼で掴む。なんとか【
「【
【悪知恵の抱擁】
鉄槌カード
発動条件:
・自分が戦闘ダメージを受ける場合。
・自分に効果ダメージが発生する効果が発動した場合、その効果の発動に対して発動可能。
効果:相手の累積ダメージと同じ数値分、受けるダメージを軽減する。
「お前の累積ダメージ分、岳積が受けるダメージを軽減した」
岳積の受ける戦闘ダメージ:2400(3700-1300)
岳積の累積ダメージ:2900(500+2400)
「あくまで君は、彼を助けるというんだな」
「当たり前だろ。俺はあいつの相棒だからな」
岳積が立ち上がる。大事には至らなかったようで、聡情は安堵した。
「
「粒井岳積が味方だと思っているのは君だけだ」
「どういうことだよ!」
大切なものを踏みにじられたような気がして、聡情は怒鳴る。
「それを説明するためには、この世界の正体について話さなければならない」
「正体?」
「なぜあの時、私が君を助けたのか。それはこの世界を創造したモンスターを目覚めさせるためだ」
何が何だかわからない。
「この世界は、そのモンスターが無意識のうちに創り上げた精神の世界」
「は?」
開いた口が塞がらないとはこのことだ。
「この世界がモンスターの心の中だってのか? そんな話、信じられるか!」
「もちろん、簡単に信じられる話ではないことはわかっている。しかし、これは事実だ。そのモンスターが眠っている世界――現実世界にも、人間とモンスターは存在していた。この世界と異なるのは、その世界では元々、人間とモンスターが交流し、ともに暮らすことは当然であったということ」
「そして現実世界にも、カードと五仕旗は存在していた。時代によって、人間とモンスターの関わり方や五仕旗の在り方は変化していったようだが」
「そのモンスターはなぜ、自身の心のうちに、その現実世界とやらに似た世界をつくることになった?」
岳積が問う。
「それは、そのモンスター――
「なぜ、そんなことに?」
「
「しかし
岳積と聡情は絶句した。この世界がそのような複雑な経緯で誕生したことなど知らなかった。考えたこともない。
混乱する中、浮かんできた疑問を聡情はぶつける。
「だったらなんで俺たちは今日この日まで、この世界の成り立ちや
「それはこの世界が、不完全だからだ。先にも話したが、
「
岳積も疑問が尽きないようだ。
「私は、この世界が
「統四平限だと?」
「ああ。統四平限には、この世界から
「統四平限は一枚だけではないのか?」
「ああ。そして、それらの在り処も既に把握済みだ」
岳積が――彼だけでなく、多くの人間が懸命に追い、誰の手にも収まっていないそのカードの所在を、このモンスターは知っている。
「それは……」
岳積が前のめりになった。
「私の目の前に――統四平限は、掛松聡情、君のデッキそのものだ」
聡情は意識が遠くなりそうだった。
「聡情のデッキが?」
「厳密には、彼のデッキの一部のカード」
「もちろん、君も君のモンスターたちも気づいていないだろう。あの事件の時、私が居合わせたあの町に、君はいた。そして、
「それでお前は俺を……」
「ああ。統四平限と、それらに選ばれた実力を持つ君の両方を得るために、君を
そこまで話すと、
「そして私が考えるに、岳積、君は
「恐怖心?」
「君が見る夢は、
「なぜその夢のことを! それは一部の人間にしか……」
岳積は何かに気づいたようだった。そして、聡情の方を見る。
「お前、あれ、書き直したのか?」
聡情は理解できなかったが、岳積と時間差で、電撃でもくらったかのようにハッとした。
――忘れていた。
あの時タイミング悪く、その場を離れることになり、岳積に命じられたプロフィールの書き直しをすっかり忘れていた。
「俺が、集会所の掲示板に岳積の夢のことを書いたから――まさかお前、それを見て……」
「その通り。私が
「
「
「それが私……。
呆然とする岳積をよそに、
「私は偶然訪れたパルスイアの集会所で、君たちのことを知った。岳積は
ハルナのことだ。
「この町で聡情、君を見て驚いたよ。あの時と同じ雰囲気を今の君から感じた。君こそ、私が二十年もの時をかけて捜し続けた、統四平限を持つ少年であることは間違いない」
「嘘だろ……。俺を利用するために、お前は……」
信じたくなかった。
「簡単に信じられる話ではないだろう。証明になるかはわからないが……」
「岳積。君の見る夢はこのようなものではないか?」
その瞬間、聡情の頭の中にイメージが流れ込んできた。
地を這い
四肢を地に張りつけ、敵を丸のみにする。嘲るような笑い声を上げると、こちらに向かい、ペガサスが突進を――。
今度は両足で立ち、色とりどりの沼を使い分ける龍。
敵の龍が身につけた種々の武器によって、何度も痛めつけられ――。
羽根を広げて宙を舞い、敵に流星を打ちつける龍。
屈強な獅子に目を突かれ、地へ落とされた――。
「これが
「同じだ……。これは、私が見てきた夢……」
岳積も同じイメージを見せられたのだろう。
こんな恐ろしいものを岳積は何年も見てきたのか。
これが
そこまで話すと、
「私のターンはまだ終わっていない。【ギャランティ・レイピア】が場を離れたことで、私の攻撃力は下がる――」
【
「さらに【
【追撃の
発動条件:自分が戦闘で相手モンスターを破壊したターン中に発動可能。
効果:場のカード1枚を破壊する。
ステルスモードになっていた【
「聡情。私とともに来るんだ。君は
そう言われても、どうすればいいかわからない。聡情は現実を受け止めきれないでいた。
幼い頃、あの惨劇から守ってくれた英雄。恩人。それが目の前にいる。
しかし彼は、粒井岳積を消し去ろうとしている。エージェントとして、聡情が挫折しそうになった時、何度となく支えてくれた男を。
聡情は手札を見る。
【
専煌カード/消滅型
指定
効果:互いのメインフェイズに発動可能。
カード名を1つ指定する。
相手の手札・このターンに相手の場に出たカードを確認し、指定したカードがあれば全て破壊する。
指定したカードがなければ、このターンに相手が受ける全てのダメージは自分も受ける。
このカードを使えば、このターンに召喚された
岳積が攻撃された時もこのカードを発動していれば、彼がダメージを受けることはなかったのだ。しかし、
――俺は
「ターン終了だ」
聡情の返事を待たず、
手札
岳積:3枚
聡情:1枚
TURN9
聡情のターン
「俺のターン……」
そこで聡情は気づいた。
先のターン、【夜半に注ぐ楔】で
時すでに遅し。優柔不断で判断力が鈍っている自分に腹が立った。
ドローフェイズ
手札:1枚
場:2枚
総出場枚数:3枚
1枚ホールド(0枚デッキの下に戻す) 2枚ドロー
手札:3枚
「俺はこれでターンを終了する……」
手札
岳積:3枚
聡情:3枚
TURN10
岳積のターン
「私のターン――」
ドローフェイズ
手札:3枚
場:0枚
総出場枚数:3枚
1枚ホールド(2枚をデッキの下に戻す) 4枚ドロー
手札:5枚
「【
銀のバイクに乗った鬼が現れる。場を一周した後、ドリフトして止まった。
【
固有希少値:銀 攻撃力800 耐久力400
効果:???
(銀のバイクに
「新たなモンスターが増えたことで、私の攻撃力は更に上昇!」
潰されそうになる衝撃がプレイヤーとモンスターを襲った。
【
「さらに【
鬼は地に足をつけ、龍の翼に飲み込まれそうになるのを耐える。
【
「ターン終了だ」
手札
岳積:4枚
聡情:3枚
TURN11
「私のターン――」
ドローフェイズ
手札:2枚
場:1枚(専煌カード【
総出場枚数:3枚
1枚ホールド(1枚をデッキの下に戻す) 3枚ドロー
手札:4枚
「バトルフェイズ――」
【
vs
【
岳積がカードを手に取った。
「【
【
発動条件:TURN11以降に発動可能。
効果:場のモンスター1体の攻撃力は、現在のターン分、倍になる。
ただし、そのモンスターが与える戦闘ダメージは0になり、次のターン終了時に、自分はこの効果を受けた後の攻撃力分のダメージを受ける。
【
「ただし、そのモンスターが与える戦闘ダメージは0になり、次のターン終了時に、私は35200ポイントのダメージを受ける」
「
先ほどとは比較にならないほどの衝撃が場を包んだ。ただでさえ強力な
その振動で、花時計を覆っていたガラスが割れる。花は盤から剥がされ、宙を舞い、着地した。それぞれ好きな方向に散っていった花は三人がいる地を埋め尽くした。
岳積が抵抗を見せる。
「【
【
固有希少値:銀 攻撃力800 耐久力400
効果:このモンスターが召喚された時、または破壊された時に発動可能。
手札かデッキから【
(銀のバイクに
銅のバイクに乗った鬼が、花を蹴散らしながら現れる。
【
固有希少値:銅 攻撃力1200 耐久力600
効果なし
(銅のバイクに
「君の場のモンスターは増減したが、後から適用された【
このような状況でも、
岳積はさらに攻める。
「【スピリット・バズーカ】を発動。召喚された【
【スピリット・バズーカ】
発動条件:このターンに相手がダメージを受けていない場合。
効果:自分の場のモンスター1体を指定する。
そのモンスターの初期攻撃力分のダメージを相手に与える。
この効果によって相手が敗北する場合、そのダメージは0になる。
この効果でダメージを与えた場合、このターンに相手が受ける全てのダメージは0になる。
巨大な筒が岳積の場に出現し、【
その瞬間、地に広がった花が合いの手でも入れるかのように舞い、爆発した。
明らかに、【
「何だ今のは?」
「この花、普通の花じゃないのか?」
「ターン終了だ……」
手札
岳積:2枚
聡情:3枚
TURN12
聡情のターン
聡情にターンが回ってくる。
とにかく今は、ゲームを続けなければ。
このターンの終わりに、岳積は敗北する。決着をつけるならこのターンだ。
ドローフェイズ
手札:3枚
場:2枚
総出場枚数:5枚
手札を見つめる。
このカードを発動するためには、あのカードを手に入れるしかない。そのためには――。
聡情は、先のターンで発動の機会を逃した【夜半に注ぐ楔】をデッキに戻した。
1枚ホールド(2枚デッキの下に戻す) 2枚ドロー
手札:3枚
聡情はドローしたカードを確認する。
俺はどうするべきなのだろうか。
足元のこの花――。
たった1200のダメージでも、
花時計を覆っていたガラスは、この花たちが起こす爆発を防ぐ役割があったのだろう。それが砕けた今、花時計の盤に戻しても意味はない。それならば――。
聡情は足元の花を掴んで【
花は壁に当たり、ひらひらと地に落ちた。
どう足掻いても、花をこの戦いから追い出すことはできないと悟った。
――決めるしかない。
聡情はカードを手に取った。
「俺は【
ツヤツヤした金属を
【高速備忘戦士 クラウドーラク】
固有希少値:金 攻撃力700
効果:以下のターン毎に、異なる効果を適用する。
・自分ターン:自分ターンに1度、発動可能。
『器量』『慈愛』『覇者』の
このモンスターは、指定した
・相手ターン:このモンスターは、耐久力(初期値700)を得る。
(『英断』の『
「さらに、解煌カード【英気養う陽光】。【クラウドーラク】をステルスモードに――」
【クラウドーラク】が消えていく。
上空から陽光が差した。
【英気養う陽光】
解煌カード
指定
効果:このカードが場にある限り、指定
このカードが場にあり、かつ、自分モンスターの攻撃中に発動可能(この効果は、このカードが場にある限り1度のみ発動可能)。
その自分モンスターの攻撃力は、その戦闘中のみ、相手モンスターの攻撃力分上がる。
「バトル。【天球の弓哮】で
獅子が弓を構える。
「【英気養う陽光】の効果を発動し、お前の攻撃力分、モンスターの攻撃力を上げる!」
【天球の弓哮】が光を浴びると、獅子が弓を引く手に力が入る。
【天球の弓哮】攻撃力36600(1400+35200)
vs
【
矢が龍に向かっていく。
「君は私を倒すことを選んだようだな。だが――」
聡情はヒヤリとした。
「
【導かれし
発動条件:自分モンスターの迎撃中。
効果:場のモンスター1体を指定する。そのモンスターに攻撃が向かう(攻撃モンスターに攻撃を返すことも可能)。
「これにより私に対する攻撃は、岳積の場の【
一直線に進んでいた矢が停止する。
終わった。
よりによって、自分の手で相棒にトドメを刺すことになろうとは……。
「【
岳積の声が聞こえる。
「プレイヤーを指定する効果に対して発動し、その対象を決定する権利を自分に移す!」
【陽動の痕跡】
解煌カード(
指定
発動条件:カード・プレイヤーを指定する効果を含む効果が発動した場合、その効果の発動に対して発動可能。
効果:その効果が指定するカード・プレイヤーを自分が指定できる。
【
「【導かれし
鬼が通った道には跡がつき、輝きを放った。それは地面から浮き出ると、鎖のように
【天球の弓哮】攻撃力36600
vs
【
矢は上空に姿を消すと、Uターンして龍の背を貫き、地に刺さる。
散らばっていた花は大爆発を起こし、煙で視界は完全に奪われた。
岳積、聡情の勝利
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