第2話 新たな出会い
警備をかいくぐり、イカダに身を潜め、川を進み、初めに辿り着いた街は、ペチュニアという街だった。心の安らぎという意味合いがあるらしい。期待はしていなかった。何も。俺が、花の綺麗な公園で座っていると、洋服を売っているお店の看板が見えた。生きていく為就職活動を考えていた。俺はなけなしのお金でスーツを買いに行った。
俺は無我夢中で店員がどのような人か顔も見なかったが、話しかけた後に気付いた。これが運命の出会いだった。同い年ぐらいの少女だった。
俺は店内で彼女と会話しながらスーツを選び、今までの経緯を自然に彼女には話してしまった。今仕事がないこと、お金がないこと、頑張らなきゃいけないということを。彼女には何か話しやすい、そんな魅力があったからだ。そんな俺の事を優しく慰めてくれた。励ましてくれた。
「これ似合いますか?」
「似合いますよ!」
そんな言葉が行き交う。
「これもっと安くできるか聞いてきますね。」そう言い終えると彼女はバックヤードへ行き、上司と相談をして洋服をかなり安くしてくれた。
洋服を選んだあとも彼女と話をした。
「アプリで登録するともっと安くなりますよ。お店のwi-fi使えますよ。」
「無料Wi-Fiは危ないって言われてるから…」
この時の自分は何に対しても怯えていた。個人情報がどこから奪われ、家族に渡るかわからないと。流石にこれは心配のしすぎで、言った直後に否定されると思った。
「そうなんですね」初めて知ったという表情と声色で彼女は優しく真剣に受けとめてくれた。
彼女は俺の心配しすぎな話にも、否定せず、共感してくれるような優しい子だった。それが暖かかった。そして、最後に彼女はこういった。
「なんでそんなに苦しそうにしてたのか見ただけでわかる。今夜うちに泊まっていっていいか店長のお父さんに聞いてくるね。」
言い終えると彼女はバックヤードに消えていった。俺はびっくりして声を出せなかった。心が通じ合うようだったからだ。5分ほどすると、彼女は帰ってきた。
「泊まっていっていいって」
「ありがとう。本当に嬉しい!!!」
お会計のあとレシートで初めて名前を知ったのだが、彼女はみづきと言うらしい。俺は、初めて感動というものを知った。たった一日だろうが、こうやって優しい人もいるんだなと。この街が名前の通り特殊なのかもしれないが、とにかく嬉しかった。
「どうぞ、ようこそいらっしゃいました!」
どうやらこの人がみづきの父らしい。
「うちのおとうお人好しだから!」
「ありがとうございます!本当に嬉しいです!あの…何か手伝うこととかありますか?なんでも手伝いますんで、何かあったら言ってください」
「今はないな!あったら頼むとするよ!ありがとう。…それにしても、何かあったのかい?いや、言いたくなかったら言わなくていいんだよ」
俺の、顔色を見て察したのか、そのあとは何も聞かなかった。恐らく、この人たちには俺の人生なんていっても理解されないだろうと俺は知っていた。
「まあでも、みづきが気に入ったみたいだから、ここで働かせてあげてもいいんだけど」
「お父さん、きっとカイには他にやりたいことがあるんだよ。やめなよ」
「ああ、そうか。ごめん」
しかし、カイは言った。
「本当ですか?是非お願いします!!」
俺は数日そこに泊まり、それから一人用の部屋を借りた。そして、俺とみづきが、一緒に働き始めて一ヶ月がたった。仕事もやっと落ち着いてきていて、この日は初めて二人で過ごす休日だった。街を回ったあと、俺達は、河川敷にきていた。河川敷には、中央の高いコンクリートを隔てて、両側に斜めに綺麗で長さの整った芝生が養成されていた。右側には公園や自然でできた迷路があり、左側にはスポーツを行える芝生があった。
俺達は、その斜めの芝生の上に横たわりぼっーとしていた。風の流れ、川の音、その全てが心地よかった。これからどうしようか、そんなことを、手を頭に回しながら考えていた。そして、しばらく時間が経った。空の色が濃くなっていって、芝生に横たわり上を覗くと、満点の星空が見えた。俺もあの星のように輝いている存在にになりたいなと思った。
「カイ大丈夫?悩んでるようにみえる」
「いやなんでもない、みづきがいて嬉しいさ。そんなことより今は楽しもうこの時間を」
「うん」
二人は芝生に寝そべった。
「こうやって寝ていると気持ちいいね。そして、風も心地いい。あの星おじいちゃんかなあ」
「あまり馴れ馴れしくするなよ」
「そんなつもりないってばーもう」
「この広い星空を見ていると、悩みなんてどうでもよくなってくるよ」
「うん、ずっとこんな時間が続けばいいぐらいだね!」
「こうやって空をゆっくり眺めるのも久しぶりだ・・・あ、流れ星」
「・・・」
「なにかお願いしてたな何をお願いしたんだ」
「カイが幸せになれるようにってね」
「バカ、恥ずかしいだろ」
「フフフ」
三ヶ月後、カイは一人前になり、貯蓄も多くできた。邪魔されない暮らしが安らぎをくれた。それでもカイはある感情を忘れてはいなかった。ガオに怯える恐怖を。ガオに支配される恐怖を。そして、もし支配者に見つかってしまったら、ここにいることは長くは持たないことを知っていた。そして、運命の日がやってきたのである。お店に、ガオ達がやってきたのだ。
「すみません、私の子供なんですけど、カイというこの写真の子はいませんか?」
「きていないが。どうしたんだい」
みづきの父はそう答えた。
「探しているんです」
その後にガオが言った「心配してる」という声が、俺には愛を装っているようにしか思えなかった。
「あんなに酷いことしてきたのに…俺とイオの時も…」
俺は裏方にいて危うく遭遇を免れた。みづきの父は一度は怪しんで俺がいることを言わないでいてくれたらしいが、その後は不審がられるばかりだった。俺は彼女たちにこの事を言っていなかった、心配させてはいけないと思ったし、関係性が築いてない時にその事を言って拒絶されるのが怖かったからだ。
そして俺はみづきと時間を作りこの事を話すことに決めた。相談があると言ったら、みづきがカフェにつれて行ってくれた。少し街の中心部から離れた、路地裏の個人経営の小さなカフェ。優しい人柄の店主が迎いいれてくれた。
「いらっしゃい、4人がけの席でもいいですよ」
こちらメニューです。俺たちは、コーヒーを頼み、木でできている少しおしゃれな机にコーヒーが届いた。
「どうしたの?」みーは弱っている俺を見て、心配そうに俺の目を見て言った。
「長くなるんだ…」
俺は今まで起こったこと全てみづきに話した。何度も追われたこと。そして今そんな状況になっていることを。
「ごめんね・・・遅くなって・・・気付いてあげられなくて・・・そんな事があったんだね…君が引け目を感じることはないよ。」
「どうしよう。」
「どうしようか。色々限界だよね…」
「うん…」
「取り敢えず、今住んでいる場所は捨てて、大切なものだけもってうちにこようか。そうすればきっとうちのおとんが助けてくれる。」
「本当に?・・・ありがとう。でも今日はもう少し休みたいからここにいたい」
そう言って俺はここで軽い眠りについたのだった。気づけば俺は夢の中だった。 悪夢ばかりだった、あの頃が嘘みたいだ。みづきの優しさが悪夢を消したのだろうか。夢の中では暖かい何かが見え、何か暖かい未来が見えるような気がする。暖かい誰かが自分を導いてくれるようなそんな夢だった。
「カイ、起きた?二時間近く寝てたよー笑」
「ずっと近くに居てくれたんだね、ありがとう、みー」
もうすぐ、時刻は十一時を回ろうとしていた。
「まだ、お父さんも起きてるだろうし、帰ろっか!笑」
「ああ、悪いな」
「こんな長く居させてもらってありがとう」
みづきはたまにここに来ていたのであろう。店主に挨拶を交わし外に出た。そしてみづきの家に向かった。
「ただいま。おとさん」
「みー、今日は遅かったな!」
「ちょっと出掛けててね」
「おとん、少し話があって。カイをうちに居候させて欲しいの」
「その話なら駄目だ」
「なんでよ!」
「あの人は子供を心配しているいい人にしか見えないぞ。けじめをつけろ」
「そんなのないよ!!」そうみづきは言うと、カイを連れて飛び出して行った。
二人はファミレスに行き、疲れ切ってしまっていたのかそこで寝てしまった。朝目を覚まし、そしてカイは最後の挨拶のつもりで彼女にこう言った。
「俺はこの街を出ることにするよ。そして、強くなる。誰よりも。俺はこの環境に甘え過ぎた。周りに迷惑をかけ過ぎてしまった。」
「だったら、私も行く。私は見捨てられないし、カイがす・・・」
「そろそろ行くな。これ以上大切な人を巻き込めない。ありがとうおかげさまで助かったよ」と言い残して、彼は消えた。…いつまでも、彼の中に眠っていたものは、彼の中の闇であった。どこに行けば終わりが来るんだ。何処にいても見つかるかもしれないという、不安に苦しめられる。それは仕方ないんだ、と自分を納得させながら、彼は道を進んでいった。
みづきの決断に迷いはなかった。あの人に幸せになって貰いたい。その一心で行動をしていた。みづきは家族にばれないように、一度家に戻り、貯金や貴重品など必要なものを持って、彼を追いかけた。彼に追いついたのは一時間後のことだった。
「カイ!!きたよ!」
「みづき!!きたのか・・」
「私はカイと一緒に行く!どんなに地獄で絶望ばかりの世界でも!」
「みづき、ありがとう!!」
顔に涙を滲ませなからそう言った。
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