第39話 39 三大欲求のうち一つは制御可能である

「君も煽るのは悪いからね。

 披露宴前だし、それなりに問題事はおこさないように。

 ああ、一人披露宴に呼ばれる相手が減ったかもしれないから警察にはいかないと。」


 理性が本能に打ち勝った。

 今の現状を受け止めつつも壊れた部屋を見つめる。

 ホコリが酷い。

 精密機械も多くある中でこのホコリは復旧させるのが面倒だな。


「あとは姉ズ!

 どうせ見てるんでしょ。

 この部屋片づけるの手伝って。」


「「「「はーい!」」」」


 すっとぞろぞろ、仕事前の陸奥家シスターズが配置されていく。」


「まず大きながれきの撤去、そのほかホコリを塵取りで取って片づけて。」


「「「「して、本日一郎が寝る部屋は?」」」」


「リビングだよ。」


「「「「そこは、私の部屋じゃないの!」」」」


「身の危険を感じるし、葵さんを仕掛けたのはオトンだから口から血を流しているんでしょう。」


 真面目にすごい力で食いしばっていた後なのか口元から血が流れている姉たちが多く見える。

 他にも目から涙をどれだけ流していたのかと思いがたる頬に赤色の筋が見える。

 

「ば、バレていたの?」


「もちろん、むしろバレていないと思ったの?」


「い、今は小説家をしているので、そういうシチュエーションしかわからなくて、人の考え方とかそういうのが苦手で。」


 少し眉間に皺が寄ってしまった。

 新人教育でもそういう子はいた。

 そして、そういった社会的常識、マナーや暗黙の了解とも言える日本人としての必要技能を会得できなかった世代。

 彼らを教えるのは非常に難しい。

 なぜなら彼の世界に必要のないことだからだ。

 必要のないと思っていることを教えて覚えるか?

 新人教育をするのは何も教師ではない。

 小学校教諭ならば教えるための必要なことを知っているだろう。

 令和、平成後期は知らないが、昭和や平成前期の教師たちは良くも悪くも集団戦を知っている人間だ。


 軍隊方式と言った方がいい。

 規律を乱す奴は悪い奴。

 国という集団を形成するためには正しい手段の一つである。

 軍隊の規律を学んだ者たちは、万能になれる。


 そして、規律を学ばなかった者たちは万能に離れない。

 突出する必要がある。

 突出しきれなかった人間はニートになる。


 彼女は人との会話は苦手だけれども仕事はできる人間だ。

 苦手だけれども仕事はできる。

 それに彼女は今小説家という道で成功を収めている。


 芽衣さんもそのうちの一つになるが、彼女と違って他にも突出している面がある。

 苦手ながらもやれることはやっていた。

 

 宿題を納期ぎりぎりに提出している奴と同じ奴ら。

 納期ぎりぎりには間に合い、人との会話も敬語が拙いながらもできている。

 ああいうやつらは上司に媚びが売れるようになれば昇給する。


 それで、葵さんのような人だと上司に印象付けることができなくて、平社員になりつづけるか。

 他先輩社員や上司に印象付けられることなく、仕事をしていない奴認定されて会社を辞めていくか。


 そういう彼らを何度も見てきた。

 彼らに対して何も差し伸べてやれない平社員だったよ、俺は。


「えっと、どうしたの俯いて。」


「いや、なんでもないよ。」


「何でもあるって!

 とっても暗そうな顔をしていたよ。

 何か私のことで嫌なことでもあった!」


 公私混同はしない。

 仕事と恋愛は別物という考え方はもちろんある。

 葵さんは新人教育する新入社員でもないし、彼女のことは未だ大好きだ。

 大好きなのに引っ掛かってしまう。

 ダメなのはわかっている。

 

 幼馴染と比べてしまうんだ。

 

 育てがいのある新人とはどうしても好ましく見えてしまうのだ。

 自分の子どもを育てているような、錯覚に陥る。

 それでいて子どもに感じる、愛おしさをある程度拒む感覚、血縁関係にある人物に対して性的興奮を覚えないようにする種の本能に対する防衛がない。

 つまり、恋、愛を感じている感覚になるのだ。


 社会人はそれを元来勘違いしてはいけない。

 仕事だと理性を得なければならない。


 また、吸収しないスポンジを廃棄することなく、どう教えればいいかを辛く苦い思いをしながら考えなければならない。

 もちろん、教えなくてもいい。

 そうなったら自分の仕事が増えるだけ。

 彼らに教えれば、その分自分が楽になる。

 葵さんのようにパートナーとして臨む場合ならそこまで高望みしなくてもいいかもしれない。

 だが、彼女の場合は親とあまり話せていないことがうかがえた。

 よくある末っ子あるある。

 姉を十二分に育てたから、末っ子は八分で育てる。

 あまり話せていないだろう。

 それでも小説家になりえたのは親のおかげとも言える。

 話せていない彼らと一緒に話すときはおそらく姉である真黄さんの助けを聞いたはずだ。


 もし、結婚したらその役目を担うのは俺なのだ。

 どう思う?

 誰よりも親しい間柄であるはずの家族を赤の他人が擁護しながら話すのだ。

 母親が父親の実家に行きたがらない理由もおおむね一緒。

 子どもの話を教えるのは基本的には、子育てをしているのであれば主婦・主夫になる。

 実家である夫なら、気兼ねなく話すことができるが、妻である母親は気疲れが知れないだろう。

 

 教えるなら今しかない。

 幼馴染に教えることとはまた違った方向性で悩むのだ。

 どうすれば、伝わるか。

 初めてのことを吸収してから吐き出せるようにするにはどうすればいいのか。


「嫌なことはないよ。

 今はね。」


「含みがありますね。

 まさか、人との交流ができない女だと思っているんですか。」


「うん。」


 だって昔の俺そのものだもん。

 仕事とプライベートは違うとは言え、陰キャが仕事場でも社交的でいられると思ってるの?

 この世界に入ってきてからは女の人は職場の人と思うことで何とかやってこれたけど、さらに深い関係になると心底悩む。

 好きな人にジト目で見られたら一月は引きずる自身がある。

 それくらいには関係を悪化させたくない自信があった。


「そ、そんなSNSでリアルであったことのある友達なんて5人はいますよ。」


 陰キャにしては頑張ったね。

 多分オフ会で一回切り程度かな。

 そのあと誘われなかったパターン。


「オフ会行ってそのあと誘われた?」


「も、もちろんです!

 2回は誘われました。

 そのあとみんな忙しくなって行けませんでしたけど。」


 悲しいよね。

 見てるとご馳走を取られたチワワ(ポメラニアンでも可)のような印象を受ける。

 フサフサでモフモフで可愛くて、臆病(陰キャ)で、でも挑戦はしてみたい気持ちだけはある。

 いざ行動に起こそうとすると予想と現実が違って、また引きこもりたくなる。


 見ててかわいいと思う存在だけど、こればかりはしょうがない。


「うん、まあ社交的な方ではあるかな。

 大学に行っていない社会人ではってところだけど。」


「グフォ!」


「まあ、僕も人のことが言える立場ではないし、基本的には通信大学だから友達がいない身としては一緒だけれども。

 接客するアルバイトなんかの経験が多少あれば察知はできると思うよ。」


「グフォフォフォフォ!」


 すでに動けない状況なのに、さらにズバズバと心のナイフを突き立てているみたいでちょっと気分が悪いです。

 彼女のことを思って言っているので、理解はしようとしているけど拒絶反応を示している。

 まだ、理解する意思がある分、教えられるかもしれない。

 悩み事がまた一つ増えるけれども、困難に目指す気概があるのなら手を差し伸べよう。


 上から目線だけれども、人生二回目、みんな人生新人。

 披露宴が終わってから考えようか。


「は、はなせー俺は無罪だーー!!」


 まずは芽衣さんが無罪になるかどうかの裁判をしてからになるけど。


..........................................................................................................................................

............................................................................................................................,..............

ウォッホン、えー読者の皆様、生物三大欲求編に突入することを期待していた事かと存じますが、私、スライム道はカクヨム様のとある部署のお方に昔警告食らっておりまして、おいそれと書けないのです。

部署ごとにニュアンスでOKだすか微妙なのがこのサイトですのであくまでも兄妹喧嘩の延長上でしか書けないという次第でございます。

完結させたら某夜会小説サイトで投稿しますのでご了承ください。


次回 40 「かつ丼食うか」「はい食べます!」「じゃあ金払えよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る