第16話 工場(収容所)の世界
俺たちは急ぐようにその孤児院を去りさらに奥に進んだ。進んでいる途中ある大きな建物が目についた。俺はそこがなんだがわかってしまった。来たことがある。そうここが俺たちの恐れていた工場―ザテンペスだった。
「帰って来てしまったなんて」心の中でそんなことを思ってしまった。何度か俺は在学中の長い休みの間に、工場を体験したことがあった。それが嫌で嫌で、必死に外の世界でアルバイトを探したりした。
今やその規模は拡大しどうやらこの工場を抜けないとxseedにはいけない構造になっているようだ。俺達はこの建物に侵入した。
「おはよう、待っていたよ」声がする。
「おはようございます!!」大勢の声がその場に鳴り響いた。
「ここは、収容所兼仕事場、又の名を工場、その名も「The Nepenthes」。その名前には和解という願いが込められている。今日もみんな楽しく、汗だくで働くよ。今日もよろしくな」
「宜しくお願いします!!!」再び響き渡る大勢の声。
彼はどうやらここの責任者のようだ。見たことはあった。
酷い場所だと言われているのに、和解を願う名前が付けられていることは皮肉だと思った。こっちからみたら、ここの主人が争いを起こす元凶なんだろうと言いたくなる。15歳をすぎると、(無秩序に)連れて行かれる場所、それがここ「工場」だった。
思い出すあの苦しい日のことを。理不尽なことで責められる世界。
「カイお前この仕事継いでくれるんだろう?」
その言葉を吐いたのは祖父だった。
「継がないよ」
そしてその場所にはガオがいた。ガオは静かに聞いているようだった。祖父がいなくなったあと、ガオは俺にキレ始めた。
「継がなくてもそういう時は継ぐっていうんだよ!!!」
「え…そうなの…」
しばらくするとガオも消えた。
「なんで嫌なことを、そうだと言わなきゃならないんだ。」何度考えてもその結論に至った。
姉にはこう言われた。
「あんたがこの仕事継げばいいじゃん!!!」
俺は何も言い返せなかった。
声が聞こえる。ガオの声だ。
「おーいお前らちゃんと働けよ!お前たちふざけてんのか!わかりましたじゃねーだろ!わかってねーじゃねえか。だから言っただろ!なんでも俺の言うとおりにしとけばいいんだよ!お前らの意見なんていらない!」
「はい」
こんな暗い世界。
「お前これやれって言っだだろ!!!!なんでやってないんだよ!!!!」
「言われてません!!!」
「はあ口答えするな!!!言っただろ!!!!!」
「え…」
ないがしろにされる無力感。押し付けられる言霊。板挟みにされる屈辱感。しかも経営を教えるつもりはない上層部。ずっと下っ端のままの絶望感。
「俺たちは、ガオの感情を満たす為の道具でしかないのか…」カイはそう思った。
誰もがこの仕事を嫌がった。やっていながら。ただ一部の役職は、その裁量性、自由度の高さからか、気持ちよく生きてるように見える人もいた。
少し中をのぞいた。顔見知りの人の顔が見えた。
俺は少し動揺して、音を立ててしまった。近くにいた従業員がこちらにくる。逃げる時間もなかった。
「カイお前ふざけるなよ!!」
「ガイ…」
「頭おかしいのか逃げるなんて」
「俺たちは嫌でもずっとこの仕事をやらされてきたんだぞ」
「カイーー」
「さえ…ローリ…ブンキ…」
まだ罵倒は他の人からも続いた。
「カイてめえ」
「カイ何やってんだ」
「カイーー」
「のこのこ戻ってきてなにやってんの」
その声は、学校の友人だった。
痩けた顔は、昔の俺が知っている友人の面影を完全に消していた。性格も何かこの場に合わせた薄気味悪いものになっていた。もはや、懐かしむ間なんてなかった。暖かい歓迎ではなかった。カイに対する非難ばかり飛んだ。恨んでいるのだ。自分たちは一生懸命辛い人生を歩んでいるのに、カイだけここを抜け出したことを。彼らは決められた道筋でしか生きてこなかった。全てはそう、ガオの為。一生抜け出すことのできない悪夢がこうさせていたのかもしれない。
昔からそうだった。ある者は、ストレスのために皮膚湿疹(疾患)になり、しかし、その工場に故意なのか、悪意なのか工場にエアコンなどはない。ある者は怪我や病気がないことにされたまま体を痛め続けたままやり続けさせられている。
可笑しいことが当たり前だから、自分の体に異変が起きていることさえきずかない。少し異変を感じたとしても、無かったことにされる。それが当たり前の世界だ。当たり前じゃないことが当たり前と呼ばれる世界だった。
どんどん壊れていく。悪化していく。この世界はこんなもんだ。長時間労働で壊れても休むことさえ許されずに罵倒され続け、その身体や精神を破壊され、一日を終えていく。気づいた時には病院に運ばれている。これを続けている。何をやっても逃げられない。いつまでたっても同じことの繰り返し。ここにいるほとんどの人がまともな思考力を失い何らかの病気を抱えている… その循環を続けている。もしなぎさがあんな身体で全て病気は無かったことにされここで働いていたら1番の地獄だっただろう。車の運転でふらふらになり重いものを持っただけで具合が悪くなったり頭が痛くなったりする。病気は二度と治らないような体になっていただろう。これはいつ変わるのだろうか。俺はいつも考えていた。しかしそれはいつになっても変わらなかった。
いつ終りが来るのだろうか…俺は。いつまでこんなのに踊らされるのだろうか…俺はこんな世界すべてを壊したい。そして人々を救いたい。その為に戦っているんだ。戦っているんだ。
そうここは、15歳以上の人が無順序に運送される、最果ての地にある、あの恐ろしき悪名高き工場であった。彼らは逃げられるはずもない環境でひしひしと働いてきた…
父から聞いたことがある。5億も借金があるという脅しだ。その脅しの中で、彼らは働いてきたのだろう。だから休むことはできないと圧をかけられて。それが嘘だったのか本当なのかは今でもわからない。
これが俺たちの中でさえ工場が悪夢と言われる所以だった。罵声が続き、意味不明なことで責められ終わりが来ることがないと思える労働環境は地獄だった。
工場はしばしば脅し文句に使われた。「工場に連れて行っちゃおうかな」そうそれはデハ達の脅し文句だ。
「いつ連れていかれるかわからない…」そう感じ、俺たちは憂鬱になった。
それと同時にあの街にいた過去の情景が思い浮かぶ。何も達成感もない…どうしたらいい…ただ生きているだけ…毎日のように夕焼けを布団で感じながら考え事をしていた過去。
「変わらない…何も変わらない…同じような毎日が続くだけだ!!!」
「こんなところで働いたら壊れちゃうよ」 という俺の姉。そのくせして俺には、押し付ける姉。
「戻ってきて継げばいいじゃん」全く思いやりも何も感じない姉の声。
「地獄だよ!」イオの声を思い出す。
「地獄だよ!!地獄だよ!!!」一度は助けようとしてくれた彼女の声さえ、悪夢の声に変わっていく。そう今はもう俺の近くにはいない。
鳴り止む事を知らない、家の中での、デハやガオの怒号。理不尽で適当な押し付け。彼らの言葉でそんなことを思い出してしまった。
「うわあああああああああ!」
「カイ大丈夫!?」みづき
「本当は俺だって泣きたいよ…なんでこんなにくるしいおもいをしなきゃならねーんだよおおお!!!! 」彼の目に少し涙が溢れているのが見えた…
「変わるわけない。いままでそうだったんだから、変わるわけなんてなかったんだ。何を期待していたんだ…俺は俺は!!!」
「カイ、ここは駄目だよ。逃げよう」とみづきは言った。
「みんな俺を恨んでいるのか・・・自分だけ好きなように生きて、歩んできた自分を」
「カイが恨まれることなんてない。確かにカイは運が良かったのかもしれない…だけど、変えるんでしょう?この世界を」
「そうだ!こんなことで悩んでいられない」
「こんなところ、鬱々しくていられない。壊れちゃう」ここで働いていたキリアは投げ捨てるように言った。
「俺は全てを変えてやる!!!!!まずはここからだ!!!!!!!」彼は声を張り上げた。
「カイいくよ!!!」みづきは言った
その道のりをある男の影が遮った。カンだった。
「お前この仕事継ぐ?」
部長であるカンが暗闇の中から突如現れた。
「そんなわけないだろ!!!」
「アハハ、その為にここまでのこのこやってきたんじゃないのか!!新しい従業員を連れて!そうか…カイ、これが許してもらう最後のチャンスだったんだがな。もう遅い。ここでYesと答えてれば、お前だけをここに連れ戻し、あとの人達は、安全に国の外へ帰すつもりだったんだがな。みんな従業員になったら、お前のせいだぞ!笑。お前はみんなから恨まれて生活していくんだ!!!ハハハ」そうカンが言った。」
約束してもそうしないくせにと心の中で思った。
「邪魔だ!どけ!お前に構ってる暇はない!!!!!」
「どこへいく?お前の墓場はここだよ。アイアンケイジ」
行き先が鉄の檻で囲まれた。
「これは私を倒さないと解けない魔法だよ。」
「戦うしかないみたいんだな…」
「こどもの分際で。ひれ伏せろ!!!!!アークシャドウ!!」
「こんな道中で負けてたまるか!!!俺にはやらなきゃならないことがある!」
「私たちは決して屈したりしないわ!!」そうみづきが言った
「威勢だけはいいみたいだな。ここで終わらせてやる。そしてガオ様へのおいしいプレゼントにしてやろうガハハ」
「カン様頑張れ、そんなやつに負けるな!」
「ちっ、うるさいな。黙ってろ。おまいらは従業員のくせに何の戦力にもならないからな」
お前ら上層部が何もやらせないからだろと心の中で思った。
「かん様、カイなんてやっちまえ」とガイが言った。
かつて共に過ごしたやつらに非難されるとは、胸が痛かった。だけど、俺はどうしても成し遂げたい夢があった。
「あいつらは一体なんなのよ!カイいくわよ!!」
「みづき気にするな!行くぞ!!!」
カンは術式を唱える。「ボイラーフレイム」
みづきも続いて魔法を詠唱した「水特大魔法レイズ」粉砕した。
「まだまだこれからだよ。ニュートラルセンター」
カンの正面のちょうど真ん中が半分に割れる。
「なんて強さだ・・・」とカイは言った。
「あと2人だな」
「まさか、帰ってきて、攻撃をしかけるなんてね。」とローリは言う。
「お前、誰に刃向けてると思ってるんだ」とブンキは言う。
「お前たちに勝てやしないのよ!のこのこ帰ってきて!この裏切り者が!」とさえが言う。
「カイ、お前勇者気取りか?笑わせるな。弱虫が!!!」とガイが言う。
「くっ・・・」
「カイ!!!あんな言葉に負けちゃ駄目!!!!」
「俺が可笑しいのか?どうやったら勝てる…?」
脳裏に浮かんだのは仲間の姿だった。
「そうだ、今はこうやって仲間がいる、何も怖いものなんてない。俺たちは戦ういくぞみづき!!!」
「うん!」
「サーベントキラー」
素早い剣技がカンを襲う。
「早いっ・・・」
「死ぬ気で特訓してきたんだ。お前なんかに負けるはずがない!!」
「だが、私はガオ様の直属の側近の一人。ここからが本番だ。」
「見せてやろう。俺の最強奥義を・・・」
「空気が変わった…みづきくるぞ!!!」
「だち閃光!!!!」
「カンっ。」なんとかギリギリで弾き返す。
「なにっ早いっ後ろを取られただと・・」
「まだだあ。サーベルウォーライオン!」
ライオンのような強力な攻撃の連撃技のようだ。
「うわっ」
「カイッ!!!」みづきが叫ぶ。
「ほらほらどうしたのかなあ。最初の勢いは?アホはこうだから、アホなんだよ。弱いのに吠える。弱いのに反抗する。ただただ言うことを聞いてればいいのにね。」
「アホか・・・確かにそうかもしれない。だけどな教えてやろう。アホはアホだからこそ無我夢中に物事に取り組めるんだよ!!!」
「スピードオンティアーズ」
そのカンの一言がカイを怒りへ向かわせた。そして敵を一撃で貫いた。
「負けただと…」
彼は力尽きた。そしてそれがわかった途端に罵声を浴びせていた顔見知りの一人の男が話しかけてきた。
「ごめんなカイ」
ガイだった。
「仕方ない・・・こんな狭い世界にいたら、周りに合わせて生きるようになる。それが自然の摂理ってやつさ…だけど俺はもうお前とどう接していいかわからない…」
怒声を浴びせずに黙っていた違う一人が話しかけてくる。
「カイ自由ってなんだと思う?」
「俺もよくわからないよ。」
「わかった気がするよ。今までは全てガオの言うとおりにしてたから、俺の人生がガオに動かされているような感覚だった。カイを見て、他人に流されて自分の人生が決まってしまうのは情けないって気づかされたよ。ありがとう。」
「力になれたんだったらよかった。」カイはそう答えた。
「俺たちは自由だ…」そう俯き加減で拳を作りながらカイは言った。
工場の人たちが次々にやってきていた。
「カイ、その通りだね。カイを見て束縛され続けて辛い人生を送らなきゃいけないわけじゃないって思ったよ、応援してる」
そう無言を貫いてた、人たちは言った。
「カイ私は権力に屈して生きなきゃと人生諦めてた…力をもらえたよ…ありがとう…」
「ありがとう。俺はみんなの自由の為に戦ってくるよ!絶対に勝つからな!!!」
黙ってた人は仕方ない気もする。彼らは比較的、平等にみようとしてくれていた人たちだろう。俺を直接的か間接的に攻撃してきたやつ、俺を見捨て罵声をあびせた奴はともかく。そう心の中で思った。圧倒的パワー、権力の前では意見に抗えるものではない。
そう言い残し彼らは去って行った。人は背負うものがあれば強くなれるのか、それとも空回りしてしまうのか、どちらかなのだろう。それが難しいところなのだ。だけど、カイはそれをうまくコントロールしてやってくれるだろう。彼がこの世界を変えてくれることを俺たちは期待する。
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