第15話 15 家族みんなの食事は井戸端会議によく似ている。

「さてひとまず話し合いも終わったことだし、みんなご飯にしようか。」


「あれ?

 みんな食べてなかったの?

 いつもは食べている時間なのに。」


 いつもは大体6時くらいに食べているご飯を誰も食べていないのか。

 待っていてくれなくていいという趣旨のメールは送ったのだが、既読にはなっていたし、了解の返信もあったので食べているものだと思っていた。


「実はだな。

 先に食べているようにと説得したのだが、みんなで食べるって聞かなくてな。

 みんな待っていたんだ。

 今から温め直すから待ってくれ。」


 と言って人数が人数なだけに業務型家庭用家電製品で固められたキッチンの電子レンジを使用しに姿を消したオトン。

 さすがに、それだけで待たせるのは悪いので、テーブルを拭いたり、食器などの配膳を行っていく。

 そうこうしているうちに作っていた料理が温め終わったのか、料理いっぱいの寸胴鍋を持ってきた。

 中には野菜たっぷりの中華スープ。

 他にも、青い葉物野菜のお浸しや肉野菜炒めなど、ただ温めただけには思えないほどの量を持ってきた。


「さて、みんな、今日もお疲れ様。

 いただきます。」


「「「「「いただきます。」」」」」



「そういえば、病院に行った子は何があったんだ。」


「貧血と寝不足による過労だって、しばらくは安静にする必要があるらしいし、面会が再度できるようになったらお見舞いにはいくよ。」


 オトンと話し込んでいると涙ながらに飯を頬張る姉ズたちがいた。

 そんなにリスみたいに突っ込んで、よほどオナカガスタイノダロウカー?

 ちなみにリモートをしていた武兄とそのほか姉たちはすでに元の家の仕事に戻っている。


「うまうま、うまい!

 うまいよ!オトン!」


「うん、うまいのはわかったからお前らやけ食いするなよ。

 普段はそんなに食べないだろ。」


「なんか今日はうますぎて食わずにはいられないんだオトン!」


「はあ、それで、一郎はその子と結婚したいのか?」


「いや、結婚については考えていないけど好意を持たれているのはわかるね。」


「芽衣ちゃんも報われないな。

 ああ、そういえば初恋の子の葵ちゃんは覚えているか。

 あの子の親戚のお姉さんが近々結婚するらしくてな。

 何分結婚式だから、男性をもう少し新婦側から呼んでほしいと催促があったらしい。

 私が出てみようかと思っていたが、どうだ、一郎が出てみないか。」


 この世界の披露宴では男女比が異なっているとはいえ、披露宴によって生まれる新たな恋というジンクスはもちろん存在する。

 むしろのその存在を求めて披露宴に参加する女性や男性も多いほどだ。

 顔が不遇でも結婚する気がある人たちが来たり、祝う心がある人たちが来るのだから、成功率はそこそこあるし、マッチングアプリよりも身元がしっかりしている分、安心できる。

 だが問題はそこではない。

 オトンが二行目に言った言葉に対して過剰に反応した人たちがいた。


「「「「「初恋?」」」」」


 オトン....確かに初恋の子だけど!初恋の子だけど!

 それは言わぬが花でしょ。

 馬鹿シスターズが反応してしまったんだから。


「ねえ、私それ初耳なんだけど。」


「私も私も。」


「ねえ、お姉ちゃんたちにこっそりでいいから教えてごらん。」


「これはまた緊急会議が必要なようね。」


「お姉ちゃんと結婚するって言ったのに。」


 なんか勝手なことばかり言っているけど、葵ちゃんか。

 確か出会いは中学の頃だったけど、また会えるなら会ってみたい気持ちはあるので受けようか悩んでいる。

 姉ズに突撃されると悲惨な披露宴になりそうだしなあ。

 初恋の子って、さあふつうは叶わない恋だし、未練がましいって思われないかな。

 あの頃はそこまで前世の記憶があったわけじゃないから、初恋の子を前に緊張して碌にしゃべれなかった記憶しかないな。


「ちなみに葵ちゃんは今結婚相手を探すように親から催促されているらしいぞ。

 恋人は特にできたことがないらしい。」


 オトンというか、おせっかいな親心あるあるなセリフを吐かれると行きたくなってしまうじゃないか。

 煽ったのはオトンなので、後ろから迫りくるかもしれない猛獣姉たちの制御は任せよう。

 そのくらいはやってくれるだろ。

 俺の社会進出には賛成してくれたけど、結婚はしてほしいのがオトンの願いだし。

 何より初恋の人だし。

 俺の顔でかかわってくれるかわからないし、おじさんトークがうまいと言ってもそこまでビジュアルがいいわけではないからな。

 緊張するし心配だけど行ってみよう。


 また、バイトをしていた時みたいに、多くの知らない人にかかわることは社会勉強になるだろうから。


 決して初恋が実るとは限らない。

 前世の初恋も失恋すらできなかった。

 ましてやマッチングアプリでさらっと振られるような男だ。

 当たって砕けろの精神で受けてみよう。


「芽衣ちゃんが一歩リードと思っていたのに、初恋の子がいたなんて。

 参さんも隠すのが上手いわ。」


 オカンにも隠してくれたのはありがたいけど、今ばらされるのはつらいです。

 姉たちに強制的吐かされました慣れそれを含めて。


+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+

..........................................................................................................................................

*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*

次回

16 姉ズの尋問兼思い出話

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る