第34話 34 閑話 新婦

「真黄とこうして話すのは久しぶりね。」


「うん、久しぶり。」


 結婚前に話す最後の親子としての会話は改まって行うと何か気まずい。

 親子の会話。

 だから、いつも通りの会話になる。

 いや、昔話かな。


「理想の男の子になると言った子が今では理想のお嫁さんになるんですからねえ。」


「うん。

 だってあの時、振られたんだもん。」


 振られた過去を持つから自身が理想の男子になるためにいろいろな努力をしてきた。

 化粧もしたし、運動もした。

 男性っぽいことをしては自分のこと理想男子と思うようにしてきた。

 そのたびに、自分を否定してきた。

 本当は、おとぎ話のような理想の男を手に入れる女王様のようなりたかった。


 理想の男性になるためにジムに通っていると、心を打ち砕かれた。


 ストイックにバーベルを上げる彼には程よい汗と筋肉がほとばしっていた。

 躍動する筋肉は、今まで見てきた男子にはない理想を追い求める男性が居た。


「今ではすっかり恋する乙女。

 恋はいつだってハリケーンとは言うけれども、あんたは地獄谷にでも一気に落ちた気分だねえ。」


「恋は落ちるものだって言うでしょう。」


「ほんと、恋する人のために人は変われるんだねえ。

 私とは大違いだ。

 わが娘ながら大きな恋をしたものだ。

 だけど、かわいい娘であることには変わりないんだよ。

 もし、万が一にでも結婚生活で逃げたいと思うようなことがあれば私を頼りなさい。

 思いっきり叱ってあげるから。」


「そこは慰めてくれるものじゃないの?」


「何言ってんだい。

 親は子どもを叱ってのが相場なのさ。

 今のご時世DVだ、ほめる教育だの言われているかもしれないけど、

 何が悪いかを教えるのはガツンとした一発をかますことさ。

 一発痛い目みりゃ、誰だって悪いってことは受け入れられるだろう。」


 いつだって、逃げたいと思った時に前を向かせてくれるのはこの親であった。

 実に、数十回何度も何度も大きな紅葉を作っては、私に気付かかせてくれた。

 代わりに私には紅葉跡が付いた。


「家出したときもそうだったよねえ。

 思いっきりひっぱたかれるのが嫌で家出したのに。

 また思いっきりひっぱたかれて、そのあとお母さん泣いてたもんね。

 うん、今思うと、懐かしい。」


「ふん、何言ってだか。

 人様に迷惑かけたんだ。

 あの程度で済んでよかったもんさ。

 社会に出て一丁前にできた娘になったんだ。

 マナーは最低限叩き込んだつもりさ。

 いつでも私が死んで葬式を指揮できる程度にはマナーも叩き込んでるんだから自身を持ちな。」


「はい。」


「うん。」


「ねえねえ、話を変えるけど、葵、今頃何してるかな。」


「あの子は奥手だけど大胆にもなるからねえ。

 今頃男子を襲ってたりして。」


「そしたらまた紅葉跡を作ってあげる?」


「もちろんさ。

 襲ってなくても作るさ。

 なんで襲わなかったんだって。」


 それは葵が理不尽過ぎるだろ。

 と思いながら、恋馳せる妹のことが気になった。


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まことに勝手ながら8/15の更新は休みますー少し所要がありますので楽しみにしてくださっている方には申し訳ございません。


次回

35 動画タイトル  今から好きな人の家に突撃しに行きます。


スライム道

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