第19話 フィウとの出会い


 -時は遡る-

 二ヶ月前…俺は、まだ完成していない上級魔法を彼は必死で、考え続けた。そんな中、ふと人生を振り返ろうと思った。なぜ俺は不幸なのか。こんなに不幸に苛まれなきゃいけなかったのか、色々考えた。


 自分自身の問題もあるが、家庭環境に所以するものも大きいだろう。まずは、バイクで事故にあって苦しんでいる次の日でさえ、「今日はバイクで行かないの?」と逆のことを言ってくる「思いやりのなさ」だ。それによる洗脳だろう。昔ならなぜか、最悪の選択肢であろう真逆の選択肢を彼らは、示し出してくる。もはや彼らの言っている逆の事をした方が成功するという確信を思うほどだ。そしてそれは絶対に正しいという言葉の勢いがある。車嫌いな俺に原付バイクを勝手に買ってきた時のように。そしてそれを当たり前の価値基準かのように洗脳してくる。突然、そして勝手に買ってきたのに、いつの間にか乗る前提になっている。


 今思えば、欲しくないものをしかも勝手にお前のためだと言って買ってくる両親というのは、過干渉に他ならなかった。俺は最初は、何度もいらないと断ったが、それを押し付けてきた。「乗らなきゃダメになるでしょ」などと理由をつけて。父にいつも口すっぱく言われていた。車の練習しなきゃと。車の練習をするためのバイクであり、配達の仕事をさせるための押し付けだったと思う。俺は子供の頃から乗り物酔いが酷かった。特に車がそうだった。だから車が嫌いだったのかもしれない。今思えば、本能的に体が弱いとわかっていたからかもしれない。結果的にこの病気になっている。妹や母は俺が運転する車に乗るのは嫌だが、俺を一人で乗らせることはいいと言った。そんなに俺の運転が嫌なら、運転すること自体諦めろといえば良かったのに。言う気がなかったのは、他人は守らないが自分は守りたい、そんな感情の現れだと思う。事故に遭ったあと、珍しく母は俺を元気づけた。「車の運転を挑戦して駄目だって諦めるんじゃなく、もう一度挑戦しなよ」と。正直、そういう自分の都合のいい時だけ励ますのは死んで欲しいと思った。


 何度もバイクに乗れと言う彼らに対し俺は反論をするのに疲れて、いつの間にか反論しなくなっていた。乗るようになってしまっていた。この空間にいる脳疲労による判断力の低下もあるだろう。それは、洗脳に近いものだったと思う。


 こういう「話を聞く気がない態度」は脅威であった。俺のためといって色んなことを押し付けてくる。怒鳴る。押し通す。話を聞かない。反抗すると、父に告げ口され、なぜが俺が父に怒られる。


 彼らの可笑しさを示すエピソードはまだまだある。まだ病気が判別してない頃、脳脊髄液減少症だと俺が疑っていても、「病気なわけないでしょ」と言って苦しんでいる俺を責め立てた。のちに病気がわかったあと、それを問い詰めたら「病気じゃないっていい方に考えた方がいいでしょう?」と開き直った。謝る気は一向にないらしい。さらに俺が病気だとわかると、私もその病気なんだよ。誰々もそうなんだよ、と後付けのように言ってくる。脳脊髄液減少症のように相当な希少な病気の時は流石に、「私も脳脊髄液減少症なんだよ」とは言わないが、脳脊髄液の症状については真似してくる。頭が痛いとかだ。それは私の方が辛い思いしてるんだよという、訳の分からない意地の張り合いだろう。それは、恐らくみんなある普通のことだと洗脳させるためである。こうやって悪循環から抜け出せない仕組みができる。奴らは地獄に引き込むような事しかしない。そしてこんな俺を心配する人は周りに誰もいなかった。


 そのように洗脳されたら、俺ってそんな大した病気じゃないんだ、と上に行くことや反骨心を忘れた、可哀想な人間になる、どんなに周りから見て、俺がどんなに不幸だったとしても。その不幸を「当たり前」だと思わせてくる家族の手によって。普通なら、病気の分、人一倍頑張らないといけないという思考になるだろうに。


 そしては、不幸な要因のもう一つは、家族の苛立ちは全て俺に向かってくる、この家族でスケープゴートという立ち位置だろう。結果的にそういう邪魔扱いに嫌気がさし家を脱出し、事故に遭ったのだから。


 例えば、恐らく妹が大音量で動画を見ていてうるさい時は、父は妹に注意するのではなく、俺に怒りをぶつけた。妹は何か特殊なバリアで守られてるかのような、そんな不気味な感覚を受けた。妹の母に対するいらだちが俺に向かうように、父の妹に対するいらだちも俺に向かうのだろう。


 そういうことが積み重なって運が悪いになった。それだけなんだろう。こういうスケープゴートな環境で危険なバイクをあえて渡していることを考えると、事故をさせるためと邪推さえしてしまうのである。悪口を言っている方は気持ちが良くなり運転が悪くはならない、だけど受けてる方は真逆だろう。


 思い出す。有名な神社に半強制的に交通安全祈願に連れていかれたこと。それもあったからこそ、乗らなきゃいけない、もう引き返せない状況に追い込まれたのかもしれない。自然と、あなたのためと装い、誘導していたのだろう。


 不幸なのは全部自分のせいだと思ってた。そんなこともなかったような気がする。


「なんでも人のせいにするな」


 父がよく言っていた言葉だが、今の俺はそうとは思わない。人のせいにしていいことだってある。彼らは辛い方に辛い方に俺を行かせてた。そう思う。日常の生活でも。一人でなんでもしろと言われた。それなのに帰ってこいと言われた。支配してきた。意味がわからない。何をするにも邪魔してきた。一日十五時間働いていたことを話すとそんなの当たり前だと言われた。寒いのに、病気が辛いのに歩いて遠くまで買い物行ってこいと言われた。重いのは駄目なのに、一人じゃ布団干せない事言って逆切れされたり。そして虫がくるような臭い布団になって何ヶ月も寝た。病院のお金は出さないとか。病院に一人で行けとか。だから俺は遠く離れた病院までバイクで通った。


 事故を助長した。バイクを買ってきた。ストレスは抜け出しを助長する。バイクがすぐ近くある、いつでも乗れる。そういう環境を作っていた。怒鳴れば俺は出て行く、それが外の世界から帰ってきてからの俺の癖であると彼らは知っていた。俺はこちらに帰ってきてから、何度も怒鳴られては、逃げ出していた。そして俺が嫌がっていた乗り物であったバイクを押し付けた。それを考えれば、バイクを買ってきたのは事故にあわすための策略ともとれる。保険を恐ろしいほどに強要したことも。人生振り返ってみると彼ら家族は不健康な行動、不適切な行動を助長する人間だった。自分に関係のあることは慎重にマイナスに考え、俺のことは、病気については楽観的に言うアリが大嫌いだった。そして、悪いことをした人を庇う人たちの集まりだった。そして俺は壊れた。本当に…恨みは頂点に達した。


「考えすぎなんかじゃない、これが現実なんだ。不幸は仕組まれたものだった。」俺は涙を拭った。


 ある日病状の悪化が拍車をかけた。隣の部屋の俺を威圧するような音にびっくりして上半身をベッドの上で機敏に動かしてしまい、首あたりで何かが切れたような音がしたのだ。悪化したからなのかわからないが、集中できる時間が、以前の二分の一になっている。目がおかしい。ぶれてみえる、視力が低下している。ブレ過ぎていて風景や建物のの輪郭がもはやない、光の見え方が可笑しい、工学レンズをみているかのような視界。足が痺れやすい、足が唐突に力が抜け崩れる、足の感覚がない時がある。このままでは足が動かなくなる。呼吸が乱れる。一秒感覚で苦しい。


 俺はそんな時もいつも通り彼女の写真を見た。切なかった。


「この悪化した身体じゃ…目じゃ…好きな人の写真すら歪んで見えるのか…写真が歪んで見えると好きという感情さえ忘れてしまいそうで…怖い…」俺が今彼女と繋がってるのは、この目だけなのだから。俺は少しずつ身体が壊れていくのを感じたんだと思う…


 そんな悲しみを堪えながら。こう言った。


「ふ、目の濁りか…面白いぜ。どうせ今治療しても戦ったら悪化する。なら、平和が訪れるまで、いっそこの状態で戦ってやろうじゃないか。」


 ガオはこう言っていた。「病院行くのはいいけど、自分でお金稼いで行けよ」と。とても悔しかった。狭い家の中で咳払いをされ圧をかけられ集中力を低下させられる。この疲弊した環境の中じゃ集中力はほぼなくなることを知っていた。だから苦しかった。それなのに自由にさせない。過干渉で自由になることを拒むあいつが許せなかった。


 そして無我夢中に作業に取り組み、魔法は完成した。


 そしてこの混乱に乗じて部屋から歩きながら抜け出したフィウはその混乱の元となった彼らを探していた。


 一つの扉を開けたあと、見覚えのある顔が見えた。


「お前たちか!ここに侵入してきた奴らは!俺と手を組まないか?」


「フィウ!!!」


「カイ!!久しぶりだな!!!」


「敵じゃないのか…」


「俺はあんな心が闇に染まった奴らのいいなりにはならないよ。一緒に戦わないか?」


「もちろんだ!本当に中学校以来だな。」


「ああ、もちろん覚えている。あと俺は脳脊髄液減少症という病気なんだ。話せば長いのだが、簡単に言うとそんなに機敏には動けない。だから俺は、一撃に力を込めて、ガオを打つ。だから、お前たちは、そこまでの敵を一掃してくれないか?俺は隠れてついていく。俺は体力も落ちて、素早い動きができないから真正面から戦える自信はない。」


「フィウもその病気だったのか。」なぎさの想像通りだったとカイは思った。もしそんな奴がいたら大切にしてくれよな。彼のそんな言葉が思い出された。遠くまで見通す彼の凄みが今わかった。


「知っているのか。」


 そう彼は言った。


「その病気の人が以前近くにいたからわかってるつもりだ。そうなかなか治りずらく、完全な治療法も見つかっていない病気だって。」


 それから少し俺やみづきは、彼の生い立ちや人生などが書いてあるノートを見せてもらった。こんな一文を見つけた。


「勇者なんていないよ、全ては邪魔され隠れていないと生産的行動もできないんだ。だから悪事を暴いて書き記して、ボコボコにしてやる。そして、魔法で成功してお金を稼いで、そして彼女を大金持ちにしたい。」


 俺は彼女ということにはひっかかったが、突っ込まなかった。それは彼の大切なものだろうから。無理に干渉するのはよくないと思ったからだ。そしてこの文で彼の思想も分かった気がした。様々なエピソードを読んだ。彼の人生もわかった気がした。そして俺たちは彼のことを本当に味方だと信じることにした。


「なぎさ…その人のことを詳しく教えてくれないか。」彼は思い出したように呟いた。


俺たちはのことを話した。


「俺はなぎさを知っている…」そう彼は呟いた。


「えっ」俺たちは驚いた。


「みよじしか思い出せなかったが今思い出した。中学生の頃俺の家庭教師をしていたんだ。優しくて兄貴のような存在だった。俺に優しくしていたためか、姉や家族には嫌がられた。しばらくすると彼は途端にこなくなった。俺の意思に関わらず解雇されたんだ。家庭教師は数ヶ月の付き合いだったがかけがいのない存在だった。安心して全てを言える、話せる人だった。それをあいつらは奪った。」


「でもどうしてなぎさが家庭教師を…」


「わからない」


「そういえば彼は孤児院で育ったと言っていた。つまり俺たちの知らない孤児院があり幽閉されてたってことか。何故今頃気付いたんだ。馬鹿か俺はっ」


「クソッ!!!いくぞ!!!」フィウは目力を込め言った。

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