第2話 私の夢 Part1
聡情は耳を疑う。
「『額に入れて飾る』ってどういうことだよ?」
「正直、統四平限を手に入れた後、どうするかは決めていない。ただ、私はその力を使おうとは思っていない」
蟻地獄のように、さらに深い場所へ沈められた感じがした。
粒井岳積は、真面目そのもの。単なるコレクションのために、自分やハルナを巻き込んでいるとは思えなかった。
「何言ってんだお前。自分で作った飯、食いもせず冷凍庫にぶち込む奴がいるか?」
「口に入れずとも、どのような味わいかなんてわかっているさ。別に私は腹が減っているのではない」
統四平限を手中に収めたところで、岳積が鼻にかけたり、その力を悪事に使ったりするつもりがないであろうことは予想がつく。
「じゃあお前、何で料理すんだよ」
「私は料理が好きなんでね」
「探し出す行為そのものに惹かれるってのか?」
「ああ」
そういうことにしておいてやる――と、その口調の裏面に刻まれているのを聡情は見逃さない。
「そうか、まあいいや……」
統四平限の話をすると、いつも誤魔化される。問い詰めたところで岳積が白状しないと悟った。今は例のモンスターを探し出すことに専念するしかない。
聡情はベルトごとデッキケースを外して側に置いた。草地に寝そべり目を閉じる。
「不用心じゃないか? 誰かに盗まれたりしたら――」
こちらの質問には回答せず、他人のことには口を出す岳積に少し
「ちょっとだけなら大丈夫だろ。疲れるんだよな、ずっと腰に巻いてると」
「しかし……いや、わかったよ」
先ほどのことが後ろめたかったのか、岳積は何も言ってこなかった。
風の音以外は何も聞こえない、穏やかな時間が流れる。
その時、ガサガサと言う音が混ざった。
聡情は飛び起きる。
「大丈夫だろ。草が風で揺れただけかも――」
岳積がなだめていると、草の陰から何かが飛び出した。
小さな獣のモンスターがそこにはいた。体が小さく、モコモコとした毛に覆われ、クマとも犬とも区別がつかない。茶色いその体は揚げ物のようにも見える。
「何だお前!」
聡情が大声を出す。
その獣は、聡情のデッキケースを奪い去ると、走って逃げていく。一瞬の間に起きた事件に二人は混乱し、出遅れた。
「おい、待て!」
モンスターはすぐ近くの崖を登っていく。二人も後を追った。
岳積が自身のモンスターを召喚しようとする。聡情は息を切らしながら彼を止めた。
「岳積、ちょっと待てって。あいつ、多分まだ子どもだろ。危ないことしても、かえって怖がらせるだけだ」
「そんなことを言っている場合か。お前のデッキがどうなってもいいのか?」
そんなやりとりをしているうちに、モンスターは崖のギリギリのところまで追い詰められた。
「俺のデッキ返せよ!」
「来るな! ちょっとでも、変なことしたら川に落とすからな!」
水の流れる音が聞こえる。ここから落とされたらカード達は散り散りになってしまうだろう。
「お前、何でこんなことするんだよ!」
「『お前』じゃない。僕はトゥリーっていうんだ」
「いや、急に自己紹介するな。俺が聞いてるのは――」
「トゥリー。それは聡情の――この男の大切にしているものなんだ。返してくれ」
聡情が熱くなった時、それを鎮めるために動くのも岳積の役割の一つだった。
「返してほしければ、僕と五仕旗で戦って。勝ったら返してあげる」
「モンスターのお前が、どうやって五仕旗するっていうんだよ?」
モンスターは
「第一、俺、お前にデッキ奪われてるしな」
「私が戦おう」
岳積が前に出る。
「それでいいか?」
トゥリーは嬉しそうだった。
「岳積が戦うのはいいけど、あいつはどうやって――」
岳積が聡情の背中を叩く。今朝の仕返しだろうか。
「何で俺が!」
「他に方法はないだろう。それとも自分の仲間がこの場から落とされていくのを黙って見ている方がいいのか?」
「どっちが敵だかわかんねえな……」
聡情はトゥリーの方へ歩いていくと、岳積と向かい合った。
「ありがとう……」
トゥリーは恥ずかしそうにしている。こうして見ると愛らしい。
「お前、デッキ持ってるのか?」
「うん。ちゃんと用意してあるよ」
モンスターは毛皮の中からカードの束を取り出した。聡情を警戒しながら、彼のデッキケースからデッキを取り出し、それを自分のものと入れ替える。小さな手からカードが滑り落ちて、川へ転落しないかドキドキした。
聡情のデッキは地面に置かれた。
「これ、腰につけて――」
トゥリーはベルトを聡情に差し出す。
「ああ……」
聡情は言われたとおりにした。下手に抗って、このモンスターの機嫌を損ねたらどうなるか。
「僕が指示したカードを君が投げて。あの人に手札を言ってもダメだからね」
何でこんなことに……。
――心臓の鼓動が高鳴る。
「五仕旗――」
岳積が言う。
「
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