第7話 追跡者
俺たちは、別行動していたキリアにもなぎさたちのことを伝えた。こうやって一人一人に理解されない苦しみについて伝わっていけばいいと思いながら。そして落ち着いた頃俺たちはその本を読んだ。しかしどうやら、意味もない本だったらしい。イタズラのようなものだろうとドユイは言った。そしてもしかしたら、すり替えられていたのかもしれないとも言っていた。真実はどうであれ、俺たちはこの経験に価値があったと、そう思っている。
それからもドユイの元で訓練を積みながらも、情報を得る為に、度々他の街におもむいた。そして8月に入る少し前の話である。マルバナでのことだった。キリアはいつも通り買い物に行き、そしていつも通り奴らが俺らの前に現れた。父だ。
「元気そうでよかった。一緒に帰る?」
「お前と戦うつもりはない。ただ縁を切りたい。もう、関わらないで貰えるか?そうしてくれればこちらはなにもしない。」
ガオは言った。「一つだけ教えてくれる?なんでそんなに迷惑かけたいと思っているの?」
「また以前と同じことを言うのか!いいかげん諦めろ!!!俺は帰らない!!」
「お前は本当に何考えてるのかわからないよ。言うこと聞かないなら、力付くで連れて帰る。」
ガオは攻撃を開始した。それに対抗するかのようにカイは構える。
「ごらあああ!!!」
「くっ、なんとか耐えられたが、強い!!!」
カイは反撃に出る。
「なにっ!!全然効いていない」
「俺に反抗するなんて大丈夫?頭おかしくなったんじゃないの?精神科行ってきな」
「ふざけるな!!!」
ガオはカイの攻撃を身をかわしこう言った。
「まぁ私は今回はデハに任せるよ。彼女を信用してるし、優秀だから。デハ、カイを連れて帰ってくるっていう嬉しい報告待ってるよ。よろしくね。お金も出すから。」
そう言い終えると、支配者・ガオはどこかへ消えた。
「一緒に帰ましょう、カイちゃん。家族で楽しく暮らしたいよね」
不気味な笑顔でデハはそう言った。
「くそっ、結局お前たちは自分のことしか考えてねえじゃねーか!デハ俺は帰らないぞ!」
「そうよ、カイは自分の決断で飛びだしてきたのよ!」
「ほら、カイ。外に行ってばかりじゃ、ローラが羨ましがるじゃん」
「そんなの知ったことか!」
妹のローラが顔を出す。そして凄い形相で俺をにらめつける。
「俺は帰るつもりはない!」
「車の中にきてください」
「話が通じないようだな」
その、ある意味純粋とも言える、人の事を全く考えられないデハに恐怖感を覚えた。愉快犯だと思った。しかし敵意が本当に存在しないようにも思えた。
「俺は・・・どうしたらいいんだ、みー」
「カイはここを離れていて、デハの話は聞かないほうがいいし、見ないほうがいいわ。私がなんとかするから」
「ありがとう」
「まさか、カイが本当に帰るなんて思ってはないわよね」
みづきは怒ったような声色でデハに言った。そしてデハの表情が一気に怒りの表情へ変わった。
「あなた一体何様のつもりなの?間に入らないでちょうだい。私はカイの親なのよ!!!」
デハは、怒りのためか、攻撃態勢に入った。
「やったらやり返されるのよ!!!!!ウォーターウォンテッド!!!!!」
水流が周囲を包み込む。俺たちはなんとか避けた。続けざまにデハは次の攻撃を繰り出した。
「デスロールガン」
「あれくらってたら即死だぞ…」
「こんな親でごめんね、カイちゃん聴いてるんでしょう?」猫なで声で彼女は言った。
カイは無言だった。
「あやまるぐらいなら、やめなさいよ!!!」みづきが声を張り上げた。
「カイちゃん一人じゃ何もできないんでしょう?戻っておいで〜私はあなたのこと小さい頃から見てるからよーく知ってるからわかるのよ。いつも、変わってるよねって言われて可哀想な子だったのよね(涙)」
カイはその言葉を聞いた途端まるでかなしばりにかかったかのように身体が動かなくなってしまった。
「ああ…なんでだ…ごめんみづき…からだが動かない…」
「カイ大丈夫!!??」
「俺は…」
「そうやって、カイを追いつめているのがわからないの?・・・私は絶対に許さない!カイをここまで苦しめたことを!!」
「うるさいっ!!!全部あなたが悪いのよ!!カイちゃんはあなたに洗脳されているの!!!もう一度いくわ。これはカイちゃんを助けるための正義の鉄槌よ!!デスロールガン!!!」
みづきはよけた。しかしその魔法は岩さえも粉砕してしまった。
「強力すぎるわ。いくわよ。ステンドグラシィ」
みづきの呪文はダメージを与える。
「ぐわあああああ…くっ若者は、馬鹿ばっかりだ。女!お前のような若者にいつもいらついていたんだよ!」
「言ってくれるわね・・くらいなさいサービステンデット!!」
「反射!!!」
「うっ・・」
「もう終わりだねみづきちゃん。情けないねえ。カイが醜いから肩を持つのかい?その甘いところがあなたの人生の敗因ね。あなたはダメな男ばかりと付き合ってきたんでしょ。ダメな男ばかりに騙されてきたんでしょ。そういう性格なんだよね!!!?」
「・・・うううう」
彼女も一瞬洗脳されそうになってしまった。その言葉の力強さからそれが本当のことのように感じてしまったからだ。しかしこう思い直した、私が助けなかったら、誰がカイを助けるの。みづきは最後の力を振り絞って思いっきり叫んだ。
「そんなんじゃない!!醜いからじゃない!!!大切だからよ!!!それに一度も駄目男だなんて思ったことはないわ。彼は苦難を乗り越えようとしている英雄よ!!!カイーー愛してるよーーー!!!!!」
「なんだと思えば、そんなことか。死ぬ直前に言えて良かったね。これであなたの惨めな人生も終わりよ。トリプルトライングルデザイア」
しかし、そのみづきの一言で彼の心に、自信が芽生えた。一筋の光が射した。
「キン!!!!」
金属音が鳴り響いた。
「カイ!!!」
「戦わせて悪かったな!何か吹っ切れたんだ。みづきは絶対に殺させない!!!!!『レインクロスグラウンド』」
「ほんと私を攻撃なんて変わってるね」
「俺変わってるから!!!」
強力な剣技はデハを一気に戦闘不能に追い込んだ。
「ふっは…ふっはっは…」彼女は言葉を発しながらも動かなくなった。
「カイ、あんなこと言われたけど私はそうは思ってない。最近わかったのは、何考えてるかわからないって不思議に思われるのは、いろんなこと考えてる。他の人よりいろんなことに悩んで、考えて、ゆっくり言葉にしてる。」
「ありがとう!泣泣泣」
そして、そんな感傷に浸りながらも数分が経った。
「これ以上駄目よ。殺さないで」
そこに出てきたのは、実の妹であるローラだった。
「殺しはしないさ。しかしお前だって酷い思いをしてきたはずなのに、何故かばうローラ」
「産んでくれたのはこの人ただ一人なの。それに酷いことされてきたなんて思ってない。見殺しになんてできないわ。」
「俺には酷いことされてないなんていうその思考が理解できない…」
「私を助けて、全部謝るから…」そうデハは俺たちに言った。
しかしなんと、そこには、ガオの姿があった。
「お前寝返ろうとしたな!!絶対に許さない!!!こうしてくれる!!!」
「おまえ!!!」カイが叫ぶ。
「あ‘―――――――」デハの叫びが鳴り響いた。
「ああ、私はもう動けないわ…もう終わりなんだね…」 デハがどんどん、命がなくっていくのがわかった。
「お母さん!!!」ローラは叫ぶ。
「ハハハ、私は本当は自立した生活を送りたかったのかもしれない。なぜだか、この結果が幸せに感じてしまうよ。私はやっと飛び立てるのだと。自由になれるのだと。一度しまってから一度も出さなかった気持ちを思い出せた。ありがとう。」
そう言って彼女は目を閉じた。
「ふざけるな…」俺にはその一言しか出てこなかった。
「兄のせいでお母さんが!!!兄が逃げだしたりしたから!!!!!兄さえいなければ!!!!!次会った時は絶対に許さない!!!!!」そう妹は叫んだ。その怒りと憎しみと悔しさが彼女を包み込み、妙なオーラを発していた。
次の瞬間、ガオと共に妹は消えていった。ここから離れていく乗り物が見えた。
「涙が溢れてくる。もう居ないのね」そう彼女は呟き、目に涙を浮かべた。
「なんでもかんでも俺に押し付ければいいとでも思っているのだろうか…」
そうカイは思った。その表情を横で見ていたみづきはこう言った。
「カイが悪いわけじゃないよ。苛立ちの責任を全てカイに押し付けようとしているだけ。可笑しいのはカイじゃないわ。一緒に頑張ろう。」
みづきは笑顔でそう言ってくれた。こんな時でもいつも優しく支えてくれたのが彼女だった。わかってくれたのが彼女だった。
母は死んだ。だけど俺は涙なんて出なかった。理由はわからない。こんなもんなのだろうか。ただ産んでくれたことには、それでもここまで育ててくれたことには感謝している。彼女がいなければ、みづきと出会うこともなかっただろう。しかし、このような結末になってしまったことは決してよくはないのだろう。もっと違う結末があったのではないかと思っている。お互い死なずに、それでもってもう会わずに過ごしていく姿を想像した。それが難しいことだとはわかっていながらも。それでも、俺を苦しませていた何か、一部がなくなったことに何か開放感のようなものを感じた。
俺はこの海が見える場所にお墓を作り祈った。目を開けた。そして放心状態でしばらく時間が経った。いい天気で爽やかな風が吹いていた。
「カイ、いこうか。きっと何が正解かなんてないはずだよ・・・」
「話し合えば、わかりあえると思っていた…」
「カイは悪くない。話しても伝わらないことだってあるよ・・・決めたんでしょ。前に進もう」
「奴だってもしかしたら、被害者だったのかもな。ガオの」
「そうだね」
そして時間は刻々と過ぎていった。少し落ち着いた頃、ずっと思っていたなぜデハの前では動けなくなってしまったのか、と言う問いをアルバサに戻りなぎさに相談した。
なぎさはこういった。
「カイは俺たちの中では優秀な存在だが、あの親の中ではダメ人間としてあったんだろう。そしてその思い込みは、カイの行動さえも変えた。本当にカイを駄目な人間にさせたんだ。」
「でもなぜあの時、動けるようになったんだ。」
「物事には全て理由がある。自分自身で考えてみることだ。」
そしてしばらく眠った。気づけば隣にみづきがいた。
「奴の言葉に怯えて臆病になったのかもしれない…」なんとなくそう呟いた。
「臆病になる必要なんてないよ。周りが認めてくれなくても自信を持って生きな。私だけは何があっても味方だから」そうニッコリ(とした)笑顔では俺に言った。俺は顔を赤らめることしかできなかった。
こうして、母デハとの闘いが終わった。
そして、キリアが元気良く言った。
「カイ、この近くに大きな街があるんだって!!行ってみようよ!!」
行く宛も無かった俺たちは、キリアの意見を承諾し、その街に向かったのであった。
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