第10話 戦いを決意した理由
三ヶ月が経過していた。2月の出来事である。この街にいるのがなぎさだ。抜け出してまで病気で苦しんでいる人もいるのか。初めてその光景を見たカイは唖然になった。 その魔法力から、彼は街を守る役割を全うしてきた。盗賊や獣、敵対する国から。ほぼ一人の戦力で戦った彼はその度に負傷していたが街の人々からの信頼はとてつもないものとなっており、街の英雄と讃えられていた。
そんな彼ともあれから仲良くなれた。「居場所を与えてくれたこの街のために力になれば」、「せめてこんな命でも何かに役立てたい」、「病気で苦しんでいる人を助けたい、そんな活動がしたい」、「強くなることでいつかガオを倒し、カイ達の役に立ちたい」、そんなことを彼は語っていた。
しかし彼の手術、ブラッドパッチはなかなかうまくいかなかった。発症から手術まで時間がかかったかららしい。彼は一人で無理しすぎた。まるで彼らの全ての不幸を一人で受け入れていたかのように。それでもあの闘技場の決勝を見た人たちなどの資金の援助などもあり、ブラッドパッチができることになった。これが3回目だった。
「これで失敗したら、もう二度と治らないだろう。今の科学では。」
そう医者に言われたという。これが本当に最後ということを俺は知っていた。しかし、そんな暗雲も払いのけ、彼のブラッドパッチは見事成功し、少しずつ良くなってきているらしい。俺たちはそれを記念してこの街に戻ってきたのである。
「なぎさおめでとう。」カイ
「おめでとう。私いつでも呼んでね。助けに来るから。」キリア
「本当に良かったね。おめでとう。」ポロ
「なぎささん、おめでとう。ゆっくり治してね。」みづき
「なぎさ!おめでとう!!今日は、楽しくやろうね!わーい!!」ティ
みんな朗らかで真剣な態度で祝ってくれた。それが俺には本当に嬉しかった。今まではこのような空間ではなく、文句やいじめ、逆ギレ、見下し、怒号の世界だったのだから。
「ありがとう。成功したおかげでかなり楽になったよ。ただまだ安静にしてないといけないけれどね。本当にみんなきてくれてありがとう。」
そんな楽しい時間も終わり、みんなとお別れの時がきた。
「無理するなよ。俺たちみんなで助けるからさ。」
「ああ。ありがとな。」
そう言って俺たちはその場所を離れた。そしてそれはカイたちがこの街を離れたあとだった。
街に奇襲が(襲い)かかる。まるでなぎさの安静時を狙っていたかのように。それにその敵襲というのはハネスト軍だった。情報によると旗の家紋がそうらしい。彼には責任感があった。
「俺を狙ってこの街に攻撃を…俺がいるから…そうだ、奴らはまるで鬼ごっこを楽しむかのようにカイたちをいつも探していたと聞いた。週に一度は必ず、写真を持って近くを探し回っていたと。俺たちに自由を与えない為に徹底的にこうやって追い詰めるのか。絶対安静なんて言ってられない。俺がやるしかない。」
なぎさは衣装に着替え、先陣を切った。
「敵将一人、他大勢ってところか…すぐ終わらせてやる。」
そうなぎさは言い放つとすぐさま魔法を唱えた。
「ライジングブレッド」
「ぐああああああ、何て威力だ。」
「俺を怒らせるなよ・・・」
一掃したのもつかの間、大勢の軍勢が湧いてくる。体調は良くはなかった。敵の眼前でその場に倒れ込んでしまった。そしてなぎさはこう言った。
「やはり、これ以上の闘いは俺には無理なのか。ブラッドパッチも一生に何十回も行えるわけではない。そして俺はもう次は無理だろうと医者から言われている。もしこれ以上動けば再発するかもしれない。しかし、奴らはハネスト軍。そして今までの敵よりずっと強い。俺がやるしかない!!!」そう自分を鼓舞し、もう一度、動き出した。
「エメラルドウィン」
なぎさの風魔法は周囲を巻き込む竜巻状になり敵を一掃した。
「あと2分1のぐらいか。」
「ウォータースプレッド」なぎさの魔法が敵を襲う。
「これで全部か…くっ・・・やはり体調が…」
そんな中、建物から人が出てくる。
「西地区にも敵がいます!!!どうにかして助けてもらえないでしょうか。あそこの近くには私の家族がいるんです。」
「ああ。」
そんな体調を顧みず、満身創痍で彼は行った。街は破壊されていた。しかし幸いにもほとんどの人が非難していたので怪我人はいないようだった。静かな街の中、彼は歩いた。そして、一つの豪邸、そこを占拠している、ガオ軍の一人が見えた。
「ここまでご苦労だった。」
「お前は誰だ。」
「私はナキゴ。将軍の一人だ。さあ戦おうか。」
「サイス」
「痒いなあ。」
「なんだと…効かないだと…」
「俺はガオ様直轄の部下。今までの奴らとは出来が違う。なんせガオ様についでのナンバー2だからな!」
「それならなおさらだ!ここで負けるわけにはいかない!!!」
「ふふふふ、威勢だけはいいな。しかしいまがチャンスだという情報を聞いたぞ。安静期間で動けないってな。」
「…クソッ…」
「こうしたらどうかな。再発するんじゃないか!?残真剣」
バリアが遅れた。いつもなら防げるだろう攻撃を、彼は防ぎきれなかった。安静期間であまり動いてはいけないという思考が動きを遮ったのかもしれない。なぎさは相手の技に吹き飛ばされ、岩に激突した。血を吐き出すとともに、身体が悲鳴をあげる。
「(クソッ、今の衝撃で再発したか…何かが切れるような音がした。頭が痛い。しかし今の状況ならもう、失うものも何もない…とてつもない痛みと引き換えに動ける!!!あれを試すしかない。ここでやられるぐらいなら、一矢報いる。)心の声」
「これで終わりだな。お前の目の前にあるのは死のみだ。」
「そうはさせるか、上級魔法。ビッグバン!!!」
「があああ」フォーティンが悲鳴をあげる。
「これが、俺の力だ。」
「まさかあのレベルの魔法を隠し持っていたとはな。しかしこの命と引き換えにお前を壊すことができた。私たちはあの圧倒的な戦いを見てお前を恐れていた。そして常に暗殺するタイミングを計っていた。これで勝利は確定した。私たちのな。」
「例え俺が死んでも、希望は消えない。お前達はいずれ滅びるだろう。」
数日後カイたちはティの連絡でこの街に到着した。4回目の手術をおこなってはみたもののやはり失敗だった。
「あいつらのせいで!!!」
「大丈夫だカイ。泣くな。」
「だって、なぎさはもう手術ができないっていってたじゃないか泣。」
「死んだわけじゃない。生きていればきっと希望がある。いつか遠い未来かもしれないが完治する方法がみつかるかもしれない。それを信じて生きていくとするよ。」
しかし病状は以前より悪化したらしい。その後、なぎさはハネスト軍に弱っているところを見つかり、暗殺されてしまった。なぎさには護衛が数人付いていたが全員眠らされていた。弱ってるその隙を狙われたんだ。俺たちが来たときには時すでに遅し、その現場にはガオの姿があった。
「ガオ!!!!!」
「なあにこの街の奴らは傷つけてないだろ。俺たちに逆らう者はこうなるという見世物(みせしめ)だ。ハハハ。」
「おまえー!!!」
「これでお前らは終わりだ。今日はここで退散とするよ。残念だったな。」
煙幕をつかわれすぐに逃げられてしまった。その時にはもうなぎさの息はなかった。
「私・・・」
「ティちゃん!!」
キリアはティを追いかける。
「なんでこんな世界なんだ!!!弱っている者は何もできないで死んでいくことしか道はないの!!!泣。えええええん」カイは泣きながら叫んだ。彼は奴らに幽閉され、無気力で人生何もできなくて死んでいくと思った過去の絶望から感情が爆発したのかもしれない。それをなぎさの苦痛に満ちた人生に重ねて。
「カイ、落ち着いて。彼が残したもの、その哲学。それを受け取って、私達の人生、生き抜こうよ。そして彼が実現したかった、平和で病気の人にも優しい幸せな世界をつくっていこう。彼がいたらこう言ったはずだわ『大丈夫だ』って」そうみづきがカイに言った。
「なぎさがいないなら私も死ぬ!!」ティーはなぎさが好きだった
「ティ、それ以上言っちゃ駄目。私が許さないよ」キリアかね
「キリ、私を殺してよ。なぎさの元に行かせてよ!!」
「あなたはまだ、あなたの人生が残っているはず。あなたが死んでなぎさが喜ぶと思うの」
「それは・・・」
「なぎさがいなくても、あなたが変えていこうよ。この医師からも認められず、診断さえつかず、保険も効かず疲労困憊している悪夢のような、見た目だけじゃわからない病気を理解してくれる世界にさ!!」
「私、CFSでも頑張る泣。なぎさの病気も私の病気もその他全ての病気も、この国、医者、全ての人に認知して貰えるように!泣」キリアはティの肩を叩いた。
「辛かったね。いつでも私や仲間たちがいるから頼ってね。一人じゃないよ」
「えーんえーん」
なぎさが亡くなり町中が騒ぎとなった。怪我人はいたが、街の命は奇跡的に彼のおかげで一人も失うことはなかった。今まで、この街をまもってくれていたなぎさが居なくなり、人間的にも素晴らしかった彼が亡くなったことに、どれほど悲しんだのだろう。果たして、親が死んでもここまで、悲しんだだろうか。葬儀の列には、悲しみの涙や声に溢れていた。
そして涙ながら彼は叫んだ。「この戦いを絶対に終わらせてやる!!!」と空に響き渡るように。
なぎさの道が一番のいばらのみちだったと思う。
一日中ずっと痛くて、死んでしまいたいと何度思ったことだろう。周りにも理解されずに迫害やいじめを受ける環境で。そんな絶望の中、彼は生きた。糸が見えないまま、解決に繋がる糸が何も見えないまま。闇の中で。
そして病気のまま、その環境から抜け出し、彼は痛みという苦しみを抱えたまま自分で手術費を稼ぐ事を決めた。全て一人でやってきた。痛くても、病気で身体が思うように動かなくとも。必死で、必死に生きてきたんだ。誰も彼を、いつも周りに助けられてきたんだろと責めることはできないだろう。そしていつのまにか俺たちを圧倒するほどの力を持った。彼は勇敢だった。どんなに苦しくても最後まで諦めなかったんだから。
こんな彼をことを俺は決して忘れないだろう。そして街のみんなもきっとそう思っているだろう。この最近街の駅裏は再開発され公園ができた。そして早急にそこに彼の銅像が建てられた。その岩盤にはこう刻み込まれている。
「このような犠牲があったことを。決して風化させてはならない。」と。
お葬式が終わり、もう本当にいないんだということを思うと、信じられないような気持ちになった。涙が溢れてきた。これが大切なものを失った悲しみなんだろう。そう思った。悲しいことに命はこうやって、なくなっていく。
しばらくして彼の部屋に手紙がおいてあったという連絡が入った。そして俺たちはそれを読んだ。
「この世界を救ってくれ。俺のような被害者をもう二度と出さないためにも…そして最後に気になることがある、俺があそこを抜け出してから、俺と似たような被害者を奴らは作っているんじゃないかという不安だ。彼らは何かに当たらないと駄目な人種だ…そういう人がいたら助けてやってくれ。みんな楽しい時間をありがとう。」
「もちろん助けるさ…」涙ながらにそう呟いた。みんな泣いていた。この涙で俺たちの意思は一つになった。
そして最後にあった「みんな楽しい時間をありがとう」という言葉、それが彼の本心なのだと思うと、とても嬉しかった。そして泣いた。この物語を、涙を、永遠に胸に秘め俺たちは前に進むだろう。
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