第10話 10 オサナナジミ昇天しそうになる。

 彼と会ったのはあの日、幼稚園の頃。

 彼とは本当に幼馴染だったのだ。

 と言っても私が一方的に見てきたストーカーのようなもの。

 自覚がある分尚質が悪いのも解っています。


 幼き頃の彼はカッコよかった。

 私のヒーローだった。

 他の女の子からいつもお父さん役ばかりやらされていた私を助けてくれたヒーローだ。


 そして、組が別れると彼のようなヒーローになりたいと思うようになった。

 頑張って男の子の様に強くたくましくなるための修練を行っていった。

 剣術も空手も、柔術も何でもかんでもやってみた。

 そのたびに母親には女らしくしなさいって言われたけど、ヒーローの隣に立つのはヒーローじゃないといけないと思っていた僕は頑なに断った。


 小学校に上がれば、恋心だったと知った。

 隣に立つたびドキドキして、落ち着いている表情を見ればこっちも自然と落ち着いて。

 ドキドキと安らかな雰囲気が両立する不思議な感覚。


 中学校に上がり、高校にも彼のいる学校に頑張って入ろうとしたが、男子校に通っていたためストーカーして眺めていた。


 でも大学だけはリモートで家に引きこもられてしまい、彼の姿を見ることは殆ど叶わなかった。


 そして、いつもつけている彼の玄関から彼が外に飛び出したときはチャンスだと思った。

 念には念を入れ、バイトしていることはわかったけど、その目的が解らなかったから行きたい気持ちをぐっとこらえて待っていた。

 百貨店に行ったとき、偶然を装い男を堕とす方法の本の通りの事をしてみたけれど、結局大失敗。

 敗者にしかなれなかった。


 私には彼がとても眩しすぎて、隣に建てないと自覚させられたような気がした。

 配信でリスナーにぶつけて発散するほかなかった。


 そして、ラストチャンスかもしれない。

 最後の最後の大一番。

 大一番に背水の陣を敷かずしていつ敷く!


「かしこまりました。

 すでにご存知だと思いますが、私は陸奥 一郎と申します。」


「(結婚してください)よろしくお願いいたします。」


「いえいえ、そんなにかしこまらなくて結構ですのでリラックスなさってください。」


 え?なに、結婚してくれるから、自然体で居てくれってこと?

 結婚生活を円満にしたいから自然体を見せてというならよろこんで!


「はい!

 私、岡田 芽衣。

 好きなモノは好きな人を永遠見つめ続けることです!

 ゲームは次に好きです!

 他習い事をたくさんやってました!」


「ははは、まあ岡田さんは確か、幼稚園の頃から一緒だったかな。

 名前をフルネームで聞かないと出てこなかったのはごめんね。」


「いえ!

 滅相もございません。

 私、岡田 芽衣は頭の片隅に入れていただけるだけでも本望でございます!」


「まあまあ、普通は悲しむべきところだから、無理はせずに怒りたいときは怒らないとね。

 人間持たないよ。」


「~」


「だ、大丈夫?

 顔色悪いよ。

 救急車呼ぼうか?」


 それは、情報を処理することを放棄した脳の活動が停止した瞬間であった。


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次回

11 ストーカー、病院で目が覚める。

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