第20話 20 結婚と仕事はよく似ている

「余興に関しては、申し訳ございませんが私の未熟とするところをフォローしていただきます。

 ですが、それ以外の内容に関しては彼とまた話し合い、二人の愛を証明する結婚式にしようと思います。」


 これから降りかかるプレッシャーに対して、押しつぶされるかと思ったが、中々に胆力のある人らしく覚悟を持った目になり答えた。

 のらりくらりとただ漠然と生きているような若者とは違う。

 目標に向かい計画を立て、ゴールテープを確実に切りに行く。

 確実性を求める必要があると言われればリスクを問わずできることを考え出す。

 リスクを考えないのはこの年齢の人ならいいことだ。


 俺に指摘されるまでリスク管理を行っていなかったのはまだ若いということ。

 前世がある分歳を食っている俺だから言えることかもしれないが、若いうちの失敗は買ってでもしろという言葉があるように、若いうちにリスクを考えていると失敗が起こったときの対処ができなくなってしまう。

 失敗に対する対処行動を起こすための練習として若いうちはやり直しがきくから買ってでもしろ。

 これはこれで正しい。


 しかし、葵さんも俺も同じような考えになっている通り、無駄なリスクを避ける若者が増えているのも事実。

 そんな中リスクを考えずに失敗を恐れるよりも、失敗を考えずに成功のビジョンのみ信じて疑わない若者はお小言を言われるかもしれないがそれでもばねにして頑張ってほしいと思う。


 俺の失敗でもあるが、彼女は今リスクに直面しているが計画を進めるにあたり軌道修正を行っている。

 大きなプロジェクトを会社で行う時と同じように、長い期間必要な計画は現場での微細な修正が必要なのは当然のことと言えよう。

 リスクに直面すれば、対処を行った経験のある人だ。

 経験自体はそこまで強くはないが、リスクを気づく能力が俺のような老害どもよりも遅い。

 その分、被害を最小限に抑えることはできないが、軌道修正できるところまでは気づける素質自体はあると見た。


 上からモノを言うようであれだけど、若者の成長を見るのは楽しいね。


「はい、では余興に当たっての台本はお持ちでしょうか。」


「はい、持っています。

 それがこちらになります。」


 台本を差し出されたのでぱらっと確認する。

 出会ったのはフィットネスクラブらしい。

 真黄さんは体型維持などを目的とした運動をするために、旦那さんの方はなんとストイックに筋肉と向き合うためとのことだった。

 んでモーレツにアタックした結果旦那が折れたと。


 とまあ、読んだ感想として出来上がる通り、少し内容がひどいとわかる。

 なら葵さんと話し合ってもう少し面白くできないか話し合うのが吉だな。


「うん、葵さん、少しいいかな。」


「うん。」


「この点とこの箇所だけど、真黄さんの旦那さんって日常的に食べているものとかあったらそれを加えてあげたいんだけど、何か知ってる?」


「知る限りだとプロテインとサラダチキン、牛赤身肉のステーキくらい。」


 どれも馴れ初めに加えられるほどいい家庭料理ではないな。

 フィットネスクラブから始まる恋なので、彼の健康を考えて作ったお弁当を渡して惹かれあいましたとかのほうがいいと思うんだけど、サラダチキンかステーキか。

 大穴でプロテインだけど、想像がつかねえ。


 いったん保留にしつつ話し合いは終わった。

......................................................................................................................................................................................................................................................................................

次回

21 オサナナジミのおせっかいを焼く元おじさん

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る