第5話 特訓とトーナメント


 この街は、ビアンヌ。彼らはこの街でもまた情報探しに明け暮れていた。この街には、不思議な噂があった。その壺に手を入れると、限られた人にだけ、強くなるための剣術の極意が記された一冊の本が出てくるといったおとぎ話のような話で、誰も信じてはいなかった。カイとみづきとキリアはすぐさまその噂を嗅ぎつけそこに向かっていた。


「やったーカイ!みつけたよぉ〜」


「キリア本当か!?行ってみよう」


「なにか手掛かりが掴めればいいけど」とみづきは言った。


 大通りや繁華街から少し離れている場所で、今は誰もいない広場、その中に佇む一つの壺。まるで誰かを待っているかのように、広場の隅に設置された壺は、豪華さと裏腹に寂しげな印象を受けた。


 カイは手を入れた。そして、その瞬間、辺りは光に包まれた。そしてその広場が見える部屋から外を眺めていた1人の男。


「ほぉ・・それを出したのか。俺は運がいいなあ。まさかあの噂が本当だったなんてな。いい金儲けになりそうだ。」


「これは・・・!」


 その本の題名はこう書かれていた。


「最強の剣術」


「おい、お前、その本を俺に渡せ、俺のだ」


 一人の男が上から飛び降りてきた。


「なにいってるの!どうみたってカイが出した本でしょ!」


「そんなことは関係ねえ。これを売ればきっと大儲けだぜ」


「はっ」


「なにっ!早い」


 砂煙が舞う。次の瞬間彼と共にその本は消えてしまっていた。


「やっとなにかつかめそうだったのに・・」


「きっとまた取り戻せるよ」 そうみづきは言った。


 そして夜が明けた。街の広場では騒ぎが起こっていた。


「号外です!あの壺の中身と思われる伝説の本が闘技場の優勝景品になったようです。トーナメント開催は1ヶ月後を予定しています」


「えっ」


「よしっ出るぞ」


「どうするの?今の実力じゃカイが優勝できるとは思えないよ」


「やってみなきゃわからないだろ!まだ1ヶ月ある!」


 この日カイは街中を回って誰彼構わずに、強くなる方法を尋ね始めた。人に聞く作業は長く続いていた。


「すみません少しでも情報があれば教えて貰いたいんです。強くなりたいんですけど、どうすればいいですか?」


「それならドユイのところへ行きなよ。町外れに大樹がある。彼の家はそこだよ。変わり者で、魔法なんてあるわけないと街の人に言われながらも昔から魔法の研究をしていたみたいだ。何かあるとしたらそこしかないね。あまりこの街にはこないから、行った方が早いだろう。」


「ありがとうございます。いますぐ、いこう、みー!」


「うん!」


 別行動をしていたキリアとも合流し俺たちはそこへ向かった。


「なんじゃお主らは」


 この人がドユイという人物らしい。


「すみません、強くなりたいんですけど、ご教示いただけませんか?お願いします!!」


「いきなりじゃな!笑。お前たちみたいに直球なやつらははじめてじゃ。気に入った。わしはこの街では随一の能力者じゃからな。これの何かの縁じゃ。」


「ありがとうございます」二人は一斉に首を下げた。


「そうじゃな、まずはわしと二対一の決闘から始めようかのお。二人の実力をみたいのでのう。そこの木刀を使うのじゃ。かかってきなさい」


 こうしてトーナメント戦に出場予定の俺とみづきとドユイの戦いが始まった。


「望むところだ、真剣勝負だ」


「みづき俺が前衛に行く。お前は後ろにいてくれ」


「うん。私だって少しはやれるはず。」


「はあああ!」


「ほお。なかなかの動きじゃな」


「ああああー」


 カイは再び斬撃を繰り出す。


「ハアアアア!!!!」


「はあはあ」


「息切れが早いぞお」


「もう一回だ!あああああ!」


「なぜ何回やっても当たらない」


「ファイアボール!!」


「なにやっとる。そしてどこにうっとる。」


「はああああ」


 刹那、ドユイはカイの背後に一瞬にして周り、杖でカイとみづきの頭を軽くたたいた。


「ドン!ここまでだな!」


「私何もできなかった」


「さすがですね・・・」


「まずは一試合戦えるだけの体力をつけることじゃな。そして剣技も魔法も私に全く当たらない。まだまだ特訓が必要なようじゃの」


「よろしくお願いします!!!」


 カイとみづきは口を合わせてそう言った。


「今日から試合までここで合宿じゃ」


「はい!お願いします!!!」


「キリアはどうするんだ!?」


「私は街で、仕事誘われてるし、そこでお金を稼いでくるわ。お金大切でしょ。冒険って。」


「そうか。わかった」


 こうして訓練の日々が始まったのである。


「わしは、剣技はあまり得意ではないが、基本的なことは教えることができるぞ。魔法は十八番じゃがな」


 大樹の中は思っていたよりもずっと広い空間であり、ここに彼が一人で住んでいることは考えられないぐらいだった。まずは、体力づくり。死ぬほど俺は走った。


「ビルドアップ走だ。それから千五百メートル走。千五百メートルはは最低でも四分以内だ。特にカイ。みづきは五分以内を目標に頑張れ」


 毎日、最初にランニングを行なった。


「休むな。お前が休んでいる間、他の参加者は練習しているぞ」


 そのあとが、実技だった。


「カイまだまだ振りが遅い!素振りを続けてくれ。みづきは、魔法力を高めるために瞑想を行ってくれ、そのあとにわしが魔法の手本をみせて教えてやろう」


「はい!」


 ドユイは魔法の達人だけあって、特にみづきを中心に教えていたので俺は与えられていたメニューを淡々とこなした。


「みー一日中稽古しまくりだったな。大丈夫か?疲れてないか?」


「大丈夫。強くなるためだし」


 ドユイは魔法使いということもあるため、未だに俺の訓練よりみづの訓練に特に力を入れていた。


「みづき、強く念じるんじゃ。誰かを助けたい。守りたい。そして強くなりたいと。そうすれば道は開ける。」


 その思った途端に強くなった気がした。キリアはたまに帰ってきて、こちらに時たま顔を出しに来るのであった。


「キリア!」


「やっほー」


「ほんとに特訓しなくても大丈夫か!?」


「私の場合は特訓するんじゃなくて自由に学んだほうがいいの。経験則からね。」


 そんな日も過ぎ去り、あっという間に一ヶ月がたっていた。そうして、今トーナメントが始まろうとしていたのである。





 五月一日。花火の音が鳴り響く。俺たちは予選会も無事に終え、競技場というステージに乗り入れていた。


「ついに始まりました出場予定人数は八人でございます。予選会で選び抜かれた八人です。頂点を決めます。そして今回は豪華商品の為、出場人数もいつもより多くなっておりました。では名誉会長のドユイさんのお言葉です。」


「今回はご来場頂き誠にありがとうございます。今回も楽しんでいただければ幸いです。賞金の他に商品があり、盛り上がるかと思います。みなさん選手の正々堂々と戦う姿を見て白熱しましょう!!!」


「カイ!みー!見てるよ!!二人とも頑張ってきてね!!!」


「ありがとうキリア!あれ?どゆって名誉会長だったんだ」


「驚いたな。まあいくぞみづき」


 カイはキリアに手を振りながらそう言った。二人とも2回戦まではなんなく勝ち上がり、残りは準決勝と決勝であった。みづき、ジェインのグループとなぎさ、カイのグループであった。なぎさは一瞬で敵を倒し、ジェインは天才的な魔法力でここまで上がってきていた。


「まさか、誰がこの人の復活を予想したでしょうか?かつて天才児と呼ばれ最近まで姿を消していたジェインが魔法を擁しての登場です。そして反対コーナー、魔法美少女みづきの登場です」


「魔法対魔法か!面白い」


「私は負けないわよ」


「よーい、はじめ」


「火炎魔法、ファイヤーライジング」


 炎が稲妻のような音を出しながら、みづきの元に向かっていく。このぐらいの魔法ならどうってことないわ!


「ウォーターレイ」


 尖った水の刃が炎を粉砕しジェインの元へと向かう。


「ぐわっ。なんて威力だ。しかしなぜ俺が負けなきゃならない。俺は天才だ。お前とは違う」


「そろそろ自分の実力を認めたほうがいいわよ。いくら天才でも努力しなきゃ才能は開花しないわ!これで最後よ!ファイヤーボール」


「うわああああ」


みづきは決勝進出を決めた。

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