第5話 希少分布図-レアリティ・マップ

 岳積の中には、申し訳ないという気持ちもあった。自分の目的のために、聡情を巻き込んでしまったのだから。

 しかし、あの瞳縁リムという男。一目見た時から、体の中を走る嫌な感じが絶えない。聡情を危険な目に遭わせる可能性もあるが、彼の力を借りざるを得ない状況でもある。

 瞳縁リムが嘘つきでなければ、統四平限が手に入るかもしれない。

「正直助かったよ。お前がいなければ、どうなっていたか」

 岳積は素直な気持ちを聡情にぶつけた。

「何だよ。気持ち悪いな。っていうか、戦う前に、これから何か起こるみたいなこと言うなよ。縁起でもない」

「何か起こると思ったから、前に出てきたのではないのか?」

 三人を頂点とする三角形をつくるように各々が移動する。

 瞳縁リムは花時計を背にするようなかたちで、二人と向かいあった。

 時計回りに瞳縁リム、岳積、聡情という並びになる。


 ――心臓の鼓動が高鳴る。


「五仕旗――」

 岳積が言う。

N^Synergetic2 Periodシナジェティック・ピリオド!」

 三人が声を揃えた。


 岳積&聡情 vs 瞳縁リム


 TURN1

 岳積のターン


「私のターン。【蛇漢鎧ウロボロス・メイ】を召喚――」


蛇漢鎧ウロボロス・メイ

 固有希少値:銀 攻撃力900 耐久力300

 効果:このモンスターが戦闘する場合、勝敗判定が終了するまで、このモンスターは相手の効果を受けない。

(蛇を模した鎧を纏う戦士。目が良いので、『夜行性』の敵の『狙撃』はお手の物)


 蛇を想起させる鎧を纏った格闘戦士が現れる。

 三人以上の変則的な勝負では、1ラウンド目(一巡目)において、全てのモンスターは攻撃できない。


「ターン終了」


 手札

 岳積:4枚

 聡情:5枚

 瞳縁リム:5枚


 TURN2

 瞳縁リムのターン


「私のターン。ターンを終了する」

「え……」

 聡情は思わずそう言ったのだろう。

 瞳縁リムは淡々と続ける。

「私の場にモンスターはなく、手札に召喚できるモンスターはいない」

 瞳縁リムが手札を開示する。

 彼の言うように、先兵モンスターカードはなかった。

「したがって、【架空先兵イマジナリー・モンスター】が召喚される」

 岳積の場のモンスター――【蛇漢鎧ウロボロス・メイ】と同じ形をした半透明のモンスターが出現した。

 

架空先兵イマジナリー・モンスター

 固有希少値:くう 攻撃力0 耐久力0

 効果なし

(プレイヤーの窮地きゅうちに現れる『架空』のモンスター)


伏兵リアクターカード【仕切り直し】を発動。手札を全て入れ替える――」


【仕切り直し】

 伏兵リアクターカード

 発動条件:このカード以外に自分の手札がある場合。

 効果:自分の手札を全てデッキの下に戻した後で、同じ枚数をドローする。


 ドローしたカードを確認する瞳縁リム。表情からは何も読み取れない。

「さあ、君のターンだ」

 瞳縁リムは聡情にターンを促した。


 ――今のターン、彼は手札に恵まれなかった。

 

 そう結論づけてしまうことはできる。

 しかし岳積には、瞳縁リムが何もできなかったがためにターンを終えたのだとは思えなかった。


 手札

 岳積:4枚

 聡情:5枚

 瞳縁リム:4枚 


 TURN3

 聡情のターン


「俺のターンだ――」

 そこで瞳縁リムが動く。

「専煌カード【希少分布図レアリティ・マップ】を発動――」

 三人の中心から、円形状に輪が広がっていく。

「【架空先兵イマジナリー・モンスター】を指定先兵モンスターとしてこのカードは発動される」


希少分布図レアリティ・マップ

 専煌カード

 指定先兵モンスター:【架空先兵イマジナリー・モンスター

 効果:???

 

 自分のターンではろくに動かず、相手のターンになった途端に展開を始める。

 瞳縁リムの戦法は奇妙だ。

「聡情。気をつけろ」

 念のため、岳積は聡情に助言する。

「大丈夫だ。こんなのどう考えても怪しいだろ」

「そうか。それならいいが」

「さて、どうするかな……」

 ぶつぶつ言うと、聡情はカードを手に取った。

「まずはこれだ。【拠冬羆きょとうひ‐ドングリズリ】――」


拠冬羆きょとうひ‐ドングリズリ】

 固有希少値:金 攻撃力1000

 効果:このモンスターは戦闘でモンスターを破壊する度に、攻撃力が1000上がる。

(『器量』の『景章札スートロケート』。群れの長で、ライバルが眠る冬に活動する)


 鋭い爪を持つ、大柄なクマが現れた。雄叫おたけびを上げている。

 その時、場の中心――【希少分布図レアリティ・マップ】が発動した時、輪が広がり始めた辺り――が一瞬、金色に光った。

「聡情、今の見えたか?」

「何かあった?」

「いや、すまない……」

 彼は気づいていないようだ。岳積は彼のターンを阻害したことをびる。

「別に構わないけど。俺のターン、これで終わりだし。次、頼むよ」


 手札

 岳積:4枚

 聡情:4枚

 瞳縁リム:3枚


 TURN4

 岳積のターン


「私のターン――」

 

 ドローフェイズ

 手札:4枚

 場:1枚

 総出場枚数:5枚

 

 0枚ホールド(4枚デッキの下に戻す) 4枚ドロー 

 手札:4枚


 岳積がカードを引き終わると、瞳縁リムがまたもや動いた。

「この瞬間、【撤退てったい進行しんこう回転扉かいてんとびら】を発動――」

 【蛇漢鎧ウロボロス・メイ】の背後に、二メートル程度の扉が現れる。

 蛇の格闘戦士は扉に引き寄せられ、冷蔵庫につく磁石のように、はりつけられた。

「このカードは相手モンスター1体をデッキに戻し、代わりのモンスターを手札から召喚させる効果を持つ。粒井岳積、君にはモンスターを手札から召喚してもらおう。もっとも、召喚できない場合には、私に1500のダメージが与えられる」

 

【撤退と進行の回転扉】

 伏兵リアクターカード

 発動条件:相手の場にモンスターがいる場合。

 効果:相手のモンスター1体をデッキに戻し、相手は、それとは別名のカードを手札から召喚する。

 召喚できない場合は、相手は手札を全て公開し、自分は1500ダメージを受ける。


 岳積は手札の先兵モンスターカードを選ぶ。

カードを投げると、扉に吸い込まれるように張りついた。

 回転扉がくるりと回ると、先ほどまでくくりつけられていたはずの【蛇漢鎧ウロボロス・メイ】は姿を消し、場には二つの角を持つ獣が現れた。


【アボイドバッファ‐マッシュ】

 固有希少値:銅 攻撃力600 耐久力600

 効果:このモンスターの攻撃中に発動可能。

 迎撃モンスターの固有希少値がこのモンスターの固有希少値より高い場合、迎撃モンスターの攻撃力または耐久力を500下げる。

(苦手とすることが多い、不器用なバッファロー。唯一得意とする『突進』は、『回避』に利用することもできる)


 場の中心が銅の輝きを帯びる。

「あ!」

 今度は聡情にも見えたようで、岳積は先の光が、自分の見間違えでないことを確信した。

「固有希少値か……」

 岳積がつぶやく。

「え?」

「あの一瞬の光。召喚したモンスターの固有希少値に対応した色になっているんだ。固有希少値:金の【ドングリズリ】が召喚された時は、金色に光り、固有希少値:銅の【マッシュ】が現れた時は、銅の光を放った」

「そうか……。でも、どうして固有希少値と同じ色に光るんだ? 今のところ、モンスターには何の変化もないぞ」

「わからない――」

 瞳縁リムを見る。相変わらず、彼の表情には何も現れない。

 彼はなぜ、1500ポイントものリスクを負って、自分にモンスターを召喚させようとしたのか。それが疑問だ。

 【蛇漢鎧ウロボロス・メイ】には、戦闘時の無敵効果がある。彼はそれを知っていて、それを邪魔に思ったのだろうか。それならば、このターンの攻撃は控えた方が妥当か?

「とにかく続けよう。長引かせるとよくない。私の勘が、そう告げている」

 岳積は自分にも言い聞かせるように話した。

 うなずく聡情。

 【希少分布図レアリティ・マップ】は専煌カード。指定先兵モンスターである【架空先兵イマジナリー・モンスター】を破壊すれば、あのカードも墓地に送られる。

 意を決して、バトルフェイズに入った。

「【マッシュ】、【架空先兵イマジナリー・モンスター】に攻撃しろ!」

 【マッシュ】が踏み切ると、【架空先兵イマジナリー・モンスター】は【マッシュ】と同じ姿に変わった。

 

 【アボイドバッファ‐マッシュ】攻撃力600

    vs

 【架空先兵イマジナリー・モンスター】攻撃力0


「解煌カード【架空壁イマジナリー・バリケード】――」


 【架空先兵イマジナリー・モンスター】の前に半透明の壁が現れる。【マッシュ】はその壁に衝突すると、それ以上前に進めなくなった。知らず知らずのうちに、蜘蛛の巣に捕えられる蝶のようだった。

 獣は跳ね返され、元いた辺りに飛ばされる。

 

架空壁イマジナリー・バリケード

 解煌カード

 指定区葉ターム:『架空』

 効果:このカードが場にある場合、相手の攻撃中に発動可能(このカードの発動時に、同時に効果を発動することも可能)。

 指定先兵モンスターの攻撃力が0の場合、その攻撃を無効にする。


「【架空壁イマジナリー・バリケード】の効果で、私のモンスターへの攻撃は無効になる」

 確かに今のターン、【蛇漢鎧ウロボロス・メイ】で攻撃していれば、奴はモンスターを守ることができなかった。

 しかし、モンスターを入れ替えさせたのは、攻撃を防ぐことだけが目的だったのだろうか。

 岳積の不安は強くなる。

「ターン終了」


 手札

 岳積:3枚

 聡情:4枚

 瞳縁リム:1枚


 TURN5

 瞳縁リムのターン


「私のターン――」


 ドローフェイズ

 手札:1枚

 場:2枚(専煌カード【希少分布図レアリティ・マップ】は除く)

 総出場枚数:3枚

 

 1枚ホールド(0枚をデッキの下に戻す) 2枚ドロー

 手札:3枚


「解煌カード【架空斬イマジナリー・サーベル】を発動――」


架空斬イマジナリー・サーベル

 解煌カード

 指定区葉ターム:『架空』

 効果:???

 

 暫定の獣の手に半透明の剣が握られる。

「バトルフェイズ。【架空先兵イマジナリー・モンスター】で、【アボイドバッファ‐マッシュ】に攻撃――」

 【架空先兵イマジナリー・モンスター】が走り出す。


 【架空先兵イマジナリー・モンスター】攻撃力0

    vs

 【アボイドバッファ‐マッシュ】攻撃力600


「この瞬間、【架空斬イマジナリー・サーベル】の効果発動。攻撃を無効にする――」

 暫定の獣は、ピタッと止まった。

「自分で攻撃しておいて、止めるってどういうことだよ!」

 聡情が声を上げる。

 マジックの種明かしをするかのように、瞳縁リムは続けた。

「そして君たち二人に、500ポイントのダメージを与える――」

 【架空先兵イマジナリー・モンスター】が回転しながら剣を振ると、そこから弧を描いて光の波が放たれた。岳積と聡情は、それをまともにくらう。

 鈍い痛みが全身を駆け巡った。


架空斬イマジナリー・サーベル

 解煌カード

 指定区葉ターム:『架空』

 効果:このカードが場にある状態で、指定先兵モンスターの攻撃中に発動可能。

 その攻撃を無効にし、自分以外の全てのプレイヤーに500ダメージを与える。


 岳積の累積ダメージ:500(0+500)

 聡情の累積ダメージ:500(0+500)


 わずかなダメージで、これほどの衝撃。ここまでのプレイヤーには、いまだかつて出会ったことがなかった。

 彼の起動スターターは、かなり鍛え上げられている。敗北すれば、命を落としかねない。

「ターン終了」

 このままでは、岳積と聡情は毎ターン攻撃を防がれながら、ダメージを受ける。シンプルだが、二人を一気に相手にするには、確実な方法だ。


 手札

 岳積:3枚

 聡情:4枚

 瞳縁リム:2枚


 TURN6

 聡情のターン


「俺のターン――」


 ドローフェイズ

 手札:4枚

 場:1枚

 総出場枚数:5枚


 1枚ホールド(3枚をデッキの下に戻す) 3枚ドロー

 手札:4枚


「【旅人の惑う山脈】を発動。【ドングリズリ】をステルスモードにして――」


【旅人の惑う山脈】

 解煌カード

 指定区葉ターム:『器量』

 効果:このカードが場にある限り、指定先兵モンスターは効果が無効になり、ステルスモードになる。

 自分ターンに1度、発動可能(カードの発動と同時に効果の発動も可能)。

 場のモンスター1体を選ぶ。

 そのモンスターを従えるプレイヤーは、次の効果から1つを選び適用する。

 ・そのモンスターを破壊して、2ドローする。

 ・自身の累積ダメージを1000回復する。


 クマが姿を消すと、大きな音とともに、三人を取り囲むようにして地面から山が湧いた。

「【旅人の惑う山脈】の効果発動。場のモンスター1体を指定し、そのモンスターを従えるプレイヤーは、そのモンスターを破壊して2枚ドローするか、累積ダメージを1000回復するかを選べる。俺は岳積の場の【マッシュ】を指定する――」

 聡情が岳積を見る。

 聡情の手札にこの状況を打破できるカードはない。したがって、岳積にカードを引かせ、後を託すつもりなのだということは理解できた。

「私は【マッシュ】を破壊して、2枚ドローする」

 【マッシュ】が光の粒になって消滅する。岳積はそれを見届けると、デッキからカードを引いた。

 

 岳積の手札:5枚


 ドローカードを確認する岳積。

 【ギャランティ・レイピア】のカードを手に入れた。このカードと【銀之代替斬ギンノダイタイザン】とのコンボで、【架空壁イマジナリー・バリケード】を封じることができれば、【架空先兵イマジナリー・モンスター】を倒すことができる。

 そうなれば、【架空先兵イマジナリー・モンスター】を主軸とした奴の戦術は大きく崩れるはずだ。

 岳積はそのことを、できる限り悟られないように努める。

 聡情はターンを続けた。

「さらに【天球の弓哮きゅうこう】を出す――」

 弓矢を携えた獅子が召喚される。


【天球の弓哮きゅうこう

 固有希少値:金 攻撃力1400

 効果:このモンスターは、自身より固有希少値が低いモンスターとの戦闘では破壊されない。

(『慈愛』の『景章札スートロケート』。天に向かって放つ矢は、無数の流星となって敵を襲う)


「ターン終了だ」


 手札

 岳積:5枚

 聡情:2枚

 瞳縁リム:2枚


 岳積は今か今かと自分のターンを待っていた。そんな自分が、プレゼントを待ち侘びる子どものように思える。せっかちな聡情を慰めている、いつもの自分を思い出し、一人恥ずかしくなった。

 焦らずとも、自分のターンは回ってくるというのに、どうしたのだろうか。瞳縁リムに出会った時から感じていた焦燥が強くなった。

 この男は一刻も早く、倒してしまいたい。


 TURN7

 岳積のターン


「私のターン――」


 ドローフェイズ

 手札:5枚

 場:0枚

 総出場枚数:5枚

 

 2枚ホールド(3枚をデッキの下に戻す) 3枚ドロー

 手札:5枚


「【ギャランティ・レイピア】を召喚――」

 銀の剣士が場に出る。


【ギャランティ・レイピア】

 固有希少値:銀 攻撃力1300 耐久力800

 効果なし

(『銀の鎧』を纏った『細剣士』。強者の『代替』として活躍できるほど、会得している技の種類が多い)


 場の中心が銀に光って消える。

「【ギャランティ・レイピア】……」

 その時、瞳縁リムの口元が動いた。

 彼が必要なこと以外、余計なことは何も口にしない人物であろうことは、この短時間で察していた。

 この発言は、必要なものなのだろうか。

 それとも彼の心に何らかの動きがあったか……。

 岳積はターンを進める。今はとにかく、この男に勝利せねば。

「専煌カード【銀之代替斬ギンノダイタイザン】――」


銀之代替斬ギンノダイタイザン

 専煌カード

 指定先兵モンスター:【ギャランティ・レイピア】

 効果:自分ターンに1度、発動可能。

 場のカード1枚の効果を無効にする。

 さらに、相手の場に固有希少値:金のモンスターがいれば、そのモンスター1体の効果も無効にすることができる。


 剣が輝きを増す。

「効果発動。相手のカード1枚の効果を無効にする――」

 銀の波が【架空先兵イマジナリー・モンスター】に向かう。波はその直前まで進むと、半透明の壁に衝突しひびを入れた。

「これで【架空壁イマジナリー・バリケード】の効果は無効になり、我々の攻撃を防ぐ手段は失われた」

 瞳縁リムは初めて、苦い顔をする。

「バトル。【ギャランティ・レイピア】で【架空先兵イマジナリー・モンスター】に攻撃――」


 【ギャランティ・レイピア】攻撃力1300

    vs

 【架空先兵イマジナリー・モンスター】攻撃力0


 銀の剣士が細身の剣を構える。剣は、銀の輝きを帯びた黒い波に覆われた。

 暫定の獣は敵に合わせて姿を変え、半透明の剣士になった。

 しかし、銀の剣士は臆せず、剣から波を放つ。

 コピーの剣士はそれを回避できず、破壊された。


 瞳縁リムの累積ダメージ:1300(0+1300)


 【架空先兵イマジナリー・モンスター】の破壊に伴い、【希少分布図レアリティ・マップ】、【架空壁イマジナリー・バリケード】、【架空斬イマジナリー・サーベル】は消滅する。

 ゲームの流れは変わるはずだ。

「よし!」

 岳積が歓喜する。

 聡情はその様子を物珍しそうに見てきた。

「ターン終了」

 

 手札

 岳積:3枚

 聡情:2枚

 瞳縁リム:2枚


「粒井岳積。やはり、君はここで倒しておいた方が良さそうだ」

 瞳縁リムが言った。落ち着いてはいるものの、どこかたかぶりを感じる。

「君を放っておけば、私の強力な敵になり得るからな――」

 

 TURN8

 瞳縁リムのターン


「私のターン――」


 ドローフェイズ

 手札:2枚

 場:0枚

 総出場枚数:2枚


 2枚ホールド(0枚デッキの下に戻す) 3枚ドロー 

 手札:5枚


「見せてやろう。私の真の姿を……」

 場の中心に三つの光が現れた。岳積と聡情のモンスターが召喚される度に出現した、銅、銀、金の三つの光。

「なぜ今さらあの光が? 【希少分布図レアリティ・マップ】は既に破壊されているはず……」

「【希少分布図レアリティ・マップ】は、場に現れたモンスターの固有希少値を記録する効果を持つ――」


希少分布図レアリティ・マップ

 専煌カード

 指定先兵モンスター:【架空先兵イマジナリー・モンスター

 効果:このカードが場にある状態で、モンスターが召喚された場合、そのモンスターの固有希少値を参照し、その種類を記録する。


 瞳縁リムがカードを投げる。

 その瞬間、彼はどこかへ姿を消した。

「私の召喚条件は、三つの固有希少値全ての召喚を待つこと――」

「私?」

「【希少分布図レアリティ・マップ】は破壊されたが、このゲーム中、あのカードが、召喚されたモンスターたちを見届けたことに変わりはない――」

 円形の光が柱となって上空に伸びる。かなり眩しく、目を開けていることができなかった。

「これが私自身―― 【宙瞳縁龍飲ちゅうどうえんりゅういんRIMリムOmniscientオムニシエントMatterマター】!」


宙瞳縁龍飲ちゅうどうえんりゅういんRIMリムOmniscientオムニシエントMatterマター

 固有希少値:王 攻撃力0

 召喚条件:このゲーム中に固有希少値:銅、銀、金が全て記録されている場合。

 効果:???

(今はまだ目覚……龍が『無意識』に創……した『龍の姿』。白く輝……で、全てを『吸収』する)


 突風が起こる。視界が奪われていても、おぞましい何かが待ち構えていることはわかった。

 恐る恐る目を開ける。

 眼前には全身が白い龍が両足を地につけ立っていた。先ほどまで岳積と聡情の相手をしていた男よりも、はるかに大きい。綺麗に澄んだ形相から誠実さを感じるが、息が詰まりそうになる。

「どういうことだ? お前はモンスターにもなれるのか?」

 岳積は混乱した。

「逆だ。私は人間の姿になることができるモンスター」

 ありえない。

 確かにエージェントとしての仕事をこなす中で、人間の姿を真似る能力を持つモンスターを見たことはある。しかし、それでは彼が五仕旗をしていることの説明がつかない。モンスターに起動スターターはない。五仕旗は限られた人間――製札者メーカーにしかできないはず。

 こいつは一体……。

 岳積が目の前の情報処理に手間取っていると、瞳縁リムは聡情に向かって話し始めた。

「久々だな……」

 聡情は、我ここにあらずといった表情をしている。目の前の威厳に満ちた龍に恐怖しているのではなく、心のどこかをもがれたような目をしていた。

「聡情、まさか……」

「こいつだ。あの時この町で、バーストから俺を守ったのは。俺が捜していた龍は、こいつだ……」

 

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