第4話 暴虐の花 Part1(ゲーム)
真田はテンプじっと見つめる。
――役に立たない奴を見ると腹が立つ。
余計なことをしやがって。エージェントを倒して俺に差し出せば、昇進できるとでも思ったか? 成功するどころか、よりによって負けた敵にかくまわれるとは、情けない。
まあいい。テンプが下手に目立ったことは許せないが、この町に潜むエージェントを
――心臓の鼓動が高鳴る。
「五仕旗――」
真田は吐き捨てるように言った。
「
聡情 vs 真田
TURN1
真田のターン
「俺の先攻――」
まずはこいつで遊んでやるか。
真田はカードを乱暴に投げた。
「【
背の高いキツネが現れた。吹き矢を
【
固有希少値:金 攻撃力1100
効果:???
(アジトに侵入した『工作員』を迎え撃つ。他人の行動を『阻害』することに生きがいを感じている)
「終わりだ。さっさと進めろよ」
安い挑発に聡情が乗る。
「なんだよ、その態度!」
手札
聡情:5枚
真田:4枚
TURN2
聡情のターン
「俺のターン。【暴風を
両肩から機械のような翼を生やした戦士が召喚される。ブンブンと飛び回ると、聡情の場に着地した。
【暴風を滑る結界 三百四十】
固有希少値:金 攻撃力1300
効果:このモンスターが攻撃していない自分ターンに1度、発動可能。
プレイヤーを1人指定する。
指定したプレイヤーの敗北値を3分の4にする(この効果は1人のプレイヤーにつき1度しか適用できない)。
この効果の発動後、そのターン、このモンスターは攻撃できない。
(『覇者』の『
これが奴の主力――
真田は先のテンプの対戦から、聡情の戦術を把握していた。
「バトル――」
【暴風を滑る結界 三百四十】攻撃力1300
vs
【
双翼の戦士が飛翔する。
「【
【
発動条件:自分の手札にモンスターカードがある場合。
効果:手札のモンスター1体を召喚する。
このターン、相手はそのモンスター以外の自分モンスターを攻撃できない。
この効果が相手モンスターの攻撃中に適用された場合、次の効果を適用してもよい。
相手はその攻撃を中断できず、そのモンスターの攻撃はこの効果で召喚されたモンスターへ向かう。
真田が手札を投げる。そこから生まれた骸骨の剣士は【
【
固有希少値:銀 攻撃力1300 耐久力300
効果:このモンスターが迎撃により勝利した場合、戦闘ダメージが発生する。
(アジトに侵入した『工作員』を迎え撃つ。悪魔のような笑みを浮かべながら、敵を『阻害』する)
「【伏兵の進行】の効果で強制的に戦闘してもらうぞ――」
【暴風を滑る結界 三百四十】攻撃力1300
vs
【
「攻撃力は同じ――」
「ところが、そうはいかねえんだよな。
【衛兵抜刀】
発動条件:モンスターの戦闘時。
効果:その戦闘の勝敗判定は、攻撃力ではなく耐久力を参照して行う(耐久力を持たないモンスターの場合は、耐久力0として扱う。また、戦闘ダメージは攻撃力を参照する)。
「この戦闘による勝敗判定は、耐久力を比較して行われる。お前のモンスターは固有希少値:金。耐久力はない! したがって――」
【暴風を滑る結界 三百四十】耐久力0
vs
【
骸骨の剣士が笑い声を上げると、口元が三日月のような形の刃になり、敵を貫いた。
「そして【
聡情の累積ダメージ:1300(0+1300)
衝撃を受けて膝をついていた聡情が立ち上がる。
「やるな。だが――」
カードを投げる。
「【
【第二攻撃波】
発動条件:自分の累積ダメージの数値が相手の累積ダメージの数値以上で、自分モンスターの攻撃に対する相手の迎撃で、自分モンスターが破壊された場合。
効果:その相手モンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える。
聡情の場で発動している【第二攻撃波】のカードから、光線が放たれる。それは真っ直ぐに飛ぶと、真田に激突した。
「このガキ!」
真田の累積ダメージ:1300(0+1300)
「バトルフェイズ終了。俺の場にモンスターはいない。ターンを終える前にモンスターを召喚させてもらうぞ――」
バトルフェイズ終了時点で、場にモンスターを従えていないターンプレイヤーは、ターン終了前に手札からモンスターを召喚しなければならない。
モンスターを召喚できない場合は、手札を全て相手に公開し、【
「【
カメレオンが地を
【
固有希少値:金 攻撃力800
効果:自分ターンに1度、発動可能。
自分の場のモンスター1体を指定する。
自分の場の任意のモンスター(複数体選択可能)は、指定したモンスターと同じステータスを得る。
この効果を適用したターンに、相手に戦闘ダメージを与えた場合、次の自分のターンで自分は攻撃できない。
(『器量』の『
苦し紛れのモンスター召喚――と見せかけ、お前の狙いは……。
手札
聡情:2枚
真田:1枚
TURN3
真田のターン
ドローフェイズ
手札:1枚
場:2枚
総出場枚数:3枚
0枚ホールド(1枚をデッキの下に戻す) 3枚ドロー
手札:3枚
「バトル! 【
【
vs
【
「解煌カード【旅人の
【旅人の惑う山脈】
解煌カード
指定
効果:このカードが場にある限り、指定
自分ターンに1度、発動可能(カードの発動と同時に効果の発動も可能)。
場のモンスター1体を選ぶ。
そのモンスターを従えるプレイヤーは、次の効果から1つを選び適用する。
・そのモンスターを破壊して、2ドローする。
・自身の累積ダメージを1000回復する。
「やれやれだな」
真田が言い放つ。
「なに?」
その瞬間、【
「これは!」
真田の場のキツネが吹き矢を布で拭き、手入れをしている。一仕事終え、満足そうだ。
「これが【
【
固有希少値:金 攻撃力1100
効果:このモンスターが場にある限り、相手の場のモンスターは
(アジトに侵入した『工作員』を迎え撃つ。他人の行動を『阻害』することに生きがいを感じている)
「お前がテンプとの戦いで、解煌カードを使って攻撃を回避していたことは把握済みだ。同じ手が何度も通用すると思うなよ」
聡情は拳を握りしめている。
「さて、お楽しみのバトル続行だ!」
【
vs
【
骸骨の剣士がカメレオンを斬る。
聡情の累積ダメージ:2600(1300+1300)
「終わりだ。せいぜい
手札
聡情:2枚
真田:3枚
TURN4
聡情のターン
「俺のターン――」
ドローフェイズ
手札:2枚
場:0枚
総出場枚数:2枚
0枚ホールド(2枚をデッキの下に戻す) 5枚ドロー
手札:5枚
聡情は息苦しそうにしていたが、呼吸を整えるとターンを進めた。
「来い。【
真紅の牛が場に出る。片足を何度も地に打ちつけ、今にも飛び込んできそうだった。
【
【
固有希少値:金 攻撃力800
効果:???
(『慈愛』の『
「そしてもう一体――【
次に現れたのは、薄い青色をしたウサギ。先の牛と比較すると、その小さな体が際立つ。
例によって、キツネがペイント弾をくらわせる。ウサギはしょんぼりと肩を落とした。
【雪原の一兎】
固有希少値:金 攻撃力100
効果:自分ターンに1度、発動可能。
相手の全てのモンスターは、ターン終了時まで、相手のモンスターの数1体につき300、攻撃力が下がる。
(『慈愛』の『
「【雪原の一兎】効果発動。相手モンスター1体につき300ポイント、攻撃力を下げる」
ウサギが口から冷気を放つ。それを吸い込んだ真田のモンスターは、身震いした。
【
【
「これで俺のモンスターの攻撃力が上回った。攻撃!」
【スカーレット】は、待ってましたと言わんばかりに向かってきた。
【
vs
【
「そんな単純な攻撃じゃ、話にならねえんだよ! 【
【
発動条件:自分モンスターの迎撃中。
効果:その戦闘中のみ、その自分モンスターの攻撃力は800上がる。
【
vs
【
キツネは地を蹴ると、勢いをつけて飛び出す。そのまま正面衝突すると、真紅の牛は後方へ飛ばされた。地に叩きつけられてもなお、鋭い目つきで睨んでいる。
真田はその様が、馬鹿馬鹿しく思えた。どれほどやる気があろうと、どれほど才能があろうと、勝てなければ意味がない。
「【スカーレット】は破壊されたが、これはお前の迎撃による破壊。俺にダメージはない」
だから何だ?
ペットがペットなら、飼い主も飼い主だ。
お前は勝ち誇っているが、俺は痛くも
勝ってからものを言え。
真田が鼻で笑っていると、【
情けない。
「しっかりしろよ!」
みっともない手駒は嫌いだ。
「テンプを倒したから大した奴だとは思ったが、どうやら過大評価だったな。お前みたいな奴に負ける奴を雇っていた自分に腹が立つよ」
「貴様!」
この男、威勢だけは良い。
「悔しかったら反撃の一つや二つしてみろ、馬鹿! まあ、それも無理か。エージェントってのもくだらない連中ばっかりなんだな」
「バーストなんかに、そんなこと言われたく……」
「ああ? 聞こえねえぞ!」
真田は意地悪く
聡情は返す言葉がないのか、何も言わなくなった。
「これじゃあこの町は、また壊滅するだろうな。俺たちバーストに襲撃された二十年前のように」
「何だと? あの事件はお前が――」
「そんなわけねえだろ。その時まだ俺はガキだった。この町を襲ったのは俺の親父だ」
「お前の父親が……」
「ああ。だが奴はその時の戦いで消えた。いつも俺を馬鹿にして、うるせえ奴だったから、いい気味だったけどよ」
「お前たちは、同じことを繰り返そうとしているのか?」
「どうだろうな? 少なくとも、親父のような失態を再現するつもりはねえよ」
「許せない……」
聡情は怒りを抑えているようだ。
「ターン終了……」
真田のモンスターの攻撃力は元に戻った。
【
【
手札
聡情:3枚
真田:2枚
TURN5
真田のターン
「俺のターン――」
真田は手札を見る。
丁度面白いカードもあることだし、お前の手は全て封じてやるよ。
ドローフェイズ
手札:2枚
場:2枚
総出場枚数:4枚
2枚ホールド(0枚デッキの下に戻す) 1枚ドロー
手札:3枚
「このメインフェイズ。【
真田の累積ダメージ:2100(1300+800)
「このターン、固有希少値が金以上のモンスターが攻撃する場合、お前は
【称号の威圧】
発動条件:自分ターンのメインフェイズ。
効果:800ダメージを受ける。
このターン、自分の固有希少値:金以上のモンスターが攻撃する場合、相手は勝敗判定開始までの間、
「そんな! それじゃあ、聡情さんはこのターン、一切の防御ができないってことじゃ……」
テンプがたじろぐ。
こいつを倒したら、次はお前だ。
「どうせそのウサギも、手札のカードでこのターンの戦闘から逃がそうとしてたんだろう? バレバレなんだよ!」
聡情は黙っている。
「バトル――」
助かる道はないと悟ったのか、ウサギはブルブルと震え始めた。
「【
聡情の顔を見る。
為す術なく敗北する奴の顔は、いつ見ても気分がいい。圧倒的戦力差に絶望するような表情。涙を流すのではない。ただボーッと遠くを見つめて――そう、丁度、今のお前の顔のように。
封を切り、箱を開け、中から取り出した時のままのような無表情。そして、口角が上がり……。
――こいつ、笑いやがった……。
パンッという音がする。
真田が視線を移すと、キツネは真横にいる骸骨の剣士を撃っていた。
「お前、何してんだ……」
「お前が『攻撃しろ』って言ったからじゃん?」
つい先ほどまで戦意を喪失していたはずの聡情。その声が飛んでくる。
「は?」
「【
【
固有希少値:金 攻撃力800
効果:このモンスターが戦闘で破壊された次の相手のバトルフェイズにおいて、モンスターが攻撃する場合、その戦闘における迎撃モンスターを別の相手モンスターに変更してもよい。
(『慈愛』の『
「あいつ、破壊されて効果を発揮するモンスターだったのか……。それじゃあ――」
真田は前のターン、自分のモンスターが咳き込んでいたことを思い出す。
「あの時、むせていたのは――」
「【スカーレット】の呪いだよ。それをお前は何を勘違いしたのか叱りつけて。かわいそうなモンスターたちだな」
「黙れ!」
「お前は他人の動きを封じることしか考えない。俺がどんなに攻撃しても必ず防いでくる。だから自滅の道を歩ませる必要があった。俺のターンを阻害すれば、焦った俺が勝手に転ぶと考えてたんだろ? だから俺はそれに乗っかることにしたんだよ」
「それじゃあお前、あの牛を最初から破壊させるつもりで――」
「ああ。もちろん攻撃が通れば、それが一番だったけどな。でも、お前はそうさせてはくれなかった。だから二の矢を放ったのさ。前のターンで【スカーレット】を倒し、【称号の威圧】で俺の反撃を封じたお前は、調子に乗って攻撃してきてくれたってわけだ。この俺の思惑どおりにな」
骸骨の剣士は仲間から撃たれて気を悪くしたのか、キツネと対峙した。ニヤニヤと笑っていた先ほどまでの様子とは打って変わり、憎しみが浮き出ている。
【
vs
【
「そういえば【
剣士が食いしばった歯から、鋭い刃が飛び出す。キツネは吹き矢を放つ間もなく、貫かれてしまった。
真田の累積ダメージ:3400(2100+1300)
「たまには他人の足元だけじゃなく、自分の足元も見てみるんだな」
聡情の勝利
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